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新型コロナウイルス対策 政府公認の感染追跡アプリに疑問の声

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政府公認の追跡アプリに懸念の声が挙がっている

(Keystone / Francisco Seco)

ロックダウン(都市封鎖)緩和が始まった今、新型コロナウイルス感染の追跡はデジタルで行われる。スイス連邦議会は5日、感染追跡アプリの導入には法的根拠が必要だという動議を可決した。一部の人は、このアプリが日常生活に戻る一手になると期待するが、プライバシーの侵害を懸念する人もいる。

欧州は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)対策で取られた「人口昏睡」から徐々に目覚め始めた。ロックダウン緩和を進めながら感染の第2波を回避すべく、スマートフォン上のアプリで感染を追跡するシステムが、世界中で開発されている。だがこのアプリに関しては、一般市民、果ては研究者らの間ですら疑問の声が挙がる。

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新型コロナウイルス

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大し、スイス政府は全国民に外出を控えるよう勧告している。この特集では、スイスでの感染状況や政府の対応、企業の動きなどを追う。

連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)、同チューリヒ校(ETHZ)などが開発したスイス発の追跡システム「DP-3T」は、5月13日からテスト試行が始まる。ユーザー自身が任意でアプリをダウンロードする方式で、アプリが使うのは端末のBluetooth機能だ。位置情報は検出されないし、全てのプロセスは匿名化される。アプリはBluetoothを使い、濃厚接触したすべての端末(2メートル以内、15分間以上)の記録を保存する。その後ユーザーのだれかに感染が判明した場合、アプリを通して、過去に濃厚接触した端末に警告を出す。単一の外部サーバーに情報を保存する方法は取らず、データは分散化して保存される。

臨時議会では、ユーザーのプライバシー保護を疑問視する意見が出た。このため議会は5日、アプリを立ち上げつつリスクを最小限に抑えるためには、法的根拠が必要だとする動議を可決した。中道右派・急進民主党のダミアン・コティエ議員は「企業・機関が顧客、訪問者にアプリの使用を求めるような事態は避けなければならない」と訴えた。

スイス国民はスマートフォンの追跡アプリを支持

スイスの調査会社ソトモがスイス公共放送協会(SRF SSR)の委託を受けて実施した調査で、回答者の6割が感染追跡アプリをスマートフォンにインストールしても良いと答えた。ドイツ語圏は59%だったが、ウイルスの影響がより深刻なフランス語圏は61%、イタリア語圏は72%とわずかに高い。調査の担当者は、アプリに賛成する人が実際にダウンロードまでするのかは不明だといい「それには適切な情報周知キャンペーンが必要だ」と指摘する。

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アプリの効果を高めるためには、大勢の人に毎日使ってもらう必要がある。その数字として、スイスで最も人気のあるコミュニケーションアプリ「ワッツアップ(WhatsApp)」と同等の普及率60%がよく引き合いに出される。コティエ議員は 「だからこそ、国民が信頼できる強固な基盤を確立することが重要」。しかし、一部の感染症学者は、アプリケーションの普及率が20〜30%でも、パンデミック抑制に十分役立つと指摘する。

「企業・機関が顧客、訪問者にアプリの使用を求めるような事態は避けなければならない」

ダミアン・コティエ、急進民主党議員

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アプリはスイス軍がテストしている

(Keystone / Laurent Gillieron)

政府は「できるだけ早く」進展させる必要があるとして、特定の法的根拠があればプロジェクトを実行することができるという判断に踏み切った。連邦内閣は声明で「感染者の個人情報を把握するのは主治医、感染者追跡をしている州の担当部局だけ。加えて、これらの人々が承認コードを送信することで初めて、感染者が匿名でシステムに感染を報告できるようになる」とした。

「使用しない方が無難」

しかし政府の議論は、一部の専門家にとっては不十分に映った。ローザンヌ大学教授でサイバーセキュリティの国際的専門家であるソランジュ・ゲルナウティ氏は懐疑論者の1人だ。同氏は、アプリ乱用を予防する」には法的根拠が必要だという議会の決定を歓迎する。「法律を作ることによって市民の議論が開かれ、デジタル技術の具体的な課題に対し解決策をどう模索すべきか、という話し合いが進む」。

 ソランジュ

ソランジュ・ゲルナウティ氏。2017年、ジュネーブで行われた記者会見で

(© Keystone / Martial Trezzini)

しかし、ゲルナウティ氏は、法的根拠が必ずしも万能薬にはならないと指摘する。「システムがハッキングされない保証はない。健康関連のデータに価値があるのは周知の事実なので、そういう動きは出てくるだろう」。匿名化されたデータから個人情報を抜き出すのには特定のスキルが求められるが、ハッカーたちはあらゆる手を使ってそれを手に入れることに成功するだろう、と確信する。「スイス製」は安全を保証するものではないとゲルナウティ氏は言う。実際このシステムはスイス発ではなく、スイスを含む国際コンソーシアムという枠組みで作られている。 「奇跡のアプリを見つけた国や、それが効果的であると証明した国はない。これらの状況下では、使用しない方が無難だ」

「奇跡のアプリを見つけた国や、それが効果的であると証明した国はない。このような状況では使用しない方が無難だ」

ソランジュ・ゲルナウティ

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セキュリティの問題以外に専門家が危惧するのは、緊急的にこのシステムが導入される点だ。ゲルナウティ氏は「アプリはテストもされず、検証する時間も十分にない。だが高く信用される。何かいいものを導入しようと考える時間はもう残されていないようだ」と懸念する。

編集部注:連邦内閣は8日の会見で、アプリはテスト試行後に本格的な実施を行うと発表しました。

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危機時に監視システムを了承することはリスクだ。後でアンインストールもされず、監視型社会を痛切に批判した作家ジョージ・オーウェルの小説のような世界が生まれるかもしれない。「パンデミック対策のため感染症学者に貢献するのか」。この問いにゲルナウティ氏は「もちろん。でも決して安くない」と答えた。

サイバーセキュリティ専門家たちも、これに同意する。このリスク分析他のサイトへが示すように、アプリの危険性を公然と批判する声がEPFLの中でさえも挙がっている。

情報システム学が専門のジャン・アンリー・モラン准教授は、フランス語圏のスイス公共放送(RTS)に「責任ある持続可能なものを手に入れるには、時間が必要だ」と語った。

Radio

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SRF, Rendez-vous, 6.5.2020: Start von Tracing-App verzögert sich

匿名性を保証

プロジェクトに参加するEPFLの研究者たちは、ここ数週間、アプリケーションの開発に1日15時間を費やした。EPFLの広報担当エマニュエル・バロー氏は「技術的には最終段階にきている。政府の決定が出れば、アプリをローンチできる」と語った。

セキュリティへの懸念については「アプリは匿名性を確保するよう設計されている」と強調する。「重要なのは、オペレーションが分散化されていること。ハッキングの標的になりやすい、中央のサーバーにデータが集まる仕組みではない。ユーザーの端末ですべてのプロセスが進む」

バロー氏は、ハッカーがシステムに侵入できたとしても、暗号化された情報しか入手できないと述べた。「ハッカーは誰にも紐づけられていないコードのリストを手にするだけ。この情報はたった2台の端末間でやり取りされた情報に過ぎない」と話す。

テクノロジーへの過度な期待は禁物だ。プロジェクトのITコンポーネントを担当するカルメラ・トロンコソ氏は週刊誌L'Illustréのインタビューで、期待が大きすぎることを認めた。「アプリが使うBluetooth技術は完璧ではない。接触情報が抜け落ちる可能性がある。また感染者と接触したことがあるという警告を受けたからといって、その人が必ずしも感染者だとはいえない」と語った。トロンコソ氏は、アプリを「ソリューション」ではなく「手動追跡を補足するもの」ととらえている。

選択肢を残す

アジア諸国のほとんどの国で、スマートフォンの位置情報を使ったCovid-19感染者追跡システムを使っている。様々な技術が開発されているが、一般的には通信会社から直接送信されたデータを使う、というものだ。ユーザーがそれを回避する手立てはない。

欧米諸国は、2月にシンガポールで開発された、任意型のアプリを踏襲する道を選んだ。位置情報ではなくBluetoothによる近接追跡型で、ユーザーの場所が特定されることはない。

ただシンガポールでは、接触情報はすべて政府が管理するデータベースに集められる。よってシンガポールのシステムは、公共の場所に入るたびにQRコードをスキャンするという大型監視デバイスとなっている。

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(仏語からの翻訳・宇田薫)

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