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コラム「2019年スイス総選挙」 スイスとEUの条約交渉、成功のカギは国内協議

クロード・ロンシャン氏

今回のコラムは、EUとの二国間関係を築くうえでの国内の利害調整について

(swissinfo.ch)

スイスは今夏、欧州連合(EU)との関係性を巡る条約交渉で難題に直面している。EUがスイスに「市場開放」と「賃金ダンピング規制の緩和」を要求しているからだ。スイスはEUの意向に沿う考えだが、国内の高い賃金水準は頑として守ろうとしている。難しい交渉だが、有効な手立てがある。それは「協議」だ!

 スイス政府が掲げる2019年総選挙までの3大目標は以下の通り。

1)新しい法人税改革案を策定すること
2)年金制度改革で少なくとも重要な一歩を踏み出すこと
3)今後のEUとの二国間関係を確実にすること

 一つ目と二つ目の目標は、国民投票(レファレンダム)で否決されたために達成できなかった。法人税改正案も年金制度改革案も連邦議会で賛成過半数を得ていたが、国民投票で反対が過半数を占めた。

敗者を顧みなければ代償も

 なぜ目標は阻止されたのか。それは「対立や政治的競争が好まれ、協働や妥協が軽んじられる政治状況」にあると、政治学者のマヌエル・フィッシャー氏は博士論文「Entscheidungsstrukturen in der Schweizer Politik des 21. Jahrhunderts(仮訳:21世紀におけるスイスの意思決定構造)」で記す。連邦議会で決定される重要政策の半分は、超党派がその是非を左右している。超党派は最小限の過半数で意見を押し通し、「敗者」に配慮はしない。

 しかしスイスではそうしたやり方には代償が伴う。連邦議会の敗者はレファレンダムを請求できるため、結果を覆すチャンスがあるのだ。レファレンダムの2回に1回は、反対が賛成を上回る結果が起きている。

執筆者

クロード・ロンシャン氏は、スイスで最も経験豊富で声望の高い政治学者およびアナリストの一人。 調査機関「gfs.bern他のサイトへ」を設立後、定年まで所長を務める。現在も同機関の取締役会長。スイス・ドイツ語圏向けスイス公共放送(SRF)で30年間、国民投票と選挙のアナリストおよびコメンテーターとして活躍。

スイスインフォの直接民主制に関する特設ページ#DearDemocracy他のサイトへで毎月、2019年のスイス総選挙についてコラムを執筆予定。

ロンシャン氏の政治ブログ「Zoonpoliticon他のサイトへ」と歴史ブログ「Stadtwanderer 他のサイトへ」 

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交渉対象外の項目を巡る国内対立

 そのため、今後のEUとの二国間関係はレファレンダムという壁の前で破綻する可能性がある。

 条約交渉の争点になっている「紛争解決のための仲裁」は、政党間の溝は深いものの、ある程度の歩み寄りはみられる。ただ、国民党とEU懐疑派の民間団体「独立した中立国スイスのための運動」だけは賛同していない。スイスとEUの間に入って決定を下す裁判官を全て「よその裁判官」と見なしているからだ。

 一方、極めて厄介な「賃金ダンピング規制」を巡り、新たに公の議論が起きている。きっかけは、連邦閣僚のイグナツィオ・カシス外相がある取材で「スイスが賃金ダンピング規制に関してEUの意向に沿わなければ、交渉は失敗する」と発言したことだ。

それは怒らせるのも当然だ。

 これに挑発された労働組合は、社会民主党トップの支援を受けて、レファレンダムを請求する構えを見せた。EUとの枠組み条約が左派と右派の両サイドから反対されれば、国民投票で確実に白紙になることは火を見るよりも明らかだ。カシス氏はそれを理解しておくべきだった。

 左派はカシス氏の初歩的なミスを理由に、政府の姿勢を支持しない方向に動いている。スイスはEUとの事前協議の終わりに、交渉の対象外とする事項の範囲を決定したが、左派はカシス氏がその範囲に踏み込んでしまったとみる。

 ここでは労使協調も問題となる。なぜなら、これまで雇用者と被雇用者との間で調整を取ることで、ストライキなどの労使紛争が阻止されてきたからだ。

鍵を握る「拒否権プレーヤー」

 労働組合の態度は専門用語で「拒否権プレー」という。これは選挙の得票率に影響を及ぼすことではなく、ある案件で多数派を阻止するために影響力を発揮することを指す。労組は今、拒否権プレーは行うことで自分たちの目標に近づいているとも言える。

 スイスには他にも拒否権プレーヤーがいる。その一つが州で、憲法改正の際は必ず州も巻き込んで是非を決めなければならない。州の過半数が反対すれば、計画は頓挫するからだ。

 さらにテーマによっては、レファレンダムを請求できるほどのグループが政党、労使、利益団体、社会運動の間で結成されることもある。

 「こうした理由からスイスにはリーダーがいない」と悲観的に考える人もいるが、私はそう思わないし、いたって楽観的だ。

 カシス氏の行動に対する反応で明らかになったことがある。それは、急進民主党は「EUに加盟しなくとも企業が域内市場にアクセスできる権利を保障したい」と考えていること。そしてキリスト教民主党は「新しいルール体系には賛成だが、国民主権と労働市場を守りたい」としていることだ。雇用主団体、統括組織、業界団体自身も基本的に賃金ダンピング規制を支持している。

 閣僚らはちょうど夏休み前の最後の会合で率先して行動を起こし、三つの事を決定した。一つ目は交渉対象外の項目を明白に線引きすること。二つ目は労使および州と協議すること。三つ目は経験豊富なヨハン・シュナイダー・アマン経済相にこの難題を委ねること。これらの最大の目標は、交渉締結のための道すじを見つけることだ。

静かに協議

 それでも問題が複雑なことに変わりない。ただ、スイスの政治制度はまさにこうした場合に備えて独自の「協議の文化」を発展させてきた。

 その特徴の一つは、非公式の協議におけるメリットを利用することだ。非公式の協議では、問題点を明らかにしたり、最大限の妥協点が模索したりできる。マスメディアの目にさらされていては、周りがうるさすぎて妥協点が見つけにくい。

 さらに、スイスが欧州政策で成功を収めたのは、社民党と急進民主党の間で意思疎通がうまくいっているときだったことを踏まえると、スイスがEUと協調するためのカギは「賃金・労働条件の保護措置」と「リベラルな原則」を結びつけることだと言える。そうすれば左派か右派かどちらか一方に偏らない解決策が保証されるだろう。

 結局のところ、いくつかの基本事項を心に留めておかねばならない。それは国内での協議は、労働組合が行く手を阻む時間でも、理想的な経済的規制政策を説く場でもないということだ。そして、2019年の総選挙を目前にして党利党略のために駆け引きする場でもないということだ。

 スイス政治における最大の長所は「妥協」だ。しかし妥協がなければ、前述の三つ目の目標も頓挫する可能性がある。今回の任期(15~19年)における連邦議会の総評は悪くなることはありえるが、良くなることはない。

スイスの政党

SVP/UDC: 国民党(保守系右派)

SP/PS: 社会民主党(左派)

FDP/PLR: 急進民主党(リベラル右派)

CVP/PDC: キリスト教民主党(中道/右派)

GPS/Les Verts: 緑の党(左派)

GLP/PVL: 自由緑の党(中道)

BDP/PBD: 市民民主党(中道)

JUSO: 青年社会党(左派)

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(独語からの翻訳・鹿島田芙美)

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