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映画鑑賞の年齢制限をスイス全国で統一へ

「英国王のスピーチ」でジョージ6世を演じたコリン・ファースはアカデミー賞主演男優賞を受賞 kingsspeech.com

今年のアカデミー賞受賞で話題の「英国王のスピーチ ( The Kings's Speech ) 」。現在スイスでも公開中のこの映画を家族で一緒に観ようと思うなら、まずはお住まいの州を確認してからにしよう。

観客の年齢制限は各州で異なる。吃音症の王ジョージ6世を演じるコリン・ファースを観るにはジュネーブ州なら7歳からだが、バーゼル州は9歳、ベルン州は10歳からで大人の同伴が条件だ。

無用の混乱

 大人が同伴しない場合、バーゼル州とベルン州では観客の年齢は12歳以上としている。さらに、チューリヒ州では12歳未満は観覧禁止だ。こうした無用な混乱を避けようと、7月1日、全国レベルの映画協会が設立される。この背景にはスイス映画配給協会プロ・シネマ ( Pro Cinema ) とスイスビデオ協会 ( Swiss Video Association ) の働きかけがあり、新設される映画協会は観客の年齢制限の統一を目指す。

 「各州が別々の年齢制限を行うにはスイスは小さすぎる。州間の差が著しい例はほかにもある」

 と、プロ・シネマの代表ルネ・ゲルバー氏は言う。実際には、ジュネーブ州、ヴォー州、チューリヒ州、バーゼル州、ティチーノ州にある五つの委員会が年齢制限を設定している。委員には警察や教育関係者も含まれる。大概、小さい州はこれら五つの委員会の決定を採用するが、個別に年齢制限を設けることは自由だ。

 しかし、首都ベルンだけは例外で各映画館が年齢制限を行っている。ただし、映画館の責任は重く、例えば不適切な映画を観覧したことで子どもがその後5年間の心理治療を必要としたという親からの苦情があれば、それは映画館が対処しなければならない。

 さらに、ゲルバー氏は映画協会の利点を配給会社の視点からも語る。

「もしあなたが配給会社なら、委員会のある5州すべてで映画の試写会を行わなければならない。つまり、5回上映することになる。ところが、委員会が一つなら、1回の試写で済む。配給会社にとって安く上がるだろう」

ドイツの年齢制限を導入?

 ドイツ語 ( スイス人の3分の2が使用している ) と英語の映画に関しては、ドイツの年齢制限区分 ( 0、6、12、16、18 ) を「輸入」しようという動きがある。フランス語とイタリア語の映画に関しては、新協会が試写する必要があるだろう。または、州が配給会社に年齢制限の統一を任せるかだ。

 ゲルバー氏は映画「ハリー・ポッター  ( Harry Potter ) 」を例に挙げて詳しく説明する。

「ドイツの自主規制組織FSK ( Freiwillige Selbstkontrolle der Filmwirtschaft ) が規定した年齢を採用し、映画協会に提案することになるだろう。もしそこでゴーサインが出れば、スイス全国でその年齢が使われる。しかし、拒否された場合、協会が映画の試写を行い別の判断を下すことができる」

フランス語圏からの反対

 こうした改革は5年間かけて検討されてきたものだが、それにも関わらずフランス語圏では不安を募らせている。ジュネーブ州は随分長い間一歩も譲らぬ姿勢を見せていたが、最終的には折れた。ヴォー州はいまだに闘う姿勢を見せており、7月からの全国映画協会の始動を阻む恐れがある。

 「現在議論されている計画は後退を意味する」

 と言うのはヴォー州議会議員アン・カテリーヌ・リオン氏だ。

「多くの映画、特にフランス語の作品はすべて、ドイツの映画館で上映される前にスイスのフランス語圏では上映されている」 

 ヴォー州が最も強調する点は、こうした映画は全国映画協会によって「系統的に評価される」べきで、計画通り配給会社に評価を委ねるべきではないということだ。

 しかし、ヴォー州の要求は州司法警察代表会議によって拒否された。時間がかかりすぎるという理由からだった。同会議は昨年11月、全国映画協会の創設を許可している。

「現在の計画では、フランス語圏で上映される映画の大半は配給会社の一存で法定年齢が定められてしまう」

 とリオン氏は言う。

前進?

 その一方で、映画業界に携わる大半の人たちが改革を歓迎している。

「配給会社としては非常に特殊な状況に立たされている」

 とスイス・ユニヴァーサル・ピクチャーズ ( Universal Pictures Switzerland ) のマーケティング部長パウル・フィッシュリー氏は言う。

「年齢制限の区分に関して、ジュネーブ州のように進歩的な教育局を持つ州では六つの評価がある。しかし、ほかの地域では12歳か14歳の2通りしかない。評価を統一することは、観客やその他関係者にとって物事がよりスムーズになるだろう」

 配給会社が州の委員会を通さずに映画を上映しようとすると自動的に「16 ( 16歳未満の観覧禁止 ) 」を指定される。しかし、フィッシュリー氏はこれを商業的な観点から見て「かなりの問題」と語る。配給会社が不服を申し立てることもできるが、時間と費用がかかる上に、運良く低い評価を勝ち得る可能性もあるが、逆に不必要に高い年齢制限を指定されることもありうる。

暴力には厳しい規制を

 国が違えば、感覚も違う。例えばイタリアでは「ラストタンゴ・イン・パリ ( Last Tango in Paris ) 」 ( 1972年 ) が上映禁止になった。

「アメリカではセックスが暴力以上に観覧制限に関わる問題で、スイスとは逆だ。スイス人は虐待などの暴力シーンに対して敏感で、子どもたちに影響があると考えている」

 とフィッシュリー氏は指摘する。

 

 また、暴力シーンには各委員会の目がより厳しくなっているという。

「家族向け映画としてアメリカ人がごく普通に親しんでいるものがヨーロッパの子どもたちには非常にどぎついものだったりする」

推奨年齢

 子どもにどの映画を見せるべきか。こうした判断を親たちができるように、ジュネーブ州とヴォー州では「法定年齢」と「推奨年齢」の2種類の評価を行っている。

 例えば「英国王のスピーチ」は「7/12」と表記され、7歳以上なら入場は許可されるが、委員会の評価ではこの映画を理解して楽しめるのは最低12歳からという意味だ。ジュネーブ州とヴォー州の委員会によるサイト「フィルム・エイジズ」を見ると、「英国王のスピーチ」は「1930年代のイギリスの歴史的要素が色濃く、一定の知識と関心が要求される」と記されている。

 フランス語圏では、この2重の評価システムが新映画協会の設立によって廃止されることにも懸念を示している。

「これはヴォー州が問題視していることの一つだ」

 と、ルネ・ゲルバー氏は言い、スイス人作家マックス・フリッシュに関するドキュメンタリー映画が「7/16」と評価されたことを例に挙げる。

 ところで、イギリスでは「ハリー・ポッター」の映画には「ファンタジーに巣くう蜘蛛がいる」という忠告が聞かれた。しかし、今回の議論では年齢制限の設定と共に観客にアドバイスをするという案は話し合われなかったとゲルバー氏は最後に指摘した。

1930年代を舞台に吃音症の王ジョージ6世とオーストラリア人言語聴覚士の交流を描いたイギリスの歴史ドラマ。実話に基づく。

アカデミー賞12部門にノミネートされ、最優秀作品賞を含む4部門でオスカーを受賞。

イギリスではこの映画の評価で少々揉めた。言語療法の一環として使われた過激な台詞のため、全英映画等級審査機構 ( British Board of Film Classification ) は「15」と指定した。その後「12A ( 12歳以下の子どもは大人の同伴が必要 ) 」にまで引き下げられた。

さらにアメリカでは、商業的にダメージの大きい「R」をアメリカ映画協会 ( Motion Picture Association of America / MPAA ) が指定した。Rとは17歳以下の未成年は成人の同伴が必要という意味。その後、MPAAは過激な台詞を削った劇場版を「PG13 ( 13歳未満の鑑賞には親の同意が必要 ) 」と指定した。

スイスではベルン州が12/10 ( 12歳は大人の同伴不要/10歳は要同伴 ) 、バーゼル州は12/9 ( 12歳は大人の同伴不要/9歳は要同伴 ) 、チューリヒ州はJ12 ( 12歳未満は禁止 ) 、ジュネーブ州は7/12 ( 法定年齢7歳/推奨年齢12歳 ) 。

スイスの検閲は寛容だといわれる。例えば、1950年代の赤狩りの時代にその「非米活動」を非難されたチャールズ・チャップリンの入国をスイスが許可したことなど。

しかし、その一方で、多くのほかのヨーロッパ諸国同様、有名な映画が禁止されたこともある。最も記憶に残るのはスタンリー・キューブリック監督の反戦映画「突撃 ( Paths of Glory ) 」 ( 1957年 ) で、1958年から1970年まで映画館での上映は禁止された。

ほかにもキューブリック監督の「時計じかけのオレンジ ( A Clockwork Orange ) 」 (  1971年 ) 、ピエル・パゾリーニ監督「ソドムの市 ( Salò, or the 120 Days of Sodom ) 」 (   1975年 ) 、大島渚監督「愛のコリーダ」 ( 1976年 ) 、マーティン・スコセッシ監督「最後の誘惑 ( The Last Temptation of Christ ) 」 ( 1988年 ) がある。

1994年、「エイリアン ( Alien ) 」 ( 1979年 ) のエイリアンの生みの親であるスイス人アーティストH.R.ギーガー氏は、連邦裁判所から「猥褻な作品」を制作したとの判決を下された。レストランに飾られる予定だったその作品は公開を禁止された。

1979年のアカデミー賞で最優秀外国語映画賞を受賞した「ブリキの太鼓 ( The Tin Drum ) 」のスター、スイス人の俳優デイビッド・ベネットは当時アメリカの検閲に引っかかった。11歳だったベネットが年上の少女の腹部についたシャーベットをなめるシーンがあり、それが児童ポルノだと言われた。

ドイツのリスト「問題のある映画」はスイスビデオ協会 ( Swiss Vido Association ) のサイトから閲覧可能で、スイスの警察が参考にしている。ピーター・ジャクソン監督「ブレインデッド ( Braindead ) 」 ( 1992年 ) 、トビー・フーパー監督「悪魔のいけにえ ( The Texas Chain Saw Massacre ) 」 ( 1974年 ) など。このリストには法的拘束力はない。

( 英語からの翻訳・編集 中村友紀 )

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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