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福島原発事故から2年


「福島の人は、口には出さないが皆不安を抱えている」


里信邦子(さとのぶくにこ)


半径20キロ圏内(警戒区域)に一時帰宅した女性が持ち出すものを探す (Keystone)

半径20キロ圏内(警戒区域)に一時帰宅した女性が持ち出すものを探す

(Keystone)

「この道を通って大丈夫か。この野菜を食べても大丈夫か。生まれた子供は無事成長するだろうか」。福島原発事故から2年。この間の精神的ストレスを尋ねたスイスインフォのEメールアンケートに、不安、絶望などの感情を綴った返事が福島から届いた。南相馬の原発から北24キロメートルの病院で社会学的視点から精神医療を行う、堀有伸(ありのぶ)さんに聞いた。

 堀さんは福島原発事故後の2012年、東京から南相馬の病院に移った。福島の人々に寄り添いたいと思ったからだ。それは精神科医としてだけではなく、広く社会・文化的、精神構造的な支援を目指したものだ。

 今、地域のつながりを復活させるNGOを立ち上げながら、「自分の心の問題をおおっぴらにするのを好まない福島の人々」に少しずつその心の扉を開くよう働きかけている。なぜなら、不安、絶望、喪失感などを心に仕舞い込むことは、とても危険だからだ。

swissinfo.ch : アンケートでいただいた返事では、幼いわが子の健康への不安を中心に、強い不安感を抱いている人が圧倒的でした。診察されていても同じですか?

堀 : 福島県の人は、口には出さないだけで皆不安を抱えていると私は思います。特に子どもの健康への不安は大きい。また初期にかなりの被曝をした人が多いので、将来健康上何かが起こるのではないかという不安。原子炉が再び爆発する不安と、廃炉作業で再び放射性物質が漏れ出る不安。また、福島は偏見を持たれるのではないかという不安。こういった種類の不安がみられます。

swissinfo.ch : しかし、この不安感は2年間続きこれからも続いていくもの。さらに不安を抱える人の数が膨大です。これは特殊な状況ではないでしょうか。また、こうしたなかで精神医学的に何が起こるのでしょうか?

堀 : 確かに今までありえなかった経験をしています。精神面では、元から精神疾患があり、躁うつ病や統合失調症などで治療を受けたり入院したりした人が、再発した例が出てきています。これは分かりやすい現象です。

一方、阪神淡路大震災でもそうだったように不安感や絶望感から、アルコール依存症やうつ病、孤独死などが増えてくることはあります。

swissinfo.ch : アンケートの返答に、半径20キロ圏内(警戒区域)の人からのものがあり、建てたばかりの家に一時帰宅し、荒れた庭を見ながら「子どもや孫と住めたであろうこの家に戻れないことから近い将来が奪われた。まるで自分の葬式を見ているようだ」と書いています。この深い絶望、喪失感をどう思いますか。

堀 : 故郷を失うことや喪失感は、精神医学的には新しいものではありません。

しかし、土地を耕し土地とともに生きてきたこの地域の人にとっては、土地との結びつきはかなり強い。全く帰れない場合はまた違うかも知れませんが、一時自宅に帰れることで、かえって将来帰れないこと、ないしは帰れなくなっていく過程を目の前で実感するなど、今回福島の20キロ圏内の状況は特殊だと思います。

実際20キロ圏内で一時帰宅した人が、その自宅で自殺したという事件が2件も続いて起きています。

不安感にしろ、喪失・絶望感にしろ、放っておいて内面化すれば非常に危険な状況になって行きますから。精神的ケアが大切だと痛感します。

swissinfo.ch : 堀さんは、精神的ケアと同時に精神疾患の症例を統計化する疫学的なことも考えていますか?

堀 : ぜひ行いたいのですが、なかなか難しい。現地に入っている精神科医が多くないというのと、もう一つはカルチャーの問題だと思いますが、住民の方が心の問題をおおっぴらにするのを好まない。

特に東北の方は、例えば私がうつ病にならないようにと講演をしに行っても「先生の話はありがたいけれどあまり役に立たない」などと言われます。心の問題を外に出さず、自分で抱え込んだまま、耐えることに慣れているというか。

ただ逆に、今回のアンケートでこれだけ深刻な訴えがあったとなると、しゃべりたがらない人たちが公に話しているということで、相当のトラウマがあるということです。真剣に受け止めないといけません。

堀有伸(ありのぶ)さん略歴

1972年、東京都に生まれる。

1997年、東京大学医学部医学科卒業。日本国医師免許取得。

1997~1999年、東京大学医学部附属病院分院神経科にて精神医学の研修を受ける。

1999~2003年 都内の精神科病院や総合病院に勤務。

2003~2008年 埼玉県の川越同仁会病院で、精神分析的な治療共同体(therapeutic community)の思想を中心にした実践による、精神科病院の長期入院患者の社会復帰の問題に取り組む。

2008~2012年、帝京大学医学部付属病院の精神神経科で、慢性化・難治化したうつ病患者への、社会心理学的アプローチについて研究。

2012年から、 福島第一原子力発電所より北24㎞の地点にある、雲雀ヶ丘病院に勤務。

現在、診療を行うと同時に「みんなのとなり組」というNGOの立ち上げを申請中。これにより地域でのつながりを復活させようとしている。

swissinfo.ch : ところで、絶望感や喪失感は、例えば阪神淡路大震災などでもありました。福島の原発事故がこうした他の災害と決定的に違うのはなんでしょう。

堀 : それは家族・社会・地域の分断です。神戸のような自然災害では、精神的苦悩はありますが、後に復興に向け地域が一つにまとまり、精神的にも強くなれるのです。

ところが福島では、放射線が多くの分断や対立をもたらした。

まず、家族内でも夫婦間の分断(妻が子どものことを思い避難したいと言う。それに対し夫はここに残っても大丈夫だと言う)。世代間の分断(高齢者は庭の野菜を食べてもいいと言う。だが妊娠を控えたお嫁さんは納得できない)。社会の分断(ある女性は食べ物に神経質。それを批判する友人。その無神経な友人を理解できない女性)。地域の分断(避難した人としない人の断絶)。それに加え、賠償金の額の違いなどによる分断があります。

swissinfo.ch : しかし、分断は放射能に対する理解・解釈の違いによっても起きている。これが起きたのは、結局は行政が透明性のある情報の出し方をせず、またきちんとした政策を打ち出さなかったからではないでしょうか?

堀 : たしかにその通りで、私たちも行政がもっと積極的に丁寧にやってほしいという気持ちはあります。なにしろ、被曝の直後に色々な情報が隠されたと多く国民が感じていて、私もそう思っています。

実は、私が東京の診療所から南相馬にきたのは、今回の出来事が福島だけの問題ではなく日本人全体、特に日本の指導的な人々によって引き起こされた問題だと思ったからです。

日本は今、借金を抱えながら根本的な解決策が出せない。少子高齢化が進むのに子ども・親を守る政策が出せない。そこには、問題を先送りするだけできちんと問題に対峙できない精神構造の日本人、特に日本の政治家の姿がある。福島はそうした精神性が集中的に現れた出来事だと思ったのです。

よって今、こうした精神構造を変えないといけないのは指導的な人々です。ところが震災でひどい目にあった福島の人たちが、放射能の問題のために、苦痛を伴う(自分たちで将来を決めなければならないという)精神的課題に、自ら取り組まねばならないという不条理な事態が起きている。だからこそ福島の人たちに寄り添いたいと思ったのです。

具体的には、精神科医として診療を行いながら、「みんなのとなり組」という組織を立ち上げました。固い催し物と柔らかいものがあり、固い方では医療や精神医療の講演会をやり、柔らかいものでは、ラジオ体操やパーティーを開いたり、ハイキングに行ったりしています。

swissinfo.ch : しかし、こうした催しなどで昔の地域性を復活させる取り組みは、いわば集団帰属性を復活させ、自己分析・自己決断の育成を阻むのではないでしょうか。

堀 : 自己分析・自己判断を行い徹底的に変わらないといけないのは、都会の人や政治家、社会の上層の人々です。

こうした人々が帰属集団の殻に閉じこもっている姿は、ナルシシズムの病気に似ています。この病気で一番深刻な状況は、自分が傷つくのが怖くて人とのコミュニケーションを断絶してしまうことです。

その閉じこもりを少しでもはずし、コミュニケーション力を高めれば問題が改善することを臨床医として経験してきています。日本の政治家や上層の人たちも、外国との、ないしは外部とのコミュニケーション力を高め、個人として帰属集団から自立すべきです。

しかし、福島では、人々の集団帰属性を覆すような徹底的な解決を探ってはいないのです。集団帰属性の良い面を生かしつつ、程度が少し変わることが望ましいと思っているからです。

今、集団に帰属し自分を殺してでも皆のためにがんばろうと立ち上がり始めた福島の人々の、「伝統的」な姿勢は生きる力になっている。この伝統のモデルを崩さないまま、できれば自立していく方向へ今後少しでもずらして行けたら、本当にうれしいです

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