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税制 スイスが解く 富裕税をめぐる謎

スイス中央部ツーク州のハインツ・テンラー財務局長は、企業の誘致競争のライバルは隣の州ではなくシンガポールやオランダだと話す

スイス中央部ツーク州のハインツ・テンラー財務局長は、企業の誘致競争のライバルは隣の州ではなくシンガポールやオランダだと話す

(Keystone / Alessandro Della Bella)

スイスは富裕税に関する興味深い実験場だ。各州政府が自由に税率を定められるためだ。なぜスイスの州は富裕層を呼び込むための税率引き下げ競争をしないのか?

それは筆者が先週スイスを巡ったときの最大の疑問の一つだった。

既にスイスに拠点があるならば、別の州を移るのは入国に比べればはるかに簡単だ。富裕税競争が起こるとしても、国家間の競争ほど激しくはならないだろう。スイス国内法は、富裕税を完全に非課税にすることは禁止しているが、税率そのものは各州が自由に設定できる。その結果、所得税も富裕税の実効税率も州の方針に応じてばらつきが大きくなった。だがそれでも州の歳入に大きな差は生まれない。

その理由の一つは、スイス国内での移動が自由だとしても、どの州も決して替えが利くものではないということだ。文化や政策、家系などあらゆるものを踏まえて人々は住む場所を決める。例えばフランス語圏とドイツ語圏のどちらに住むかも大きな違いだ。

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「ツークの精神とルツェルンの精神は同じではない」。ツーク財務局のハインツ・テンラー局長は、米司法当局の訴追の手を逃れたスイス商人、マルク・リッチがかつて使っていた事務室でこう語った。テンラー氏は近隣州がツークと競うように富裕税を引き下げてはみたものの、「うまくいかなかった」とほくそ笑む。ルツェルンは財源を失い、税率を元に戻さざるを得なかった。テンラー氏は、富裕層の獲得競争の真のライバルはルツェルンや他の州ではなく、シンガポールやオランダだと話した。

これは第二の理由に関係する。州はお金が必要なのだ。これが富裕税率の最低ラインを引く根源になっている。

厚い支持

複数の人の話から明らかになった第三の理由は、富裕税が実は支持の厚い税金だということだ。富裕税は長い間、物事がきちんと回るために必要な要素の一つとして受け入れられ、存在してきた。税の専門家によると、富裕税は所得税よりも昔から存在し、もし誰か廃止したいと思う人がいたならレファレンダムが提起されていたはずだ。だがテンラー氏は、ツーク州では税制において富裕税の位置づけをめぐる議論は起きていないと話す。

テンラー氏の言葉を借りれば、富裕税を支持する秘密は「ただ乗り市民」の発生を防ぐ役割にある。特にキャピタルゲインに対する税が限られているスイスでは、富裕税がなければ財産があるにも関わらず税で何の貢献もしない市民が生まれてしまう。

これらの要素全てが、税率引き下げ競争の勃発を防いでいる。ジュネーブは純資産に対する限界税率を1%に据え置き、最低税率を保っている。

スイスの例は他の課題を解決するヒントにもなる。富裕税導入の障壁は、手元に現金がない富裕層は納税の元手がないということだ。特に起業家は、ベンチャーキャピタルによって高評価され多額の投資を受けながらも、実際の収入には乏しく納税できないというケースが少なくない。

紆余曲折

スイスの税務当局はこうした課題に対処するため、税制にたびたび改正を加えてきた。例えばツーク州は、新興企業が証券取引所に上場されるまで経営者の富裕税を非課税とした。だが税制ルールの操作はいずれ税務当局・超富裕層がこぞって低税率へと誘導するようになり、より不健全な税制競争に陥る可能性のある諸刃の剣だ。透明性の高く筋の通った税制をきちんと定めることが望ましい。

ザンクト・ガレン大学のロバート・ヴァルトブルガー教授(税法)は、いくつかの州では主要産業である農業のためにより有益な形に変換していると教えてくれた。土地の利用形態として農業はあまり儲からず、農業財産の所有者は富裕税の計算上、売却された場合の市場価値ではなく土地から得られる収入に基づいて評価される。だが土地の利用が変わり例えばゴルフ場に転換された場合、市場価値での評価に変わる。州は、売却時点から最大20年前まで遡って資産税を課すこともできる。ヴァルトブルガー教授は、同様のルールを遡及期間を短くして新興企業にも適用するべきだと提案する。

米経済学者のガブリエル・ザックマンは米国の富裕税に関し、非上場企業に適用すべき仕組みとして「現物支給」案を提唱する。非上場企業には時価総額の2%を納税させるより、企業主が政府に株式の2%を納める。そのために私企業の株式を取引する公共市場を設けるか、核となる府系の投資ファンドを創設する。それらを混合した解決策もありうる。現金化しにくい資産の一部を保有するのではなく、政府は資産が売却されるまで積み立てられる資産に対し「仮想」の請求権を有する仕組みだ。

現物支給法には素晴らしい実例がある。パリのピカソ美術館は、パブロ・ピカソの相続人が相続税を支払う代わりに寄贈した芸術作品でコレクションを築き上げた。

より重要な点は、世界的に見て富裕税を課す国は少数派であり、多方面で懐疑派が多い。だがスイスの例は障壁に対する良回答を見せてくれる。

かつてのマーク・リッチのオフィスの去り際、ツーク州財務局長にスイスから富裕税の導入や廃止に関して他の国にメッセージはないか尋ねた。局長の答えはこうだ。「富裕税は完全なまでに適切だ。私が思うに、良い制度だ」

Financial Times

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