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木材を燃料に

スイスには木材がふんだんにある Keystone

近い将来原油が枯渇するという前提に立ち、スイスの研究者たちは、これまで通り車を走らせ、家を暖房で温め続けることができるための道を模索している。

身近なものが代替エネルギーにならないだろうかと注目されているのは木材だ。資源の少ないスイスでも、再生可能な資源としてふんだんにある。

 1999年末、西部ヨーロッパを襲ったハリケーンの「ローター」により、スイスも大きな被害を被った。強風によって倒れた多くの木は森から撤去され、再利用されることもなく処分されなければならなかった。

木材に再び注目

 ハリケーン後8年、木材市場は様変わりした。石油価格の高騰に伴い、まきを暖房の燃料にする家庭が増加したためだ。はるか遠くバルト海諸国からも、木材を輸入している。連邦環境局 ( BUWAL/OFEFP ) によると、スイス国内で昨年伐採された木およそ570万立方メートル。1年間で8%増加した。暖房用のまきに限ると、13%増だ。石油より価格的に魅力だとはいえ、環境に与える影響を考えると、燃やす際に排出する二酸化炭素をろ過するフィルター設置などの対策がない限り、問題が出る。

 国立研究所のパウル・シェラー研究所 ( Paul Scherrer Institut / PSI ) では、より効率よく環境により負担をかけない木材のエネルギー化の研究が進んでいる。このプロセスは特に新しいものではない。1世紀以上も前に、バイオマスがガスを発生することは知られ、第2次世界大戦中には木炭自動車が動いていた。「石油が枯渇してしまっても、バイオマスはあり続けます」とPSIのセルジ・ビオラ研究員は言う。

バイオマスの効果的利用

 バイオマスは生物が原材料。一般には植物によるバイオマスが燃料や工業生産に利用される。植物は光合成で空気中の二酸化炭素を吸収し、酸素を発生することから、燃料として燃やされたときに排出する二酸化炭素と相殺され、環境負担はゼロと換算される。しかし、森林の伐採による環境破壊も見逃せない。

 「バイオマスは1つの解決法であり、エネルギー問題全体を解決することはできません。しかし、自然ガス、液体燃料、電気といった従来型のエネルギーと同じように使われることは魅力的です」とビオラ氏は言う。彼の研究室では、より効率的なエネルギーへの還元方法が研究されている。単に木材を燃やせば燃料が抽出できるといった簡単なものではないのだ。

 「固体をガスにした上、そのガスを燃料として利用できるように加工する必要があります」。特に、木材からより多くの燃料を引き出すことが課題。また、バイオマスの残骸処理は問題で、システムが詰まらないように工夫したり、環境への汚染対策も講じなければならない。

競争力は?

 研究所では木材のチップを少量の空気で高温加熱し、ガスを作る実験を行っている。その後、自動車に搭載されている触媒コンバーターと同じ装置に通される。フィルターを通ったガスが、環境への負担が少ないとみなされれば自動車の燃料として実用可能となる。利用可能なガスが抽出されたとしても、パイプの迷路のような装置である。より大きなスケールでガスを製造できるのだろうか。それはまだ分からない。しかしビオラ氏は、コスト的に石油や自然ガスと対抗できると期待しているという。

 とはいえ、バイオマスは将来のエネルギー需要への対応の1つのオプションにすぎないことはビオラ氏も認める。この研究が実りをもたらすかどうかは分からない。木材から単に熱を抽出すればよいという意見もあるなか、利用方法によっては、バイオマスも魅力的なものになるという。「木材はふんだんにあります。基本的なエネルギー需要の2、3割カバーできる可能性を秘めています」とビオラ氏の期待は大きい。

swissinfo、スコット・キャッパー、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 訳

国立としては唯一の自然科学研究所。ほかの研究所や大学、産業界と協力し研究を進めている。専門分野は物理、素材科学、素粒子物理学、ライフサイエンス、核、非核エネルギー、エネルギー環境学など。職員1200人と研究所としては国内最大規模を誇る。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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