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税制と民主主義 納得できる?スイスの軽減税率

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ある日の買い物で、豚肉、サラミ、バナナ、きゅうりには軽減税率の2.5%、ハンドソープや生理用品には標準税率の7.7%が加算されていた。同じ「生活必需品」なのに、不公平?

(swissinfo.ch)

日本で10月1日から消費税率が8%から10%に引き上げられ、同時に軽減税率が導入される。スイスでは1995年に消費税に当たる付加価値税(VAT)が始まり、その当時から軽減税率が組み込まれている。民主主義の優等生を自負するこの国で、VATは民主的と言えるのだろうか。

日本からの小包で「え?」ということがありました。スイスへの郵送品にVATを支払わなければいけなくなったのです。つい最近まで対象外だったのですが… (Hinami Miyataniさん)

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スイスインフォに寄せられたこの読者質問の背景には、2018年8月の政府指令他のサイトへがある。国外オンライン販売業者に注文した商品はそれまで、VATが5フラン以下、つまり書籍で商品価格が200フラン、その他商品では62.50フランまではVATが免除されていた。国内業者は商品価格に関係なくVATが課されていたため、アマゾンなど国外業者に比べて不利との批判が高まっていた。19年1月1日から免税枠がなくなり、スイスでの年間売上高が10万フランを超えるオンライン販売業者からの購入は、額面に関わらず商品価格も送料もVATの対象になった。

スイスから消えるAmazon.com

スイスVATの不思議

スイスのVATは1995年に導入された。1977年、79年、91年に続いて93年に行われた4回目の国民投票で、標準税率6.5%のVAT導入がようやく可決の日を迎えた。それまでは物品だけにかかっていたVATが、サービスにも広がった。ただし連邦政府によるVATの課税権には期限があり、15年ごとに国民投票で審判を受ける。

物品税の時代からあった生活必需品に対する軽減税率も95年に引き継がれた。スイス連邦納税事務局他のサイトへは複数税率の意義を「社会性や景気との連動性、その他の理由から付加価値税を課税しない・軽減する必要があるサービスもある」と説明する。

 

現行税率

対象

軽減税率

2.5%

水道水、食料品・食品添加物、花き・種子、ペットの餌、肥料・農薬類、医薬品、新聞・雑誌・書籍(電子を含む※)、ラジオ・テレビ受信料、農産物の宅配料

特別税率

3.7%

ホテルの宿泊代(朝食代を含む)

標準税率

7.7%

その他の物品・サービス

非課税

ヘルスケアセンター、教育、文化、スポーツ行事、社会保障、銀行・保険、不動産の賃貸・売却、賭博・宝くじ

※電子媒体は2018年他のサイトへ

いわゆる生活必需品が軽減税率の対象になったわけだが、これに加えて「ホテルの宿泊代」を対象に特別税率が設定されている。フラン高に苦しんでいたホテル業界を救おうと、大きなロビー活動の末にVATの開始から1年遅れて導入された。

5年間の時限措置だったが、長引くフラン高を理由に繰り返し延長され、今も健在だ。2012年の延長時には1年間に非課税にする案、17年の延長時には特別税率を恒久化する案も提案されたが、ともに議会で否決された。

ベルン大学観光研究所のマークス・ロラー他のサイトへ氏は「スイスの観光業は宿泊者の5割以上が国外から来る『輸出産業』だ。本来輸出品はVATの対象外で、標準税率を課すのは理不尽だ」と話す。また宿泊が増えれば飲食や交通機関などにもプラスとなり、時計などスイスの主要製造業に比べても波及効果のすそ野が広い。

ドイツやオーストリアなど近隣諸国も宿泊業に軽減税率を設けていることも見逃せない。EU指令は加盟国に標準税率を最低15%とするよう義務付けているが、1~2段階の軽減税率を設けることを認めている。欧州連合(EU)加盟国のうち25カ国が宿泊に対し軽減税率を適用。「特別税率で年200万フランの減税効果があるとされる。「税制上の競争力を保つことが不可欠だ」(ロラー氏)

軽減税率は効果薄

本来の軽減税率は、付加価値税は所得の少ない人ほど負担が重くなる「逆進性」を和らげるために適用されるものだ。「生活必需品」とされる食料品に限らず、文化的生活に必要最低限の物やサービスも軽減税率の対象とされる。

そこに「産業保護」の目的が加わることは珍しくない。EUではフランスが「雇用促進効果」を理由にレストラン業の軽減税率適用を理事会に働きかけ、09年のEU指令改正で軽減税率の対象に加えた。

ただこれを無制限に認めていくと、税体系が果てしなく複雑になり徴税コストがかさむという別の問題を呼ぶ。ロビイングの強い産業だけが軽減されれば、産業間の不公平感を生んだり、消費者の税制に対する信頼を失ったりすることにもつながる。

ルツェルン大学の政治経済学者クリストフ・シャルテッガー他のサイトへ教授もこうした問題意識から、スイスのVAT税率を一律化するよう提唱している。昨年9月に発表した論文他のサイトへで、スイスの複数税率には所得格差を軽減する効果がほぼないと指摘した。主な理由は「必ずしも低所得者が軽減税率対象の物やサービスに多く支出するわけではない」ことがある。

シャルテッガー氏は税率を一律化したほうが、企業の事務負担が減る分、全体的な経済効果は高いと指摘する。連邦政府も2011年、経済団体エコノミースイスなどからの要請を受け、税率を一律6~6.5%にする案を提起。だが「フェラーリの税率が下がり、パンの税率が上がる」と反対論が広がり、議会審議で否決された。

納得感映す国民投票

政府・議会で改革論が進まないのは、国民がある程度VATの現状に納得していることの裏返しともいえる。宿泊業への特権も「国民が広く大なり小なり恩恵を受けている」(ロラー氏)ことから、大きな反発は起こっていないのが実情だ。VATの2035年までの延長が問われた18年3月の国民投票も、ほぼ無風のまま賛成84.1%で可決された。

軽減・特別税率の適用対象は連邦憲法で定められているため、不満があれば有権者はイニシアチブ(国民発議)で異議を唱えることができる。その実例が2014年9月のレストランとテイクアウトに同じ税率を求めるイニシアチブ(国民発議)だ。

≫スイスの「イニシアチブ」とは?

飲食店の業界団体ガストロスイスなどが「同じソーセージがテイクアウトなら2.5%のVATなのに、レストランで食べると8%になるのは不公平だ」と訴えたが、結果は反対票71.5%の大差で否決。税収減を防ぐには外食も食料品購入も一律3.8%に定める必要があり、食料品の税率が2.5%から上がることに理解が広まらなかったとされる。

スイス全土で大規模な女性ストライキが行われた今年6月14日、生理用ナプキンやタンポンなど生理用品も軽減税率の対象にするよう求める請願他のサイトへが1万1千筆の署名とともに連邦議会に届けられた。下院は同じ内容の議員動議他のサイトへを可決済み。請願は上院でも可決するよう促すものだ。

国民生活に広く影響するVATが政争の具に使われるのは、スイスも例外ではない。だがシャルテッガー教授は「VATのあり方を国民が共に決められるのは重要なことだ。税制をエリートだけが議論する仕組みは、21世紀の社会にはそぐわない」と強調する。スイスのVATは国際的に見れば効率性が高いといい、その背景に直接民主制があると話す。

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