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スイス全域で農薬使用を禁ずるイニシアチブが国民投票へ 発起人に聞く

デモ
スイス全国で農薬使用を禁じるー。その是非を問う国民投票が行われることになった Public Eye

スイス国内全域で農薬の使用を禁止するよう求めるイニシアチブ(国民発議)を立ち上げた市民グループが今月、国民投票実施の条件を満たす署名14万筆を集め、連邦内閣事務局に提出した。今後数年以内に国民投票が行われる見通し。革新的な内容だが、発起人たちは過半数を取れると自信を込める。

 イニシアチブの名称は「For a Switzerland free of synthetic pesticides外部リンク(化学合成農薬のないスイスのために)」。スイス西部ヌーシャテルの市民グループが2016年11月に立ち上げた。中心となったのは音楽業界で働くエティエンヌ・クーンさんで、メンバーは政治活動と無縁の人たちだ。

 イニシアチブ外部リンクは、スイス国内の農薬使用および農薬を使った食品の輸入禁止を求めている。イニシアチブを立ち上げてから1年半で14万筆を超える署名が集まった。国民投票の結果に国外の注目が集まることは間違いなく、クーンさんたちの活動にも力が入る。

スイスインフォ:署名集めの段階で、市民の反応はどうでしたか?

エティエンヌ・クーン:熱意がすごかったです。ほぼ10人中9人が署名に応じてくれました。郵送による署名は数千通に上り、応援やお礼の手紙がスイス中から2万通届きました。私たちは今までにないくらい、国民の声を(国に)届けているんだと実感しています。政治・経済エリートはこの農薬反対の声がどれだけ大きな力を持っているか、まだちゃんと分かっていません。

農薬に関する議論

農薬問題は今後、連邦議会の議論の中心となりそうだ。ヌーシャテルのほかに、水質・環境保護を求めるイニシアチブ「Clean Water for All外部リンク(みんなにきれいな飲み水を)」が今年1月18日、連邦内閣事務局に出された。このイニシアチブは、政府の補助金支給を農薬や抗生物質を使用しない農家に限るという内容。二つのイニシアチブは今後2年以内に国民投票にかけられる見通し。

スイスインフォ:学生たちに有償で署名集めの作業を手伝ってもらったとか・・・

クーン:私たちの協議会メンバー(発起人)は7人で、それぞれの仕事に追われ、なおかつ政治は素人です。私たちは政党や大規模な非営利組織(NGO)のような財政や広報を持っているわけではないので、夜や休日を返上して働きました。

ウーリやルガーノといった遠隔地に私たちの声が届けられたのは、ひとえに口コミのおかげです。時間はかかりましたし、18カ月間という署名集めの期限が設けられていたので、どうしても外部の助けが必要でした。それでも全署名の7~8割を自分たちで集めました。資金に関しては一部をクラウドファンディングで集めることが出来ましたし、良いバランスが取れたと思います。

スイスインフォ:連邦議会でイニシアチブの議論が始まれば、農業団体やロビイストから強い反発を受けることが予想されます。国民投票前にも大掛かりな反対キャンペーンが打たれるでしょう。相手との力の差は大きいのではないですか?

クーン:もちろんです。私たちには彼らほど莫大な予算はありませんし、コミュニケーションツールも持っていません。それでも、私たちは国民投票の結果に自信を持っています。政治家は有権者が必要です。私たちのイニシアチブは国民から多くの支持を受けていますし、これから支援が増える可能性もあります。このイニシアチブで、旧来の右派・左派の垣根を超え、この重要な問題に対し多くの人を結集させたいです。

スイスインフォ:ただ、国民投票で革命を引き起こすような結果が出ることはまれです。イニシアチブの内容は、過半数を獲得するにはいささか過激すぎませんか?

クーン:全く過激ではありません。イニシアチブでは10年間の移行期間を設けており、その間に農家がゆっくりと持続可能な生産体制に移っていけるようにしています。現時点で、既存の生産方法から完全有機農法に移行するのに必要とされる期間は平均4~5年です。だから、極めて合理的な内容なのです。

(英語からの翻訳・宇田薫)

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