スイスの視点を10言語で

第63回ロカルノ国際映画祭、金豹賞は中国映画「冬休み」

「ロカルノは僕に幸運をもたらした」と語るリ・ホンキ監督 www.pardo.ch

第63回ロカルノ国際映画祭の金豹賞は、「冬休み ( 仮題/ Winter Vacation ) 」を制作した中国のリ・ホンキ監督に8月14日夜、贈られた。

これは、中国の小さな村で冬休みの最後の1日を過ごす若者たちの話だ。しかし、たいした出来事も起こらず、動きも会話も少ない、ゆっくりしたリズムの映画手法が斬新だったという。

新しい手法の映画

 「この映画を見て笑い転げた。賞を選ぶのはいつも大変だ。本当に斬新な作品を選んだのかといつも疑問に思うからだ。しかし、今回のこの映画はまちがいなく新しい作品だと確信できる」
 と審査員の1人でスイス人監督リオネル・バイエール氏は、フランス語圏の日曜紙「ル・マタン・ディマンシュ ( Le Matin Dimanshe ) 」のインタビューで答えている。

 映画は中国北方の何も起こらないような小さな村で、ぶらぶらしている思春期の4人の学生が冬休みの最後の1日を一緒に過ごす話だ。4人は、父、弟、従兄と住むもう1人の友人を訪ねる。交わされる会話も「学生の時に恋愛すると勉強に差し障るのではないか」といったものだ。
 「ほぼ1時間半の間、何も起こらないが、若者たちの関係が非常にデリケートにうまく描かれている。会話もたいした内容ではないが、時々、ある登場人物、例えば弟の話す言葉や態度が笑いを誘い、強いインパクトを持っている」
 と、イタリア語圏スイステレビ (RSI ) の映画批評家マリアノ・モラス氏は言う。

 ピアッツァ・グランデ広場で上映される映画祭の呼び物「ピアッツァ・グランデ部門」で観客賞を得たイスラエル映画「人事課の課長 ( 仮題/ The Human Resources Manager ) 」もこの「冬休み」と似たような映画だ。イエルサレムのパン工場で亡くなったルーマニア人の出身地の村へ、人事課の課長が棺を届けるだけの話だ。しかし、グローバル化で根無し草になった従業員を思いやる主人公の表情が長いシーンでゆっくりと映像化される。
 
 「以上2つの映画は、動きも会話もともに非常に少なく、固定した画面が長く続き、一つのシーンに少なくとも3分はかかっている。それがこれらの映画の魅力だ。( 人生の ) 宝石をゆっくり見せてもらっているという感覚を与えてくれる、まったく思いがけないような新しい手法の映画だ」
 と「シネマ・スイス ( Cinema.ch ) 」は絶賛している。

今後の糧に

 一方、同じ「国際コンペティション部門」で、観客の熱烈な喝采を浴びたスイス映画「小さな部屋 ( 仮題/ La petite chambre ) 」は惜しくも受賞を逃した。これは2人の女性監督の共同制作だが、その1人ステファニー・シュア氏は、結果に落胆した様子も見せず
 「第1番目の贈り物はロカルノに選ばれたこと。また第2の贈り物は観客の熱烈な拍手だった」
 と語った。同作品は、9月にティチーノ州で、2011年初めにスイスのフランス語圏での一般公開が決まっている。

 また、才能ある監督を発見する「新鋭監督コンペティション部門」にノミネートされた日本の山内崇寛( たかひろ ) 監督 ( 31 歳 ) の「21世紀」も残念ながら「新鋭監督コンペティション部門」での優勝を逃した。

 「もともと受賞など考えてもいなかった。ロカルノを体験させてもらえただけでも、打ち震える思いで感動している。これを今後の糧にしていきたい」
 と山内監督は語り、ロカルノ映画祭そのものも
 「こんな素晴らしい映画祭があるとは来るまで知らなかった。ネットで調べただけでは分からない。世界は広いと驚いた」
 と話した。

なお、同賞にはフランスの「寓話( 仮題/ Paraboles ) 」が選ばれた。

一般的に好評

 今回の「第63回ロカルノ国際映画祭」は、新しいフランス人アーティスティック・ディレクター、オリヴィエ・ペール氏の、映画祭の今後の方向付けとその力量が問われる挑戦の場でもあった。昨年は390本であった映画数を今年は290本に抑え、量よりも個性のある優れた作品を厳選する方針でスタートした。
 
 結果は、ジャンルの多様性において優れており、観客にあらゆる感情表現を提供。また扱いにくいテーマである暴力、同性愛、ポルノ、若い世代の不安定さなどさえ提示したと一般的に好評だった。

 ただ、男性の同性愛を扱い、暴力性と性的表現が多い「ラ・ゾンビ (仮題/ LA.Zombie ) 」や「入浴中の男 (仮題/Homme au bain ) 」が「国際コンペティション部門」に選ばれたことに戸惑いを覚える観客や関係者も多かった。これを
 「大議論を巻き起こすような映画も選ばなくてはならない。それもフェスティバルの一部だということをペール氏は意識していただけだ」
 とバイエール氏は説明する。

 また
「ピアッツァ・グランデで上映された映画は期待していたものよりレベルが低く、これといった名作がなかった。しかし、全体のレベルは決して悪くはなかった。10点満点で7.5点というところか」
 とモラス氏は新アーティスティック・ディレクターの力量を評価。

 ペール氏自身は
 「本数を減らすことで訪れる会場数も減り、観客は満足していた。フェスティバル開催中、非常に幸福で満ち足りた時間を過ごせた。これから数年間、同フェスティバルの指揮を取っていく意欲に溢れている」
 と語っている。

スイス、ティチーノ州ロカルノ ( Locarno )市で8月4日から14日まで開催された。
ヨーロッパで最も古い国際映画祭として、また新人の監督やまだ知られていない優れた作品を上映することでも有名。
カンヌ映画祭などは限られた映画関係者だけでの上映に対し、ロカルノは一般の客が映画を楽しみ、監督もその反応を感じることができるという点でも、特色を成す。
ワールド及びインターナショナル・プレミアの作品のコンペ「国際コンペティション ( International Competition )、」新鋭監督作品のコンペ「新鋭監督コンペティション ( Film-makers of the Present Competition ) 」などの部門がある。
今年は国際コンペティションに18本、新鋭監督コンペティションに19本が出品された。
国際コンペティション 部門の1位に「金豹賞」が贈られた。
また、ロカルノ市の広場ピアッツァ・グランデでは、ビッグスクリーンの前に8000人近い観客を集め、一般に人気のある作品16本が上映された。

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部