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芸術の秋!フジコ・ヘミング in ジュネーブ ~ジュネーブ、イヴォアール、ローザンヌ~

斜面に広がる葡萄畑。葉が黄金色に色づくとそろそろ新酒の季節。ボジョレー・ヌーボー解禁日(11月15日)まであと一週間。 swissinfo.ch

10月最後の日曜日からいよいよ冬時間が始まった。今年は10月28日が開始日。土曜日の午前3時に時計を1時間戻すので、開始日の朝だけは1時間余分に眠れることになる。夏時間開始の日(3月最後の日曜日)は逆に1時間早く起きなければならないので、結局はプラスマイナスゼロなのだが、冬時間開始の日は朝寝坊できる分“小市民”はちょっと得した気分になるのだ。

 そして今年はちょうど冬時間に合わせるかのように、スイス各地で急激に冷え込み、チューリヒでは最低気温-5度を記録。例年より大分早く初雪が降り、朝起きると一面の雪景色が広がっていた。寒いのは大の苦手だが、毎年初雪が降った日だけは例外。というのは、初雪を見ると不思議に“心のリセットボタン”を押したかのような新鮮な気持ちになり、心身共にリフレッシュするからである。そして純白の美しさに見とれていると、初雪は耳元でそっとこう囁くのだ。「もうすぐ長く暗く寒い冬が始まるけれど、覚悟はよろしい?」と。

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 結局28日は終日雪が降り続き、せっかくの日曜日にもかかわらず家にこもって過ごした。夕食は今シーズン初のチーズフォンデュ。雪景色を見ると“チーズフォンデュ”が食べたくなるようになったのは、知らぬ間に半スイス人化してきた証拠だろうか。

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 翌日には雪も溶け、それ以後は平年並みの10度前後の陽気が続いている。紅葉もあと1週間ほどは楽しめそうだ。スイスの紅葉は日本に比べると赤色が少なく、黄色、茶色、オレンジ色のミックスといった感じ。天気のいい日には、斜面の葡萄畑の黄色く色づいた葉が陽光にキラキラと輝き、まるで黄金色の絨毯を敷き詰めたように見えてとても綺麗だ。

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 さて、そんなスイスの短い秋を楽しもうと、先日友人と1泊2日の小遠足に出かけた。ちょうど10月13日にジュネーブでフジコ・ヘミングのクラシック・ピアノコンサートがあったので、足を運ぶついでにレマン湖南岸にあるイヴォアール(Yvoir、フランス)と同北岸にあるローザンヌ(Lausanne、スイス)も散策することにした。フジコ・ヘミングのコンサートは機会があれば一度行きたいと思っていたので、実に良いタイミングだった。

 フジコ・ヘミングは1999年にNHKの特集で取り上げられて以来大ブームとなり、デビューCDはクラッシック界としては異例のミリオンセラーを記録。ロシア系スウェーデン人の父親と日本人の母親の間に生まれ、現在80歳の現役ピアニストである。波瀾万丈の人生を送りながらもピアニストとして一生を貫き、晩年に開花した姿にとても強く心を打たれる(詳細はリンク参照)。今回、彼女は動物愛護のためのチャリティコンサートでジュネーブを訪問。個性的な衣装を身にまとい情緒豊かに演奏する彼女は、自信とバイタリティに満ち溢れ年齢を全く感じさせなかった。最近我が身の老いをヒシヒシと感じちょっと弱気になっていた私に、まさに一発「喝」を入れてくれた素晴らしいコンサートだった。

 コンサートの前にレマン湖南岸にある「中世の村イヴォアール」を訪ね、半日程過ごした。イヴォアールへは対岸のニヨン(Nyon、スイス)から連絡船を使って30分で行ける。素通りすれば、わずか20分で全部歩けてしまうほどの小さな村だが、14世紀頃のたたずまいが残されており、誰しもが絶賛するロマンチックで静かで美しい村だ。素朴な石造りの家々は沢山の花で美しく飾られ、人目を引く珍しい建築の教会と、港近くにある古城が印象的。この古城には今でもその末裔が住んでいるそうだ。お天気が良ければ、丘の上にあるレストランのテラスでレマン湖を眺めながら美味しいフランス料理が楽しめる。レマン湖でとれた新鮮な魚介料理もおすすめだ。

 翌日はローザンヌのアール・ブリュット美術館(Collection de I’Art Brut)に出かけた。この美術館には、世界各地の盲人や聾唖者、精神障害者、精神病患者、あるいは犯罪者といった特殊な環境にいる人たちが制作した様々なジャンルの作品が展示されている。一般人とは全く違うれたてのりをつを視点から生み出された作品から、彼らの外側の世界に向けた“強いメッセージ”が心に伝わってくる。人間の心の裏側に潜んでいる感情がダイレクトにあぶり出されたような作品が多く、予想以上に見応えがあった。2人の日本人精神障害者の作品も紹介されている。芸術の秋の一日に、是非一度訪れてみたいちょっと異色の美術館だ。

森竹コットナウ由佳

2004年9月よりチューリッヒ州に在住。静岡市出身の元高校英語教師。スイス人の夫と黒猫と共にエグリザウで暮らしている。チューリッヒの言語学校で日本語教師として働くかたわら、自宅を本拠に日本語学校(JPU Zürich) を運営し個人指導にあたる。趣味は旅行、ガーデニング、温泉、フィットネス。好物は赤ワインと柿の種せんべいで、スイスに来てからは家庭菜園で野菜作りに精をだしている。長所は明朗快活で前向きな点。短所はうっかりものでミスが多いこと。現在の夢は北欧をキャンピングカーで周遊することである。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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