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行って得する美術館・博物館 -6- どんがらがっしゃん!に驚かないで−ティンゲリー美術館−

世界的な製薬会社ロシュの街、バーゼル。ロシュが100周年を記念してバーゼル市に寄付し、1996年から一般公開されている楽しい美術館がある。その名はティンゲリー(タンガリー)美術館。

バーゼルの駅や街を歩けば、鉄でできた動くオブジェを見かけるかもしれない。これがジャン・ティンゲリーの作品だ。

 美術館に足を踏み入れたとたんに、廃材で作られた鉄のオブジェがキーキーと音を立てる。遠くからはまた違う作品のがちゃがちゃどんどんという音が聞こえてくる。子供たちは美術館に入る前から、正面玄関の傍のくるくる回る噴水に大喜びだ。

騒々しい芸術作品

 美術館に入ると優しい雰囲気の木の床だ。この上で巨大なオブジェがキーキー言っている。動物のがい骨がくっついて、副館長のアンドレ・パルディさんが「このがい骨は鹿、これはサメ・・・」と説明してくれた。

 これらの作品は、来場者がボタンを押して、初めて音を立てながら楽しく動き出す。部屋ごとに係の人が待機していて、子供がオブジェの前でとまどっていれば、飛んできて動かし方を教えてくれる。スイスは子供歓迎の美術館が多いが、ここは特にその精神であふれている。

 中でも長さ16メートル、高さ8メートル、横幅8メートルのオブジェは圧巻だ。ティンゲリーが粗大ゴミを再利用して作ったものだが、見事な芸術作品に仕上がっている。これも小さなボタン一つで様々な形の板や車輪が大きな音を立てて動き出す。子供たちの目が輝く瞬間だ。中に入ってどうやって動いているのか構造を見ることもできる。

ティンゲリーとゆかいな仲間たち

 次の建物に行く時に通る廊下の壁は、全面にガラスがはめこまれ、すぐ横を流れるライン川を堪能できる。設計は有名建築家、マリオ・ボッタで1400万フラン(約12億円)の総工費をかけて建設された。
 
 ところがこれを眺めながら、悲しく歌っているのはシュテファン・フォン・ヒューネ作のローレライの像だ。彼女は船乗りを川に引き入れて溺れさせる伝説の主人公だ。なんというブラック・ユーモア。

 作品はがたがた音を立てて、動き方もユーモアたっぷりなのに、それが壁に映す影の動きは繊細で美しい。作品が動くと影もダイナミックに動く。この計算されたハーモニー全体で、この芸術を完成させているのだ。この存在感を写真で映し出すことは到底不可能だろう。写真に写るのは、魔法の解けたがらくただけだ。ぜひ実際訪れて、機械たちのゆかいな(時にちょっと切ない)がたんごとんを体感してほしい。

 1960年にニューヨークで最初に行われた彼の作品のデモストレーションでは、なんと最後に作品は音を立てて爆発してしまう。この時、ティンゲリーは作品の動きや音だけでなく、臭いまでも芸術にしてしまったのだ。大抵のことでは驚かないニューヨークっ子も、これには度肝を抜かれた。これによって、ティンゲリーの名前は世界にとどろいた。以後、彼の作品はニューヨークの現代美術館、日本の高輪美術館、パリのボンピドゥ・センター、モスクワのトレチャコフ美術館など世界中の美術館で引っ張りだこになる。

 特にこのポンピドゥ・センター広場の作品は有名だが、これは同じく世界的彫刻家であり、愛妻のニキ・ド・サンファールとの共同制作だ。二人はおしどり夫婦として有名だった。

 バーゼルはドイツ語圏だが、美術館の中を歩いていると、彼の国際的な名声を表すかのように聞こえてくるのは英語、フランス語、その他様々な言語だ。いかに世界中から観光客が集まっているか良く分かる。

20秒、待って下さい

 オブジェの中には古い下着がぶら下がったりしていて、あまり見ていて気持ち良くない物も。小さなイタチの毛皮が2枚ぶら下がっている。自然破壊を象徴しているのだろうか。だとしたら見たくないものでも、目を背けてはいけない、というティンゲリーのメッセージなのだろうか。パルディさんはうなずく。「その通りです。この汚い吸いかけのタバコや飲みかけのコーヒーカップは、私たちの住む消費文化を皮肉ったものです」。これらは実際に使ったものを特殊な薬品で保存して作った作品だ。

 誰もいない間に作品の一つを試してみた。動かない。動く芸術作品で有名になった美術館なのにメンテナンスが悪いとは何と言うことだ。次の作品も動かない。意地悪く動かない作品の数を数えてみる。なんと、6つ試したうち、4つは動かないじゃないか!

 筆者の不穏な動きに気づいた係りの人が飛んできた。「20秒、待って下さい。機械の繊細さによって、いつボタンを押しても動く作品とそうでないものがあるのです。丈夫に出来ているものはいつでも動くのですが、ここにあるものはあまり頻繁に動かすと壊れてしまう可能性があるので、休憩時間があるのです」。なるほど、疑ってすいません。

 後ろでさっき筆者が試しても動かなかったオブジェが「どんがらがっしゃん!」と大音響を立て、近くにいた子供が飛び上がった。これは上から鍋やら下着やらがぶら下がったオブジェで、人が通ると一定の時間が経過した後、ぶら下がった物が互いにぶつかり合い、大きな音を立てるのだ。

静かにしないでください

 パルディさんは語る。「美術館として最も気をつけていることは、人々がここで気軽に楽しんでくれることです。面白がって笑い声を立てたりしながら、この美術館を歩いてほしいのです。静かにささやき声だけが響く美術館なんて、つまらないじゃないですか。赤ちゃんの泣き声や、人々がわっと驚く声や、機械ががたがた音を立てる、そんな生き生きとした空気に満ちた美術館であってほしいのです」

 レストランやお土産ショップも楽しい。レストランには、ティンゲリーが製作した特徴あるテーブルや椅子が置かれ、カラフルな電球のついたシャンデリアが踊るようにつるされている。お土産ショップには現代芸術の専門書のほか、少々気持ちの悪いデザインのお土産やかたこと動く素朴なおもちゃなども置かれている。子供のためのゲームは250フラン(約2万3000円)もするが、壁にかけて飾っても良いほどの美しさだ。

 毎月最終金曜日はジャズの生演奏が行われる。10フラン(約920円)の美術館入場料で本格的なジャズが聴けるのは非常にお得だ。ところで、いつもジャズなのですか?「そうです。生き生きとした雰囲気がこの美術館にぴったりでしょ」

 ティンゲリーは長い間、病と闘いながら精力的に作品を作り続けてきた。なんと、ジャズのコンサートは彼が死の恐怖を見つめながら作った作品が飾られるホールで行われた。立ち見も入れて150人くらいだろうか、ホールはぎっしりだ。音楽を聴きながら、人々は思わずつま先で拍子を取り、笑みがこぼれる。時々、子供が彼の作品をギーギーと動かしているが、それも音楽に妙にマッチしているように思えてくる。全てが、この現代芸術にふさわしく計算されているかのようだ。

 彼自身、こんな言葉を残している。「僕はあらかじめ200%やり遂げておくことで、100%成功する」

swissinfo、 遊佐弘美(ゆさひろみ) バーゼルにて

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住所:Paul Sacher-Anlage 1 CH-4002。バーゼル駅からトラム2番に乗り、Wettsteinplatzでバス31番に乗り換える。Tinguely Museum前で下車。
開館時間:火〜日曜日、11:00〜19:00。
入場料:10フラン(約920円)。
毎月最終金曜日にはジャズのコンサートが開かれる。

補足情報

ジャン・ティンゲリー略歴
‐1925年スイスのフライブルク/フリブール市に生まれる。
‐1927年家族と共にバーゼルに移る。
‐1945〜52年抽象画を描いたり、ワイヤー、金属、紙、木などを使った作品を製作する。
‐1952年パリへ移る。
‐1960年ニューヨーク近代美術館で屋外イベントを行い、大成功を収める。
‐1967年カナダ・モントリオール万博に出展。
‐1991年スイスの首都ベルンで死去。



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