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新ゴッタルド基底トンネル、ついに貫通

貫通後に思い思いの旗を振り、体中で喜びを表現する作業員たち Keystone

今日10月15日午後2時17分、新ゴッタルド基底トンネルがついに貫通した。貫通式では、作業員が最後に残された厚さ1.8メートルの岩盤を掘削し、トンネルが南北を突き抜けた。

スイス南部のゴッタルド山塊の地中を縦貫する新ゴッタルド基底トンネルは、全長57キロメートルの世界最長の鉄道トンネルだ。

世界記録

 「新ゴッタルド基底トンネルの貫通でわれわれは非常に興奮しています。このプロジェクトに携わった全員が、世界新記録の達成にかかわったことを非常に誇りに思っています」
 と工事を請け負った「アルプトランジット社 ( AlpTransit ) 」の広報担当者ラヘル・プロブスト氏は語った。

 午後1時、舞台監督フォルカー・ヘッセ氏による音声・映像スペクタクルを使った貫通式が始まった。スピーチの後に祈りが捧げられ、午後2時に東トンネルの掘削機が作動を開始。ファイド ( Faido ) 側から掘り進み、参列者が固唾を呑んで見守る中、両側を隔てる壁に徐々に亀裂が入っていった。17分後、掘削機はようやくセドルン ( Sedrun ) 側にその姿を現し、会場は歓声に包まれた。

 その後2時40分頃、ファイド側の作業員が貫通した穴を掘削機の通路を通じて「聖バルバラ」の像とともに通り抜け、セドルン側の作業員と握手を交わした。掘削機の前に集まった作業員たちは、スイスの国旗のほかイタリア、オーストリアの国旗、グラウビュンデンやウーリ、ティチーノの州旗をかざしてトンネルの貫通を祝った。

最高の業績

 運輸大臣のモリッツ・ロイエンベルガー氏、在スイス欧州連合 ( EU ) 大使のミヒャエル・ライタラー氏、スイス連邦鉄道総裁アンドレアス・マイヤー氏も貫通式に出席し、その瞬間を目の当たりにした。

 欧州諸国の運輸大臣はルクセンブルグでの会議に出席するため、貫通式には1人も出席しなかったが、会場で全員が実況中継を見守っていた。新ゴッタルド基底トンネルを「素晴らしいプロジェクト」と称賛した欧州委員会 ( European Commission ) の運輸担当委員シーム・カラス氏は貫通式の欠席を謝罪している。 

 しかしロイエンベルガー氏は、それら欧州諸国の運輸大臣全員に新ゴッタルド基底トンネルを通過する電車の切符をすでに贈呈。ただしその切符が使えるようになるのは、トンネルが開通する予定の2017年だ。

 今月末に辞任するロイエンベルガー氏にとって、新ゴッタルド基底トンネルは、同氏が運輸大臣を務めた過去15年間における最大級の業績の一つになる。

 ロイエンベルガー氏はスイスインフォの9月のインタビューで、新ゴッタルド基底トンネルはスイスにとって計り知れないほどの重要性を持ち、ヨーロッパのインフラの建設に多大な貢献を果たしたと語った。しかし、この巨大プロジェクトの遂行は、リスクを伴う冒険的事業だったとも付け加えている。

 「議会でこのプロジェクトを擁護してきた過去15年間、『このプロジェクトは成功しない』と予言する悪意や疑いに満ちた声が常にありました。トンネルが建設されるのは貫通の後で、貫通に至るまでには地質上の危険が多数あります。従って、われわれは国民投票の前にこれらの点を明確に示しました。そして国民はそれを理解した上で賛成票を投じたのです」

ヨーロッパにとっての重要性

 新ゴッタルド基底トンネルは、アルプス山中の基底部を通過して、スイスの南北を結ぶ新しい鉄道路線の最重要部分となる。標高550メートル以下の地点に敷設された起伏の少ないルートを通過するため、チューリヒ・ミラノ間の走行時間は1時間半も短縮される。

 スイスの国民は、このトンネル建設計画の構想と支出を1990年代に承認した。トンネルの開通は工事が完成する2017年になる予定だが、アルプトランジットは2016年の年末までに完成する可能性もあると発言している。

 これまでに掘削された岩の量は推計2400万トンと、エジプトのギザにあるクフ王のピラミッドの約5倍の容積に相当する。またトンネルの合計総工費は97.4億フラン ( 約8330億 円 ) に上る。

 ロイエンベルガー氏が指摘したように、これまで新ゴッタルド基底トンネルの建設を危ぶむ声は多々あった。そして事実トンネルの建設は常に順風満帆だったわけではない。

問題を克服

 アルプス山中にはさまざまな地質が存在し、それがトンネルの建設工事に問題を起こしていた。砂糖の粒のような白雲石から成る崩れやすいピオラ地層のせいで、トンネルの建設計画全体が停止に追い込まれたこともあったが、技術者が地中のさらに深い地点に強固な地層を発見し、工事が再開された。またセドルンの北にある砕けやすい岩は、高度な掘削技術を使用することによって解決された。

 トンネル貫通の日が迫る中、いくつかの批判的な記事が紙面の表紙を飾り、緊張が高まっていた。チューリヒの日刊紙「ターゲス・アンツァイガー ( Tages-Anzeiger ) 」は、3億5000万フラン ( 約299億4000万円 ) の建設費の追加が必要になったことや、排水溝の欠陥問題などを報じた。

 地元住民や関係者など約3500人はトンネルのさまざまな地点から貫通式を見、一般の人々はテレビやスイスインフォで実況中継を視聴した。また貫通式にはスイス国内外のメディア約150社が参加した。

 新ゴッタルド基底トンネルは、日本の青函トンネル ( 53.85キロメートル ) を抜いて世界最長のトンネルとなるため、特に日本のメディアの参加が目立った。

 「緊張はしていません」
 と貫通式を目前にしたアルプトランジットの幹部レンツォ・シモニ氏はスイスのテレビ局に語っていた。むしろシモニ氏は、昼夜の区別なくトンネルの建設工事に従事してきた作業員たちが無視されることを心配していた。

 シモニ氏にとっては、作業員たちこそが「貫通式の本当の主役」だからだ。

1947年:バーゼルのエンジニアで都市計画技術者カール・エドゥアルド・グルナーがゴッタルド山塊の地中に基底トンネル建設の計画を提唱。
1962年:アムシュテーク ( Amsteg ) ~ジョルニコ ( Giornico ) 間にトンネル建設の初計画が持ち上がる。
1971年:スイス連邦鉄道に、トンネルの建設計画を1975年に提出するよう連邦政府が要請。
1990年:スイス政府が、レッチュベルク ( Lötschberg ) とゴッタルドの基底トンネル建設を想定した「( 輸送 ) ネットワークの改良型」を推進。
1992年:国民投票で63.6%のスイス国民が、レッチュベルクとゴッタルドの2本の基底トンネルを建設する計画を含む「アルプス縦断鉄道計画 ( NEAT/NRLA ) 」を承認。
1994年:輸送手段を車道輸送から鉄道輸送へ切り替え、アルプスの自然保護を憲法で規定することを見越して、52%の国民が「増加するトラックでの貨物輸送からアルプスの環境を守るイニシアチブ ( アルプスのイニシアチブ ) 」を国民投票で承認。
1998年:国民投票と議会がNEAT/NRLAへの出資を承認。「アルプトランジット社 ( AlpTransit Gotthard AG ) 」が工事を請け負うことに決定。
1999年:準備調査の後、レッチュベルクとゴッタルドで掘削作業が開始。
2007年:レッチュベルク基底トンネル開通 ( 34.6km ) 。
2010年:新ゴッタルド基底トンネル貫通。
2017年:新ゴッタルド基底トンネル開通予定。

新ゴッタルド基底トンネル ( 2016~2017年開通予定 ) とチェネリ基底トンネル ( 2019
年開通予定 ) の特徴は、建設中のトンネルが敷設されている場所の標高が、最高550mに抑えられていることだ。既存のトンネルの標高は最高1150mと、それら2本の基底トンネルよりはるかに高い場所にある。

スイスを縦断するルートはより平坦になる上、40kmも短縮されるため、乗車時間も短くなる。また、貨物列車も車両数を増やし、積載量を現在の2000トンから4000トンと2倍に増やすことが可能になる。さらに運転速度も最高2倍にまで上げることができるようになる。

新ゴッタルド基底トンネル、チェネリ基底トンネル、レッチュベルク基底トンネル ( 2007年開通 ) の3本は「アルプス縦断鉄道計画 ( NEAT/NRLA ) 」の主要プロジェクト。
世界最大級の建設計画の一つであるNEAT/NRLAには、スイスを南北に縦断する鉄道路線の延長も含まれている。

( 英語からの翻訳 笠原浩美 )

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