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「自動車産業は自ら墓穴を掘っている」

Keystone

馬力の高い車や省エネ車、多彩なラインナップを誇るスポーティーなオフロード車、ひいては未来の自動運転車を思わせるアシスタント機能など、ジュネーブモーターショーでは新型モデルが続々と発表される。だが、自動車産業の元トップマネージャーのダニエル・ギュッドゥヴェーさんは意外にも「これでは新しい未来が見えてこない」と言う。

6日から16日まで開催される第84回ジュネーブモーターショーでは、100点以上のワールドプレミア、ヨーロッパプレミアモデルが公開される。ジュネーブのモーターショーは、米国デトロイト以外では唯一、毎年開催されている。

swissinfo.ch : 主催者や自動車産業は「ジュネーブモーターショーは他に類を見ない、またとない機会」と評価しています。スイスには自動車メーカーが存在しないため、モーターショー開催に適した中立的な立地条件が吸引力となり、新型モデルや革新的技術が集まると言われますが、あなたも同じ意見ですか?

ダニエル・ギュッドゥヴェー : 私はそうは思わない。ジュネーブは自動車産業のマネージャーの出張先としては良い場所だろうが、業界がジュネーブモーターショーを最優先の目標にしているとは考えにくい。展示は富裕層を対象にした従来の商品が中心で、決して革新的技術がメインのモーターショーではない。

ジュネーブモーターショーは、新たなイメージとアイデンティティを早急に確立しなければ、近い将来、存在価値を問われることになるだろう。メーカーがモーターショーを待たずして新型モデルを公開するようになる恐れもある。

私の数十年来の願いは、自動車メーカーの存在しないスイスがリーダーシップをとり、世界に名だたるジュネーブモーターショーを過去ではなく、未来を見据えた革新的な商品の展示会に変えてくれることだ。

そうすればジュネーブは最新テクノロジーのメッカとなり、「未来の商品」を求めて官庁や企業などの大口顧客が集まってくるに違いない。

第84回ジュネーブモーターショーは、6日から16日までジュネーブのパレクスポ会議センター(PALEXPO)で開催。

主催者は70万人以上の来場者を見込む。

自動車メーカーの関係者によると、ジュネーブモーターショーはフランクフルト、デトロイト、パリ、東京で行われるこの種の博覧会と同様に、最も重要なモーターショーの一つに数えられる。

スイスには自動車メーカーがないため、出展者に対する条件が平等。この中立的な立地条件を出展者は高く評価している。

スイス国外からの来場者が45%を占め、特にドイツ、フランス、イタリアなどの隣国からの来場者が多い。

swissinfo.ch : 数年後には、自動運転車(ロボット・カー)が実用化されるといわれます。危険を察知して自動的にブレーキをかけたり、道路の状態を的確に把握したりするなど、技術を駆使した最新のアシスタント機能がジュネーブモーターショーで発表されますが、このようなテクノロジーが、未来の姿なのでしょうか?

ギュッドゥヴェー : 私に言わせれば、自動運転車は今世紀最大のナンセンスだ。せっかく車に乗ってもシステム任せで自分は運転できないのなら、電車に乗る方がましだ。その方がリラックスできるし、少なくともトイレに行ける。(自動運転車の開発は)結果として、自動車産業が自ら墓穴を掘ることになるだろう。100年以上も宣伝されてきた「走る楽しさ」が失われてしまうからだ。

swissinfo.ch : ヨーロッパ市場に限って言えば、自動車の販売売り上げが低迷しています。自動車産業は新製品を次々に打ち出し、ありとあらゆる需要をカバーしようとしていますが、これは意義ある戦略でしょうか。

ギュッドゥヴェー : 長期的に見ると意味がない。市場停滞の問題は別のところにある。しかし自動車産業は斬新的な行動をとるのに二の足を踏んでいる。自動車産業が抱えている問題は次の四つに集約できるが、これは過去20年来変わっていない。

第1に、今後燃料は不足、あるいは燃料価格が明らかに上昇するという点。第2に、環境保護の問題が拡大し、法的な規制が厳しくなるという点。その結果として、ガソリン車およびディーゼル車の販売が難しくなると予測される。二酸化炭素(CO2)の排出量に関して言えば、自動車産業だけが悪者ではないが、ほとんどの人が自動車を現在所有または将来的に所有することを考えれば、業界は先駆的役割を担う必要がある。

第3に、この先数十年の間に、世界の人口の約9割は都市部に住むようになると予測される点。そうなると1950年代に「チューリヒからミラノへ」移動するために開発された自動車は不適切だ。都市部では移動距離も短く、街のどこにでも電源があるため、電気自動車の方が向いている。

第4に、若者の間で車がステータスシンボルではなくなりつつある点。ある調査では、日本人の若者(18~25歳)の6割以上が「車なしの生活も考えられる」と回答している。これには、大都市では車に乗るのがかえって不便になったという背景がある。

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swissinfo.ch : 「ジュネーブモーターショーは、これから20年先、とは言わないまでも、数年先の未来を予言する展示会だ」と自動車産業の最高経営責任者(CEO)らは反論するかもしれません。

ギュッドゥヴェー : たとえ最高経営責任者が「わが社は未来の商品を製造している」と主張しても、本当は事実とは異なると知りながらそう言っているにすぎない。私が指摘した四つの課題は現実問題だ。この先数十年の間に、ドライバー人口が現在の10億人から20億人に倍増してもおかしくない。

また、このままいけば、二酸化炭素の問題は全く解決されない。自動車産業は、国のかじ取りを待っている。しかし、ひとたび国が電気自動車に力を入れ、二酸化炭素排出量を規制しようとすると、ブリュッセルにロビー活動をする人たちを送り込み、それを阻止しようとする。だが、何かことを起こさなくてはいけないことは誰もが分かっている。

都市部の拡大と二酸化炭素の問題を考慮すると、電気自動車が非常に有利だ。しかし自動車産業は、電気自動車に未来があるとは分かっていないようだ。例えばドイツポストは今後、配達には電気自動車のみを使用する方針だが、これは(今後の流れを示唆する)一つのサインと言える。ところがドイツポストの最高経営責任者は「当社の要望に合う商品の開発には、世界中のどのメーカーも興味を示さなかった」と話してくれた。結局、ドイツポストはアーヘン大学と提携して郵便局専用の配達車を開発するに至った。現在、30台の電気自動車が配達に使われているが、いずれは3万台にまで増える可能性もある。

swissinfo.ch : 自動車産業はこのままの路線で「搾れるだけ搾り取る」つもりでしょうか。

ギュッドゥヴェー : 確かにそうかもしれない。業界が方向転換するには、何かそうせざるを得ない理由がいる。それは、福島のような大参事が起きるか、需要が激減するか、欧州での二酸化炭素排出量の規制のような厳しい法律が定められるか、競合他社がより良い商品を出すか、などの場合だ。

また、研究・開発分野では、将来のビジョンを求めて試行錯誤している部門もあるが、資金面などで制限もあるだろう。(自動車産業が)現在行っていることに全く意味がないと言うつもりはないが、彼らの方向性がはっきりしないのも事実だ。

自動車産業の責任は重大だ。時にはリスクを負う覚悟が必要だろう。ハイブリッドカーはその良い例だ。1998年に世界の大手自動車メーカーであるトヨタが、ハイブリッドシステム(エンジンと電気モーターの二つの動力源)の導入を打ち出した。当時、他社の冷笑を浴びながらのスタートだったが、結果的には広く認められるようになった。

個人的には、ハイブリッドカーは今後20~30年の暫定的な解決策だと思う。根本的な問題は解決されないが、貢献度は高いと言える。

1942年、フランスのランスに生まれる。現在はスイスに定住。1980年代のヨーロッパの自動車産業において強い影響力を持ち、優れた業績を収めたトップマネージャーの1人。

既成概念にとらわれない型破りな人物としても知られ、エンジン馬力ばかりを強調した新型モデルを非難し、既に80年代にエコロジカルな車や速度規制、公共の地域交通の拡大に力を入れた。

パリ大学で文学を専攻。初めは教師として働いたが、1965年に自動車産業のセールスマンに転身。その後、急ピッチで出世し、1970年には28歳という若さでフランスの自動車大手シトロエン(現在のプジョー・シトロエングループ)のスイス支社の最高経営責任者に就任。後にシトロエンのドイツ支社、仏ルノーのドイツ支社、そして最終的には米フォードのドイツ支社の最高経営責任者に就任。

1991年には独フォルクスワーゲンのフェルディナント・ピエヒ取締役会長から彼の代理人に指名されたが、2年後、ピエヒ会長との意見の食い違いからコンツェルンを離れた。

1996年に自伝『Wie ein Vogel im Aquarium – Aus dem Leben eines Managers (水槽の中の鳥 あるマネージャーの体験記)』を出版し、72週間ベストセラーとなった。以来、作家やコンサルタントとして従事。

(独語からの翻訳 シュミット一恵)

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