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直接民主制 英、EU離脱で2度目の国民投票?スイスから学べることは

英国とEUは一足飛びには離れられないようだ

英国とEUは一足飛びには離れられないようだ

(Associated Press)

2016年の国民投票で欧州連合(EU)からの離脱(ブレグジット)を決めた英国では、今も離脱派と残留派とが対立している。国民投票が再び実施されれば、対立は解消されるのだろうか、それとも、さらに深まるだけなのか?専門家は、英国がスイスの直接民主制から学べる教訓があると指摘する。

12月の総選挙を間近に控えた英国で、EU離脱をめぐる2度目の国民投票はまだ出口が見えない状態だ。ジョンソン英首相に再実施する意向はない。しかし、12月12日の総選挙で与党・保守党が過半数の議席を獲得できなければ、首相に2度目の国民投票以外の選択肢は無いかもしれない。

その一方で、野党・労働党は、政権交代が実現すれば、2度目の国民投票を必ず実施する考えだ。調査会社ユーガブ他のサイトへの最新の世論調査では、EU離脱をめぐる国民投票に賛成した人は47%、反対した人は29%だった。

2度目の国民投票は民主主義にとってどのような意味があるのか?

民意に対する裏切りだ、反則だ、と非難の声が上がることは容易に想像がつく。ウェストミンスターの国会議事堂外に乱立する非難のプラカードが良い例だ。

ザンクトガレン大学のパトリック・エメネッガー教授(比較政治学)は、どのような形で国民投票が行われるかによると指摘する。

「2回目の国民投票を実施する理由は何か?二分する国内の橋渡しをするためか?EU離脱の決定を見直すためか?ソフトな離脱か強硬な離脱を選ぶためか?」

エメネッガー教授は、残留派の48%が言うような、国民投票が間違った決定を覆す手段かのようにとらえられないことがカギだと指摘する。むしろ、その提案は長い交渉を経た後の産物で、(最終形態は何であれ)16年に決まった単純な「離脱」とは全く異なるものであり、そういう提案に対し有権者に発言権を与えるという図式が望ましいという。

直接民主制は「妥協を合法化」する手段として機能することが多いとエメネッガー教授は説く。それは永遠の「勝者と敗者」を生み出さないため。永遠の「勝者と敗者がいる」状況は極めて「非スイス的」なアプローチだという。

直接民主制を推進する活動家でジャーナリストのブルーノ・カウフマン氏も同意する。カウフマン氏によると、16年のEU離脱をめぐる国民投票の問題は、「交渉前の投票」だったことだ。国民に明確な選択肢を提示するのではなく、国民の動向を探ろうとして、政治家が「大きく行き過ぎ」てしまった。

16年の英国民の決定は根拠が無いという一部批判もあるが、カウフマン氏は英国民の立場を擁護する。英国民の選択は、何十年にわたるEU加盟国としての実体験に基づくものだった。2回目の国民投票は痛みを伴う、政治色の濃いものになりそうだ。それでも、争点が明確に示された提案を「(国民に)確認するための投票」であれば、正当性を確保する助けになるかもしれないとカウフマン氏は考える。

投票

スイス版ブレグジット。スイス国民は1992年、欧州経済領域(EEA)への加盟を僅差で否決した

(Keystone / Str)

スイス版ブレグジット

有権者が世界随一の投票の機会を持ち、直接民主制が円滑に機能するスイスでも、国民投票のやり直しや投票結果を十分に実現できないことはよくある。

近年で最も問題になったのは、EUからの移民流入を制限し、EU出身の労働者数に対し割当制度を復活させることが決まった14年の「大量移民反対イニシアチブ」をめぐる国民投票だ。50.3%の僅差で可決されたこの国民投票は「非常にブレグジット的」な話だとエメネッガー教授は指摘する。

英国のEU離脱と同様、僅差の決定はスイスを窮地に陥れた。スイスはEU加盟国ではないが、EUとの緊密な関係は数多くの二国間協定、そしてEU出身者の(スイスへの)自由な移動などと言った代価に依存していたからだ。

スイスは2年掛かってもEUから譲歩を引き出せなかったため、連邦議会は、本来のイニシアチブが求めていた参入障壁も人数制限もなくした「ソフト」なバージョンを実施した。国は、EUからの移民よりも国内居住者に優先して雇用をあっせんするよう就職支援センターに指示した。

この「生ぬるい」実施は、全く実施しないこととほとんど同じだった、とエメネッガー教授は話す。背信行為だと非難する声が高まった。1人の政治学者が連邦議会の決定に異議を申し立て、レファレンダムに持ち込もうとしたほどだ。その政治学者は反EU派だったわけではない、民主主義の原理を守るためだった。

しかし、(イニシアチブを提起した)当の右派国民党は、議会の妥協策に異議を申し立てることができたにもかかわらず、そうしなかった。発起人ではなく(当初のイニシアチブに)反対していた勢力が再集結し、世論を調査し、国民投票の実施に必要な10万人分の署名を提出して、大量移民反対イニシアチブに似ているがもっと極端な提案を行った。EU出身者のスイスへの自由な移動を完全に撤回するというものだ。

そのため議論は長引いている。しかし、スイス国内を二分するまでにはならず、今は本来の質問に立ち返っている。14年の国民投票でも示唆されていたが、明確にはされていなかった問題だ。人の移動の自由に関するスイス・EU間の協定をスイスは破棄すべきか?有権者は再び、投票で判断を下す。

パネルディスカッション「ブレグジット、その先へ」

EU離脱後の英国は、スイスの直接民主制からどのような教訓を得られるだろうか?英国が今抱える問題は、直接民主制に対するスイスの認識に照らすと何を意味するのか?そして、その先にあるものは?ザンクトガレン大学とswissinfo.chとが12月2日に共催する特別公開討論会「ブレグジット、その先へ:直接民主制の限界と可能性」でこれらのテーマが議論される。パネリストとして、パトリック・エメネッガー教授とブルーノ・カウフマン氏、ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)ロンドン支局特派員のヘンリエッテ・エングバーソンさんが登壇する。チケットの予約はこちら他のサイトへ

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1回目の国民投票で上手くいかなければ…

2年間で2回、国民投票に掛けられたもう1つのケースは法人税制改革だ。国際水準に則った脱税防止や公正な会計制度の導入を求める国際的な圧力によって、連邦政府は一連の措置を盛り込んだ第3次法人税改正法案を提出。同法案の見直しを求めて提起されたレファレンダムが成立し、17年2月に国民投票が実施された。

国民投票の結果、改正法案は否決され、連邦政府は再び直接民主制という頭痛に悩まされることになった。国際協調の必要性と民意が明らかに相反していた。自ら解決するのは困難かと思われるほど、連邦政府は国際社会に対する義務と国民に対する義務との間で板ばさみになった。

では、どのように解決したのか?連邦政府は改正法案を練り直し、2年後に再び国民投票で信を問うた。この時は、政党からの幅広い支持を取り付けられる内容にし(特に前回法案に反対した社会民主党)、もう1つの喫緊の課題である年金改革と一体化させた。

しかし、これが批判を招いた。2年間で2回、同じような争点を国民投票に掛けたことも、2つの異なる政策分野を若干強引に1つの投票に盛り込んだことも。

この「とんでもない」一体化にもかかわらず、交渉や修正案が議会でまとまったのは、スイス直接民主制の賜物だとカウフマン氏は話す。

法人税改革は対処すべき課題として認識されていた。だから、対処する「かどうか」というよりは「どのように」対処するかが問題だった。そこで政治的な解決策が出来上がり、国民に提示された。年金との抱き合わせは政府の策略だと国民が判断すれば、国民には否決する権利もあった。

しかし、有権者はそうしなかった。国民投票は可決され、税制改革実施の是非は(スイスの政治システムのもう1つの段階である)各州の投票にゆだねられることになった。

スイスでは誰もが勝者?

法人税改革と年金改革だけが特別なわけではない。産前産後の休暇、女性参政権、移民、選挙制度改革、といった争点はスイスで繰り返し取り上げられる。どのような場合に国民投票の結果が永続的な拘束力を持つのか、いつの時点で見直されるべきなのか、については厳格なルールがない。

英国のEU離脱を問うため2度目の国民投票をすることは民主主義への背信になるのでは―という考えに対し、エメネッガー教授の立場は明らかだ。「52%の賛成を最終的な勝利と見ることはできない。異なる意見を表明する人を社会の敵かの如く扱うのは、民主主義を狭く、利己的に捉えることだ」

むしろ、スイスの直接民主制の功績―世論調査、議会での議論、定期的な投票を通じて―は、「勝者と敗者」を生まない状況だ、とカウフマン氏は強調する。仮に敗者となっても、政策決定過程には彼らの意見が少なからず反映されるため「幸せな敗者」だという。

一方で、英国は直接民主制の経験が歴史的に欠け、それが国を二分した。カウフマン氏が言うところの、国民による「一般的な助言」―法的拘束力のあるレファレンダムというよりは、むしろ(それとは異なる)プレビシットによって。

事態が収束するかを予測するのは難しい。英国のEU離脱問題によって、国民の民主的参加がより健全な形で求められるようになることを期待する人もいる。そのこと自体が既に1つの変化を引き起こしているとカウフマン氏は話す。つまり、より多くの人が意見を表明するようになったという。

とはいえ、カウフマン氏は「英国政治の問題は、大部分の人が敗者となり、勝者もまた少ないことに変わりはない」と指摘している。


(英語からの翻訳・江藤真理)

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