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本田悦朗 駐スイス特命全権大使 アベノミクス加速に向け「スイスのように効率よい働き方を」

本田悦朗 駐スイス日本国特命全権大使。ベルンの在スイス日本国大使館にて

本田悦朗 駐スイス日本国特命全権大使。ベルン、在スイス日本国大使館にて

(swissinfo.ch)

2016年6月から駐スイス日本国大使としてスイスの首都ベルンに駐在する本田悦朗氏。安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」をブレーンとして支え、欧州金融経済担当大使の肩書きも持つ。スイスでの駐在で目の当たりにしたスイス人の働き方は、今後アベノミクスを加速するうえで参考にすべきと話す。

スイスインフォ:スイスでのアベノミクスへの関心は高いのでしょうか。

本田大使:アベノミクスの目的は、20年間日本を苦しめてきた賃金と物価の下落という悪循環(デフレ)から脱出して、国民生活を豊かにすることだ。これまで5年間、全力でやってきたが、成果が非常に出ているものとなかなか見えないものがある。アベノミクスが何をしているのか、成功するのか、日本はこれからどうなっていくのかは、スイスでも注目されている。なぜなら、20年間もの長い間、こんな慢性のデフレ病になってしまったのは日本だけで、スイスは2014年に一時期インフレ率がマイナス圏に陥ったが一年足らずで脱したからだ。日本は20年間、デフレの「アリ地獄」から抜けられず、今は、放っておいたらどんどん縮小していく最悪の状態から逃れ、やっと地面の上に顔を出した状態にいる。

足元ではインフレ率がプラス圏に達したが、主に原油価格が上がったためで、アベノミクスの効果が十分に発揮されているとはいえない。政策効果が上がらない理由を究明し、集中的に政策を打たなければならない。

スイスインフォ:スイスの政策で日本が参考にすべき点はありますか?

本田大使:アベノミクスの重要な柱の一つが生産性の向上だが、特に働き方改革が重要だ。日本は長時間労働が多い割に、生産性が低く成果が上がらない。スイスは逆で、残業は基本的にしないが、所得は高く法人利益も高い。働き方は国民性も深く関係しているので変化には時間がかかるが、どうすればスイスのような効率の良い働き方ができるか、日本は学ぶべきだ。

日本の教育制度は少し単線過ぎる。みんなが大学を目指すが、大学以外にも学問や職業訓練を受ける場が複線的にあっても良い。我が国にも専門学校があるが、大学に集中してきたのは、デフレで就職難に陥ったことに関係があるのかもしれない。教育を受ける場の選択肢を増やし、社会では本人の実力に基づいて評価されるシステムが望ましい。

スイスは大学進学率こそ20%程度と高くないが、本当に学問したい人が大学に行き、手に職をつけたい人のためには専門教育機関がある。高度な技能があれば大卒と見劣りしない初任給がもらえ、将来の出世の道も開けている。それは日本ももっと見習うべきではないか。 IoT(モノをつなぐインターネット)や人工知能(AI)、ロボット技術が発達すると、大学と職業訓練のタイアップ、技術面に重点を置く専門職と理論に重点を置く大学の両方が必要になる。就職後に大学に入って学問をする道も広がるだろう。

また安全保障面では、スイスの核シェルターのような施設を日本でも充実させるべきだ。日本は北朝鮮の核の脅威にさらされている。東京のような大都市には立派な地下街があり、そこに食料もあるが、緊急時の訓練もやったことがなく、現状では核シェルターとして使えるようにはなっていない。有事に日本人一人ひとりが家族や国を守る具体的な行動の第一歩として、シェルターの整備は一つの有効な手段だ。スイスでは冷戦終了前、核シェルターが人口を上回る収容率を持っていた。素晴らしい危機管理体制で、日本がスイスから学びたい点だ。

スイスインフォ:スイスでの生活や経験からどんなことを感じますか?

本田大使:大使に着任してから気づいたスイス人の国民性は、地に足が着き、我慢強く、謙虚だ。また永世中立国を宣言し、現実主義であるのと同時に理想主義でもある。現実主義と理想主義の間を埋めるものとして、愛国心や郷土愛が強い。

直接民主主義、イニシアチブやレファレンダムにスイス人の愛国心が表れている。国民一人ひとりが自分の意思を表明してこの国を作っていくのだという意識があり、自分たちはスイス人だというアイデンティティを強く持ち、国家に対する誇りがある。

もう一つ、徴兵制度にも自分たちの国は自分で守るんだという愛国心が表れている。私は徴兵に行くことで不平を言う人は聞いたことがないし、自然な形でスイスの防衛に少しでも個人個人が役に立ちたいという意思を強く持っている。政府がそれを推進し、また、緊急事態への対応として「民間防衛」を教育の中にも取り入れて、それぞれの家庭にパンフレットを配り、緊急事態が発生した場合には、まず自らが行動を起こすという意識をスイス政府が養成している。

それぞれ国の事情や歴史が違うため、スイスの直接民主制や徴兵制をそのまま日本に導入すればよいというわけではない。だがスイスのように「一人ひとりが国の安全保障、経済を支えている」という自覚は日本がもっと学ぶべきだ。

スイスインフォ:日・EUの経済連携協定(EPA)交渉が12月8日に妥結したことで、農産物の関税撤廃によりEUから日本への輸出が増えると見込まれます。EUの農産物の関税が実質的に撤廃されると、スイスの特産物がEU産に押され、日本への輸出量が減ってしまうのではとの懸念の声もあります。日本とスイスは2009年にEPAを結びましたが、この経済協定の更新が来年の最大の重要事項の一つになりますか?

本田大使:日スイス友好議員連盟から一般的な懸念の声は聞いたことがあるが、具体的にどの条項が不利になる可能性があるのかについては、まだ要望が寄せられていない。日・スイスも日・EUもEPAは相互の利益のために実施されるものなので、互いにとってベストの解決策を探りたい。


駐スイス日本国特命全権大使 本田悦朗氏 略

1955年、和歌山県生まれ。東京大学法学部卒業。
大蔵省入省後、在ソビエト連邦日本国大使館では二等書記官、在ロサンゼルス日本総領事館領事、在ニューヨーク日本総領事館領事財務部部長、在アメリカ合衆国日本大使館公使を勤めた。
財務省大臣官房政策評価審議官、静岡県立大学教授、内閣官房参与などを歴任し、2016年6月に駐スイス特命全権大使としてベルンに赴任。駐リヒテンシュタイン特命全権大使と欧州金融経済担当大使も兼任している。家族は妻と子供一人。
趣味は鉄道の旅、ベルン旧市街の散歩、テニス。

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(聞き手・上原亜紀子)

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