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戦闘機購入問題


スイスの空の安全 グリペン購入を巡り議論


オリヴィエ・ポシャール


 (Keystone)
(Keystone)

記憶に新しいエチオピア航空機のハイジャック事件。旅客機が乗っ取られジュネーブ空港に緊急着陸したが、「空域の安全保障」という重大な任務を担うはずのスイスの軍用機は最後まで姿を見せなかった。戦闘機「グリペン」の購入をめぐり激論が交わされる中、スイス空軍の弱点が露呈した事件だったが、議論に終止符を打つ決定打にはならなかったようだ。

 2月16日早朝、イタリア・ローマ行きのエチオピア航空機が上空でハイジャックされ、スイスへ向かった。その後イタリア軍の戦闘機「ユーロファイター」、続いてフランス軍の「ミラージュ2000」に監視・誘導されて飛行を続け、ジュネーブ空港に緊急着陸した。一方スイス空軍はというと、その「存在」は際立っていた。業務時間外だという理由で出動しなかったのだ。

 幸いにも乗員乗客は全員無事だったが、この事件でのスイス空軍の対応は国内外の嘲笑を買う結果となった。だが、スイス士官協会(SOG/SSO)のドゥニ・フォワドヴォー会長にとっては笑える状況ではない。「今回のハイジャック事件は、最悪の事態にもなり得た。この事件を良い教訓として、政治家は目を覚ますべきだ」と、国営ラジオで主張した。

FA18戦闘機は?

 この事件に関しウエリ・マウラー国防相は記者会見で、スイス空軍が24時間体制で出動できない理由に「人員不足」を挙げた。だが、この問題には解決の糸口が見えている。政府は2010年に、緊急出動要請に常時対応できるよう空軍の人員拡大を決定したからだ。パイロットを新規に採用・養成し、2020年までに空軍は24時間体勢となる見通しだ。

 だが、人員と予算の拡大だけでは問題は解決しないようだ。マウラー国防相はこの機を逃すことなく「長期的に空軍の稼働能力を高め空の安全を保障するには、スウェーデン・サーブ社製の戦闘機グリペン22機の購入が必要不可欠だ」と強調。また、現在空軍の所有するF5タイガー戦闘機54機が間もなく耐用年数に達し、2016年には退役予定であることも付け加えた。

 しかし、F5タイガーを手放しても空軍にはまだ完全に機能する32機のFA18戦闘機が残る。将来的にもスイスの軍用機が国外に出動したり外国軍から攻撃を受けたりする危険性は極端に低いとして、グリペン購入反対派は、当面の任務である「空の安全保障」には既存のFA18で十分だと主張する。

 また、反対派のホームページにはこう書かれている。「同レベルの近隣諸国と比較しても、スイス空軍はすでに、空の安全を保障するためには十分な数の戦闘機を所有している。それに、数億フランをかけて機材を一新 したばかりで、危険でもない空域を守るのに、新しい戦闘機は必要ない」

 では、グリペン購入は必要不可欠か、ただの贅沢か?軍事専門誌ルヴュー・ミリテール・スイスの編集長で、ジュネーブのウェブスター大学教授でもあるアレクサンドル・ヴォートラヴェール氏は、FA18戦闘機の数は相対的にみるべきだと言う。

 同氏はスイスインフォの取材に対して「確かに、戦闘機の数だけをみれば多いように思われるだろう。だが、空軍にとって重要なのは『出動時間の長さ』だ。戦闘機は非常に専門性の高い複雑なメンテナンスが必要とされるので、稼働率が高まり常時出動態勢を整えておくとなると、現在の数では足りない。幾度となく試算された結果、32機の戦闘機で24時間体制を保証出来るのは、3週間が限度だ」と回答した。

超高級車フェラーリではなく四輪駆動車を

 購入数に加え、その機種も議論の対象となっている。サーブ製のグリペンが選定されたことに関しては、戦闘機購入賛成派の中でも意見が分かれている。賛成派の多くは、より性能の高いフランス製のラファール戦闘機かヨーロッパ4カ国が開発したユーロファイターを望む声が上がっていた。

 

 だが、これらの戦闘機よりも価格が低いという理由から、連邦議会は政府のグリペン選定を承認した。

 軍事問題に詳しい専門家の間でも、高級戦闘機ではなく実用的なグリペンの選定を肯定する声は多い。「グリペンは、空の安全確保という技術的には難しくない任務には非常に適している。任務に唯一必要な条件は『速さ』だ。グリペンもラファールもユーロファイターも、十分な速さを備えている」と言うのは,軍事情報に詳しいフランス人記者のジャン・ドミニク・メルシェさんだ。

 前出のヴォートラヴェール氏も、「グリペンの導入により、空軍の担う空域保全という任務を十分に遂行することができる」と追認する。「グリペンがあれば、この先30~40年は安泰だ。今日戦闘機に最も求められるのは、軍事装備の精密さと電子機器の性能だ。機能性からみればグリペンのような『控えめな』戦闘機の選定は妥当だろう」

通常と緊急の任務

スイス空軍の任務は次の二つに大別される。

「ライブミッション(Live missions)」:通常任務。外交上の目的でスイス領空を飛行する外国航空機の護衛など。一般旅客機は問題が生じた場合のみ監視・護衛。

「ホットミッション(Hot missions)」:緊急を要する任務。航空管制塔が無線連絡を取れない航空機や、飛行禁止空域に侵入、または誤った高度を飛行する航空機の監視など。

スイス空軍は2012年、10件のホットミッション(前年14件)、207件のライブミッション(同350件)を遂行した。

国土の保全義務

 エチオピア航空機のハイジャック事件では、空域保全には国際的な協力体制が整っていることが示された。スイスは近隣諸国と協定を結び、外国軍機にスイス領空の継続飛行を許可している。今回はこの協定のもとに、フランスの軍用機がエチオピア航空機を誘導し、ジュネーブ空港に着陸させた。

 実際に、重要な国際イベントや事件、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)などの際は、各国が連携して空域保全に努めている。だが、外国軍機の介入は護衛のみに限られる。問題が生じた場合でも、スイス領空で外国軍機が航空機を撃墜することはできない。

 各国間の連携で無事に済んだ今回の事件を踏まえ、協定から一歩踏み込んで、空域保全の任務を近隣諸国に委託してしまうことはできないのだろうか?記者のメルシェさんは、「もちろん、できないことはない。ただそのためには委託費がかかるだろうが、技術的には十分に実現可能だ。既にヨーロッパにはそういうケースがある。例えばスロベニアはイタリア軍に、バルト諸国は北大西洋条約機構(NATO)に任務を委託している」と答える。

 しかし、ヴォートラヴェール氏はこう語る。「欧州連合(EU)内では現在6カ国が自国の空域保全を外国軍に委託している。それが可能なのは、これらの国が相手国と有利に交渉できたからだ。だが、スイスはEUにもNATOにも加盟していない。また国際法上、(中立国として)自ら領土を防衛する義務がある。他国に空域保全を委託すれば、スイスは事実上手段を選ぶことも、指揮をとることもできなくなる。そのような危険をはらんだ手段が、政治家の支持を得られるとは到底思えない」


(仏語からの翻訳 由比かおり), swissinfo.ch



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