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波乱に富む閣僚選出選挙

この七つの閣僚の席に座るのは誰か? Keystone

2003年までの過去50年間、波風が立つこともなく執り行われたスイスの7人の閣僚選出選挙。ところが今年12月14日の選挙は、始まる前から波乱に富む。

第1党の右派国民党は、自党からもう1人閣僚を出したいと闘志を燃やし、引退する社会民主党のミシュリン・カルミ・レ外相の座を狙うのみならず、エヴェリン・ヴィトマー・シュルンプフ財務相や急進民主党の閣僚に対しても対抗馬を立てる。ところが、自党の有力候補者の不正事件が発覚し12月8日にこの候補者をリストから外した。

魔法の公式

 4年ごとに行われる連邦議会議員総選挙後、7人の閣僚(大臣)を選出する閣僚選挙は、1959年から2003年までの間、ほとんど問題がなくただ儀式的に行われた。それは、「魔法の公式(マジック・フォーミュラー)」と呼ばれるバランスの取れた配分率が維持されたからだ。

 これは連邦議会を構成する上位4党の、急進民主党(FDR/PLR)、社会民主党(SP/PS)、キリスト教民主党(CVP/PDC/PLR)がそれぞれ二つ、国民党(SVP/UDC)が一つのポストを占める配分だった。

 ところが、これが2003年に崩れた。4位だった国民党が外国人排斥などの政策を掲げ第1党に躍進し、キリスト教民主党が維持していた二つのポストの内の一つを勝ち取ったからだ。

 問題がさらに複雑になったのは2007年の選挙のときだ。国民党のクリストフ・ブロッハー大臣の再選を望まなかった他党は策略を講じ、国民党員だが党推薦ではないヴィトマー・シュルンプフ現・財務相を当選させた。立腹した国民党は、ヴィトマー・シュルンプフ氏を離党させた。

 その後ヴィトマー・シュルンプフ氏は市民民主党(BDP/PBD)に入党。その結果、国民党は再び一つポストを失うこととなった。

 この国民党によるもう一つのポスト奪回が今回の選挙の焦点だ。

一致の原則とヴィトマー・シュルンプフ氏

 2007年にこうした勇気ある行動に出た少数派言語ロマンシュ語圏出身のヴィトマー・シュルンプフ氏は、国民の人気が高い。政治的課題においても、書類の隅々まで目を通していると評判だ。1人だけが特別目立つようなことのない言動は「一致の原則」を良しとするスイスの内閣においてプラス評価に繋がる。

 ところで、この「一致の原則」だが、今回の選挙で各党が旗印が挙げたのがこの言葉だ。意味は「内閣での主張力は、連邦議会内の党の議席数に比例して尊重される」といった風に解釈される。

 よって上位3政党の国民党、社会民主党、急進民主党は、その主張が尊重されるためには、それぞれが二つのポストを、第4党のキリスト教民主党が一つのポストを獲得するのが妥当という計算になる。

 このため、小党の市民民主党に属するヴィトマー・シュルンプフ氏の再選は、彼女の人気とその高い政治的能力にもかかわらず危うくなってくる。

国民党への不信

 一致の原則を理由にまさにこのヴィトマー・シュルンプフ氏のポストを奪回しようと国民党は狙いを定めている。もしだめなら、政治的評価が比較的低い中道右派急進民主党のシュナイダー・アマン経済相や、社会民主党のカルミ・レ外相の後のポストさえ狙っているといわれる。

 ところが選挙目前の12月8日、候補に立てた2人のうちより有力とされていたブルーノ・ツッピガー議員が、自身が経営する会社の元社員が人道団体に寄付したいと遺書に書き残したお金を、着服した事実が大きく報道され、直ちに候補から外された。

 国民党はすぐに次の候補者を立てたものの「ツッピガー議員の問題は解決済みと考えていた」とする党幹部の判断の甘さや運営能力に対する不信を党内部に招き、外部に対しても党の信用を損なう結果となった。

 さらに国民党は、10月の連邦議会議員の総選挙で第1党を維持したものの10議席を失い計59議席、第2党の社会民主党は6議席を増やし57議席を占めた。その一つの理由は福島の原発事故で、原子力エネルギーが国民の関心を占め、原発に賛成する国民党議員に票が集まらなかったといわれている。

選挙の動向は見えない

 こうした中、社会民主党は脱原発に賛成するヴィトマー・シュルンプフ氏を選挙前から強く支持している。さらに、同党のカルミ・レ外相の後には、同党からの推薦候補者が(一致の原則のルールに従えば)当然当選すべきだと考えている。

 しかし、「閣僚選出選挙はふたを開けてみるまでまったく分からない。しばしば戦略の詳細を把握しているのは、党のごくわずかな人間だけだ」というのが、キリスト教民主党の党首ウルス・シュバレ氏の意見だ。12月12日付けのフランス語圏の日刊紙「ル・タン ( Le temps ) 」でのインタビューで、氏は次のように語っている。

 「最後の最後まで、選挙の動向を制御することはできない。ある種のダイナミズムがこの動向にはあって、それはそれで良いことなのだ」

ミシュリン・カルミ・レ外相(2011年連邦大統領)、社会民主党(SP/PS)、2003年着任  

ドリス・ロイタルト環境・運輸・エネルギー・通信相、キリスト教民主党(CVP/PDC)、2006年着任

エヴェリン・ヴィトマー・シュルンプフ財務相、市民民主党(BDP)、2007年着任

ウエリ・マウラー国防・国民保護・スポーツ相、国民党(SVP/UDC)、2009年着任

ディディエ・ブルカルテール内相、急進民主党(FDP/PLR)、2009年着任

シモネッタ・ソマルガ司法警察相、社会民主党(SP/PS)、2010年着任

ヨハン・シュナイダー・アマン経済相、急進民主党(FDP/PLR)、2010年着任

選挙は空白になるカルミ・レ外相の後に着く閣僚を最後に選出するが、残る6人の再選ないしは新しい閣僚選出の順番は、このリストの順に行われる。

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