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新春、ぶらり列車の旅

新春の旅地図 swissinfo.ch

つい先日まで午後5時になると、すでに日が暮れて暗かったのが、冬至を境に、毎日1~2分ほど、日の入りの時刻が伸びてきています。天気の良い朝には、耳を澄ませば、小鳥のさえずりさえ聴こえます。2月、3月と、まだまだ厳しい季節が残っていますが、春の兆しが微かながら感じられる今日この頃です。冬が長い地域に住む者にとって、このようなちょっとした自然の変化が大変嬉しく、新春の喜びでもあります。ブログのコンセプトである「スイスで生活する人にしか体験できない日々の暮らしやトレンド、食、文化、習慣、生活情報などを伝えることを目的とする」に沿った話題を、2013年も紹介できるよう心がけたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

 私の住んでいるヴォー(Vaud)州レザン(Leysin)の役所では、カルテ・ジュルナリエ(Carte journaliere Commune)と呼ばれる特別料金の列車乗車券を1日に2枚限定販売しています。この乗車券、価格は40スイスフラン(約3800円)で、スイス国内の列車、バス及びボートを、指定された日に限り乗り放題できます。だたし、日帰りの利用に限ります。鉄道運賃が高いスイスでは、訪問先によっては大変お得な切符です。今回、この乗車券を使って、スイス在住歴34年、地図と時刻表を片手にスイス国内をくまなく訪問し、豊富な旅情報を持つ岸井典子さんと一緒に旅行しました。旅路は、レザン(Leysin)~エーグル(Aigle)~ブリーク(Brig)~シュピーツ(Spiez)~インターラーケン・オスト(Interlaken Ost)~ルツェルン(Lucerne/Luzern)~ベルン(Bern)~ローザンヌ(Lausanne)~エーグル(Aigle)~レザン(Leysin)です。

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 この旅のハイライトは、レッチュベルク(BLS)鉄道とツェントラル(ZB)鉄道、そして、ルツェルンにあるハンス・エル二・ミュージアムです。天気は曇りでしたが、長年、スイスに住んでいるにもかかわらず、両鉄道に乗車したことがなかったので大変楽しみです。エーグルからブリークまでは、スイス国鉄の長距離列車「インターレギオ(Interregio、略称IR)」を利用してローヌ谷を東に移動します。ヴァレー/ヴァリス州(Vallas/Wallis)シュテ-ク(Steg)駅を通り過ぎる頃から、左手山腹をよく見ると、往来している列車が見えてきます。これがヴァレー地方とユングフラウ地方(Jungfrau)を結ぶレッチュベルク鉄道です。1913年から列車運行を開始したレッチュベルク鉄道は、2013年に100周年を迎え、これに伴い様々な記念行事を企画しています。レッチュベルク線に乗車しブリークを出発した私たちの列車は、ローヌ川を鉄橋で渡り、その後、山に沿って徐々に標高を上げて行きます。

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 車窓から見えるローヌ谷の眺めは、曇っていたにもかかわらず素晴らしく感激でした。列車はホーテン(Hohtenn)でローヌ谷の眺めに別れを告げ、ロンツァ川沿いにレッチュ谷を走行し、レッチュベルクトンネルへと向かいます。 ヴァレー州ゴッペンシュタイン(Goppenstein)とベルン州カンデルシュテーク(Kandersteg)を結ぶこのトンネルの全長は14.6kmです。スイスアルプスを縦断する長大トンネルの一つで、特徴は、ゴッペンシュタイン~カンデルシュテーク間、自動車の輸送を行うカートレインが走っていることです。冬場は利用客が少ないため、乗降口である両駅には空の貨車がたくさんあります。トンネルを抜けた後、この旅で最も楽しみにしている2つのヘアーピン状に線路が敷かれた地区に列車は向かいます。一度、トンネル内で180度方向転換して高度を下げ、トンネルを出てから再度180度向きを変えて高度を下げます。トンネル内で列車がカーブを描きつつ走行しているのは実感できるものの、ヘアピンカーブ全体の景色を列車から眺望することはできません。また、ローマ風アーチ型橋脚を持つカンデル陸橋についても、今回は確認することができませんでした。次回は、ぜひ、カンデル陸橋を見てみたいものです。そして、約15分後、私たちの列車は、この線の終点であるシュピーツ駅に到着です。

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 インターラーケン・オストからは、2005年に社名変更をしたツェントラル鉄道を利用して、ルツェルン(74km)まで旅します。ブリューニック線と呼ばれるこの線は、ベルン州(Bern)、オプヴァルデン準州(Obwalden)、二トヴァルデン準州(Nidwalden)、ルツェルン州(Lucerne)を結んでいます。インターラーケン・オストを出発し、エメラルド色のブリエンツ湖や、アール川沿いの雪原を車窓から楽しみながら昼食をとります。偶然、二人とも持参したのは、おにぎりでした。マイリンゲン(Meiringen)に到着し、列車はスイッチバックして進行方向が変わります。ここからルンゲルン(Lungern)までの山岳路線(13km)には、ブリューニック峠があり、ラック式レールが敷設されています。かなり急勾配ですが、列車はくねりながら力強く登っていきます。峠を越えるとルンゲルンの町が見えます。コンパクトな町の景色は絵画のようで、レマン湖畔やローヌ谷に広がる葡萄畑の風景に慣れてしまっている私たちにとっては大変新鮮です。ルンゲルン湖、ザルネン湖、ルツェルン湖と湖畔を走り、列車はルツェルンへ向かいます。この沿線には、世界一の急勾配を誇るピラトス鉄道やガラス工場のあるヘルギスヴィル(Hergiswil)の町があることを典子さんが説明してくれました。インターラーケン・オスト駅を出発後、約2時間でルツェルン駅に到着です。

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 この旅の最終目的地は、ルツェルン市内、交通博物館内の一角にあるハンス・エル二・ミュージアムです。2013年2月、103歳になるルツェルン生まれのハンス・エル二は、絵画、壁画、ポスター、切手、陶芸、彫刻と、幅広い分野で創作活動をしているスイス人の芸術家です。1979年に開館したガラス張りの美術館には、300点以上の作品が展示されています。1階はミュージアムショップ、2階、3階の展示場では、エル二が現在のスタイルを確立するまでの変遷に作品を通して触れることができます。最上階にある会議場には、「パンタ・レイ(万物は流転する)」と題された壁画が両壁に描かれていて圧巻です。大変素晴らしい美術館ですので、ゆったりと時間をとって訪問すべきです。

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 冬の旅は寒く、天候によるダイヤの乱れもあるので敬遠されがちです。しかし、線路沿いの落葉樹林の隙間に、夏には見られない景色があります。また、乗客が少ない冬の季節は、2等車切符で専用車的な贅沢さを味わうことも可能です。今回の旅により、この国の美しさを再発見しました。鉄道王国と呼ばれるスイス。雪原を快走するスイスの鉄道は美しく魅力的ですが、その地位を築き上げるためには、多くの犠牲があったことも心の隅に留めておきたい事実です。

小西なづな

1996年よりイギリス人、アイリス・ブレザー(Iris Blaser)師のもとで絵付けを学ぶ。個展を目標に作品創りに励んでいる。レザンで偶然販売した肉まん・野菜まんが好評で、機会ある毎にマルシェに出店。収益の多くはネパールやインド、カシミア地方の恵まれない環境にある子供たちのために寄付している。家族は夫、1女1男。スイス滞在16年。

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