スイスの視点を10言語で

融氷雪剤が咲かす花

コクレアリア・ダニカ ( デンマーク・トモシリソウ ) 。日本では北海道の海岸や岩場に咲く John Crellin/floralimages.co.uk

スイス国内の道路わきに異変が起きている。遠距離トラックや自家用車のタイヤと一緒にスイスに侵入した植物の種が、スイスで芽を吹くようになった。

そればかりではない。融氷雪剤として道路にまかれる塩に、従来種であるヒナギクやタンポポが負け、代わりに塩に強い植物がはびこるようになった。

高塩分土壌を植民地化

 海岸にしか繁殖しないような植物が、スイス国内に入ってくる現象が起きている。レモン・デュラルズ氏は植物学者で環境コンサルタントだが、2003年に友人と車を運転していて渋滞にあったときのことを思い出すと言う。高速道路の中央分離帯に生えている花に興味がわき、車から出て花を摘んだという。そのときに摘んだのが、「デンマーク・トモシリソウ ( Cochlearia danica ) 」だった。この花はスカンジナビアの海岸から北スペインに生息するだけで、スイスでの生息はこれまで記録されたことはなかった。

 「植物学者にとって、まったく人工的で特殊な条件のなかで、植物がどのように対応していくのかという答を見るようで、興味深いものでした。植物が繁殖に適した環境の地質を『植民地化』することに成功したわけです」
 塩分の高い土壌では、スイスの植物は海岸に生息する植物には太刀打ちできない。

以前からあった外来種

 デンマーク・トモシリソウがスイスで繁殖するようになったのは、明らかに人間の仕業だ。雪を溶かすためにまく塩のほか、道路網にも原因がある。しかし、このようなことになるとは、だれも予想していなかった。

 スイスにある約3000種の花の咲く植物のうち約350種が、1500年代にアメリカ大陸発見に伴って渡ってきた外来種とみなされている。そして今、取りざたされている外来種がスイスに目立って多くなったのは、50年前からの現象だ。隣国ドイツやフランスで記録され、スイスにもゆっくりと進出してきたものもあるが、遠方から突然ひょっこりと現れたものもある。

 以前にごくわずかの存在が認められるだけだった外来種が、急に増加するという現象が起きていると「連邦雪・雪崩研究所 ( SLF ) 」の生物学者、ミヒャエル・ノビス氏は言う。しかし「詳しい仕組みは分かりません」

 トモシリソウ、バックホーンプランテーン( オオバコ科 ) 、砂オオツメグサなどは目立たず、植物学者の注目も浴びない。一方、細い葉を持ち鮮やかな黄色の花のサワギクは、塩分を含む土壌に繁殖する南アフリカ産の外来種で、スイスの道路わきに一斉に咲いている。

 ノビス氏の説明によると、サワギクはだいぶ以前に羊毛と一緒にスイスに持ち込まれたが、近年になって急激に繁殖したという。スイスの平野での繁殖の記録は過去10年間に限られている。ヨーロッパの海岸にある環境と同じく、塩がまかれる道路は、こうした植物に適した土壌なのだろう。

 有害な外来種がスイスに侵入していることがマスコミでも取り上げられているが、このこと自体は、新しいことでも不吉なことでもないとノビス氏は指摘する。
「温暖化問題という視点から見れば、植物にも移動が強いられています。当然、スイスでも新種があちらこちらで見られるようになるわけです」
 と言う。

環境が与える影響

 ブタクサといったどこにでも生える雑草とデンマーク・トモシリソウといった特殊な土壌に生える植物には大きな違いがある。
「どこにでも生えるような植物は、車社会が外国から運んで来て、ここで繁殖するようになったのでしょう。一方、塩分が必要な植物は、道路わきにしか繁殖しません」
 冬に融氷雪剤をまかなくなれば、こうした植物はほかの植物に負けてしまうとデュラルズ氏はみる。

 外来種が従来種を脅かさないとしても、ほかに環境への影響があるものだろうか。外来種に依存する昆虫が、スイスに来る可能性があるとデュラルズ氏は指摘する。もっとも、こうした現象はまだ見られていない。

 外来種は従来種を駆逐してしまうのではないかと騒がれているが、その数は少なく今のところは大きな問題ではないとノビス氏はみている。逆に「いくつかの外来種は、蜜や花粉をもたらすという良い面もあります」と言う。

 外来植物が益虫の好物であればなおさらだ。
「盲目的に判断することはできません。良い面も悪い面も両方あります」

ジュリア・スラッター 、swissinfo.ch
( 英語からの翻訳、佐藤夕美 )

国際連合( UN )は今年を国際生物多様性年と指定した。スイスでは、植物と動物の分布図の作成し生物の多様性を調査する計画がある。

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部