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開会まで1年 東京五輪を目指すスイス最速の農家

ガッツポーズをしながらゴールインするマラソン選手

2017年10月の独フランクフルトマラソンでゴールインするパトリック・ヴェーゲリさん

(本人提供)

スイス東部・トゥールガウ州で農家を営むパトリック・ヴェーゲリさん(28)には、「スイス最速の農家」というもう一つの顔がある。スイス農業の将来を背負う若き農家が目指すのは、2020年東京五輪、男子マラソン競技への出場だ。

朝7時すぎ。フラウエンフェルトの自宅を出て、朝のトレーニングを始める。牧草地やトウモロコシ畑の間12キロほどを駆け、ジムで1時間ほど筋トレに汗を流したあとヴェーゲリさんが向かうのは、自宅から10キロ超離れたヌスバウメンにある実家兼農場だ。75分の昼休みをはさんで18時ごろまで牛の世話や畑仕事をこなし、夜にも15キロほど走る。レース直前は1日40キロほど走る。

目下の練習で念頭に置くのは、10月にドイツ・リンダウで開かれるスイス選手権他のサイトへ。優勝すれば東京五輪の出場権獲得に弾みがつく。五輪出場には、来春まで2回の公式レースで80位以内に入る必要がある。ヴェーゲリさんは現在欧州ランキングで55位。自己ベストタイムは2時間15分22秒と、目指す2時間14分台まであと一息だ。

スイス北東部トゥールガウ州フラウエンフェルトの自宅周辺の野道がパトリック・ヴェーゲリさんのトレーニングコースだ

(本人提供)

ヴェーゲリさんの実家は祖父の代からの農場を営む。乳牛22頭のほかに、馬主から預かった5頭の馬を世話し、ジャガイモや小麦、たばこなどを栽培する畑も持つ。ヴェーゲリさんは牧場や畑を遊び場に育ち、幼い頃から祖父や父の農作業を手伝った。

農作業のほかに父からもう一つ教わったのが、オリエンテーリングだった。地図をみながら指定されたポイントを走って巡るスポーツで、スイス他のサイトへは競技人口が多く国際的にもレベルが高い。10歳で始めたヴェーゲリさんは2005年、14歳でスイスのジュニアチャンピオンに。09~11年にはジュニア代表として国際大会にも出場した。だが21歳のとき、農業の勉強に集中するためあっさりと競技から離れた。

「自分にもできる」

農業学校を卒業し2015年に父の農場の共同経営者になり、夢だった農家の仕事に明け暮れた。だが同時に「何かが足りない」との思いがぬぐえず、何となく始めたマラソンにのめり込んだ。その年にバルセロナで初めて参加したフルマラソンの成績は2時間27分46秒。オリエンテーリングで鍛えた足腰は健在だった。

東京五輪を意識したのは2016年、リオ五輪のマラソンを自宅で観戦していた時のことだ。スイス代表の1人クリスチャン・クラインビュール選手はレースなどで個人的に話したことがあり、タイムも2時間21分13秒と手の届く成績だった。「あの人が出場できるなら、自分にもできるのでは」。これこそ自分が求めていた「何か」だと直感し、周囲に五輪出場を宣言。父親のトーマスさん(62)は「全てを懸けて挑戦したいんだな、と分かった。それで十分だった」と、一人息子の決断をすぐに受け入れた。

最初の壁はタイムを縮めることよりも、練習時間の確保だった。五輪を狙うなら日々の練習時間を増やすのはもちろん、年計3カ月程度は強化合宿に参加しなければならない。だが農場を運営するのは両親と自分、見習い1人だけで、自分が抜ければ農作業に大きな穴が開く。時間を捻出するために閃いたのが、クラウドファンディングだった。

農家の看板を背負って走る

「農家の仕事は牛の世話だけではなく、事務作業もどっさり。自由時間はそもそも少ないし」。昨年8月に立ち上げたクラウドファンディングのプロモーション動画で、ヴェーゲリさんはユーモラスに訴えた。自家製リンゴジュースなどを報奨に資金を募ったところ、2カ月で目標額1万5千フランを超える1万8250フラン(約200万円)を集めることができた。合宿に参加する間に短期労働者を雇う資金などに充てている。

crowdfunding fastestfarmer

練習資金を募る若い農家のPV

▲クラウドファンディングを募るパトリック・ヴェーゲリさんのPV

クラウド成功に一役買ったのが「#fastestfarmer他のサイトへ」――最速の農家というキャッチコピーだ。若き農家・ヴェーゲリさんの夢に共感する声が広がり、スイス第3の銀行ライファイゼンもスポンサーについた。

アピール効果はスイス農業界にも及ぶ。スイス農業新聞他のサイトへは5月、東京五輪を目指すヴェーゲリさんを紹介し、「自然の中で行われ、『走る』という最も自然な動作から成るマラソンは、農業にとっても最も効果的な広告塔となる」と位置付けた。牛乳普及団体スイスミルク他のサイトへともパートナー関係を結び、ホームページに練習ブログ他のサイトへを載せている。「農家はスポーツを楽しむ時間もないというイメージを持たれているけれど、そんなことはないと証明できた」(ヴェーゲリさん)。

農家とマラソン選手の両立は苦労も多いが、ヴェーゲリさんは「気持ちの切り替えにはちょうどいい」と話す。仕事のストレスはマラソンで癒すことができ、走ることに行き詰まれば牛たちが癒してくれる。「マラソン選手はいずれ引退しなければならないけど、その時いつでも農家に戻れる自分でいたい」。どちらかを辞めたくなったことは一度もないという。

今年2月のセビリア(スペイン)マラソンで、パトリック・ヴェーゲリさんは自己ベストを2時間15分22秒に更新。東京五輪にまた一歩近づいた

(Www.pepoherrera.com)

そんなヴェーゲリさんにスイス農業の将来はどう見えているのか。「面白いことになると思う」。気候変動で夏場の気温が上昇したり、農薬に対する消費者の視線が厳しくなったり。水不足に強い穀物を育てるなど、工夫が必要になってくる。「アイデアはたくさんある。今は時間がないから実現できないけれど、農家は自由度が大きいから、自分で工夫するのは楽しそう」

沿道の声援

出場することになればヴェーゲリさんにとって初めての五輪。日本にはまだ行ったことがないが、マラソンが人気だと聞き「沿道の声援を受けて走るのは、マラソン選手にとっては大きな楽しみ」と胸を膨らませる。順位は狙わず、「自分のペースを崩さず、少しレベルが上の選手を数人追い抜く」ことが目標だ。

最大の敵は東京の暑さ。スイスでも真夏には30度を越える日もあるが、東京のように蒸すことはない。ヴェーゲリさんは出場が決まれば、温度や湿度を調節できるジムで体を慣らしていく予定だ。スイス最速の農家が世界の大都会・東京をどう駆けるのか。答えは1年後だ。

東京五輪マラソンへの道

2020年東京五輪の陸上競技に出場するのは各国・各種目3人まで。マラソンに出場できるのは2000年12月31日以降の生まれ。選考期間2019年1月1日~2020年4月30日の公式大会で①男子は2時間11分30秒以内の記録(女子は2時間29分30秒)または②各大会80位以内――を満たす必要がある。

20年6月3日に国際陸上競技連盟(IAAF)他のサイトへが有資格者の一覧を発表。6月8日にスイス陸上他のサイトへがスイス代表を発表する。

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