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スイス各党の選挙予測 選挙戦を制する政党は?

ロンション氏と連邦議事堂
今回のコラムは、連邦議会選挙をちょうど1年後に控えた各党の選挙予測について swissinfo.ch

スイスでは来年10月に連邦議会総選挙が実施される。各党は選挙戦に向け準備を整えているが、すでに選挙予測は可能だ。スイスは他国に比べて政党の勢力図に変化が起きにくいが、前回は保守派の国民党が躍進を遂げた。はたして今度の総選挙で番狂わせが起こる可能性は本当にないだろうか?

 来年の総選挙では各党の議席配分に大きな変化はないだろう。緑の党は前回15年の総選挙で減らした分の議席数を取り戻し、前回勝利を収めた第1党の国民党は伸び悩むだろう。

 各党の議席配分は現在と同じ割合となり、どの政党でも15年総選挙に比べた得票率の変化は1.5ポイント未満に留まる可能性が高い。

 それでは主要政党の選挙予測を見てみよう。

急進民主党

 15年以降に州議会選挙で35議席を獲得したのは急進民主党だけだ。国民党に議席を奪われてきたが、その流れを止めることができた。党の新代表、ペトラ・ゲッシ氏はその活力で、党の勝利を保証するだろう。

 これまでの国民投票は急進民主党にとって理想的な結果で終わった。有権者の大多数が同党と同じリベラル志向だったからだ。唯一、党が敗者となったのは、国民投票で否決された法人税改革案だけだった。

 対欧州政策では急進民主党が圧倒的にリードを握っている。ただ、欧州連合(EU)との枠組み条約交渉で突破口が見つけられるかどうかによって、党の命運が大いに左右される。

 同党にとって最大のリスクは、政治資金問題に関して所属議員がこれまであまり関心を示してこなかったことだ。しかし党所属の連邦閣僚、ヨハン・シュナイダー・アマン氏が退任を発表したことで党は後任を選ぶことになり、党の魅力をアピールする絶好の機会をつかんでいる。

 端的に言えば、急進民主党は連邦議会の両院で勝利する可能性が高い。

執筆者

クロード・ロンシャン氏は、スイスで最も経験豊富で声望の高い政治学者およびアナリストの一人。 調査機関「gfs.bern外部リンク」を設立後、定年まで所長を務める。現在も同機関の取締役会長。スイス・ドイツ語圏向けスイス公共放送(SRF)で30年間、国民投票と選挙のアナリストおよびコメンテーターとして活躍。

スイスインフォの直接民主制に関する特設ページ#DearDemocracyで毎月、2019年のスイス総選挙についてコラムを執筆。

ロンシャン氏の政治ブログ「Zoonpoliticon外部リンク」、歴史ブログ「Stadtwanderer外部リンク」 

緑の党

 緑の党はこれまで敗者だったが、その流れから脱した。スイス・フランス語圏では州議会選挙で17議席を獲得したのだ。

 党幹部を刷新し、有能な新人も役職に就いた。さらに党の主要政策も絞った。

 党が発議した脱原発案はあと一歩で可決されるところだった。そして党の理念を象徴する気候温暖化防止案(氷河イニシアチブ)は、今年の猛暑が追い風になり、二酸化炭素(CO2)の削減を巡る議論に一石を投じた。

 概して、緑の党は国民議会(下院)の議員選挙で議席をいくらか伸ばすだろう。全州議会(上院)で保有する議席数は依然としてわずかだが、同党は大胆にも初の連邦閣僚の座を狙っている。

社会民主党

 社会民主党は以前から大都市で支持が高い。最近では中規模の都市や周辺都市のある州で支持を伸ばし、州レベルの議会選挙では16議席増えた。

 勢力が拡大している理由は、社会保障費の削減に反対して党支持者にアピールするという選挙戦略が功を奏しているからだ。さらに同党は今年、男女差別撤廃を呼び掛けるための「女性の年」というキャンペーンを立ち上げている。

 15年以降の国民投票で党が収めた最大の成功は法人税改革案が否決されたことだった。反対に年金制度改革案「老齢年金2020」が可決されず苦い経験をした。今後は、右派が反対している政治資金の透明化を巡る議論に新たなチャンスが潜んでいる。

 次期総選挙では国民議会で議席が伸びるかもしれないが、全州議会で議席を減らす可能性もぬぐい切れない。

国民党

 世間をあっと言わせたのが、国民党所属のオスカー・フレイジンガー氏がヴァレー(ヴァリス)州政府閣僚選挙で再選を果たせなかったことだ。その結果、同党はスイス・フランス語圏で影響力を持つ大物政治家を失った。

 国民党は新たにアルベルト・レシュティ氏が代表に就任したが、支持率は下降気味で、州議会選挙で計12議席を失った。さらに党主導の国民発議(イニシアチブ)やレファレンダムはこれまでの流れとは異なり、否決された。国民党はいつも外国人問題を選挙戦の焦点にしているが、この問題への取り組みは停滞している。

 今のところ、次期総選挙では議席を減らす見込みが高い。しかし、国民党は選挙が行われる年にいつも支持を伸ばしてきた。国内法優先イニシアチブの是非を巡る国民投票では、国民党が民主主義と国民主権の擁護者だとアピールする機会になるだろう。

キリスト教民主党

 ゲルハルト・プフィスター氏はキリスト教民主党の新代表として華々しいスタートを切った。しかし州議会選挙ではほぼ全国的に勝利できず、28議席を失う結果となった。同党は社会的・保守的な方向に転換しようとしているが、こうした結果を見るとその努力は報われない可能性が高い。

 一方、これまでの国民投票結果は中道左派路線を貫いた同党の立場にほぼ沿うものだった。

 既婚カップルの方が事実婚カップルよりも多く課税される現制度の改正を求め、同党は国民発議を成立させたが、国民投票では賛成過半数にわずかに届かなかった。同党は現在、医療費抑制案の発議成立を目指しており、来年の選挙戦への備えはすでに整っている。

 キリスト教民主党にとって、連邦閣僚ドリス・ロイタルト氏の退任は最大の切り札になるだろう。選挙予測としては、国民議会で再び議席数を若干減らし、全州議会で議席数を維持する可能性が高い。

少数政党

 自由緑の党もこれまでの流れが変わりそうだ。新代表で臨んだ州議会選挙では党の支持率が回復したからだ。一方、支持者が少しずつ減っている市民民主党には大きな変化は起きないだろう。連邦閣僚の座を失ったダメージが後を引いているためだ。

まとめ

 19年の総選挙は結果が見えていて、つまらないだろうか?いや、そうとも限らない。

 今後の対欧州政策、年金制度及び法人税改革、医療費、気候温暖化といったテーマを巡り、政党勢力図が大きく変わる余地は十分あるのだ!

スイスの政党

SVP/UDC: 国民党(保守系右派)

SP/PS: 社会民主党(左派)

FDP/PLR: 急進民主党(リベラル右派)

CVP/PDC: キリスト教民主党(中道/右派)

GPS/Les Verts: 緑の党(左派)

GLP/PVL: 自由緑の党(中道)

BDP/PBD: 市民民主党(中道)

JUSO: 青年社会党(左派)

(独語からの翻訳・鹿島田芙美)

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