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2011年の総選挙と各党の主張 - 1 –

比例代表制のため、小政党にも議席のチャンスはあるスイスの国民議会 Keystone

4年に1度の連邦議会(国民議会および全州議会)総選挙が10月23日にスイスで行われる。福島原発事故や移民問題などを背景にして、各政党はどんな主張をしているのか。連邦議会の概要と共に、各党の主張をまとめた。

23日の総選挙はスイスの立法機関、国民議会(下院)と全州議会(上院)の議員選出だが、まずこれら議会についての概要、そして各党の主張を2回に分け見てみたい。

連邦議会、選挙方法

 下院の国民議会(議席数200)は国民を代表する機関だ。各州が選挙区となり、人口3万7500人につき1議席を各州に配分されている。例えばウーリ州のように州人口がその数に満たない場合、その州には1議席が与えられる。一方、人口最多のチューリヒ州では34議席が確保される。

 ほとんどの州は政党の得票率に応じて議席配分をする比例代表制を採用。1人の候補者に1票を投じる日本の仕組みとは異なり、スイスの有権者は各政党が作成した候補者リストの中から支持する政党のリストを一つ選んで投票する。リストにはその政党に所属する候補者名が州配分議席数と同数を上限として記載されている。

 例えばチューリヒ州には34の議席が配分されている。その場合、架空のA党はリストに34人のA党所属候補者を基本的には記載する。有権者がA党のリストを選ぶと、A党の候補者34人にそれぞれ1票が入り、さらにA党に34票入る。ただし、10人しか記載されていない場合、空欄の残り24票もそのままその政党に入る。

 また、有権者が候補者をさまざまな政党から選び、自分で一つのリストを作成することも可能だ。その場合、リストに記載された候補者に1票、候補者が所属する政党に1票が入る。議席は各政党の得票率に応じて配分され、各党内で得票数が多かった候補者から順番に議席を得る。また1議席しか配分されていない州では、多数代表制により得票数最多の政党が勝利する。

 ところで、七つある連邦閣僚(内閣)のポストは、慣例により議席獲得率によって各党に配分されるため、国民議会で議席を多く獲得すれば閣僚の座に就ける可能性が大きくなる。

 一方、上院の全州議会(議席数46)は州の代表で構成される。州の人口数が議席配分を左右する国民議会とは違い、全州議会では各州から代表2人(半州は1人)が選出される。各州の議席数が少ないため、ほとんどの州が多数代表制で候補者を選ぶが、ヌーシャテル州とジュラ州は比例代表制を採用している。

 では、各政党が秋の総選挙に向けてどんな主張を繰り広げているのか、現在議席数が多い政党から順に見てみたい。第1回は国民党(SVP/UDC)と社会民主党(SP/PS)を取り上げる。

国民党(SVP/UDC)

 「スイス人は国民党を選ぶ」。そんな愛国心に訴えかけるスローガンのもと、右派の国民党が推し進める政策は外国人排斥が中心だ。年々支持層を拡大し、前回2007年の国民議会選挙では、最多の62議席を獲得。連邦閣僚として国防・国民保護・スポーツ省にウエリ・マウラー氏が入閣している。

 国民党は、これまで犯罪を犯した外国人の国外追放やミナレット(イスラム教寺院の尖塔)建設禁止を求める国民発議(イニシアチブ)を提出してきた。スイスの独立性や国民主権を強調する国民党は最近、連邦閣僚を国民投票で選ぶことを求める国民発議を起こしており、それに必要な10万人分の署名をすでに提出している。

 原発問題に関して国民党は従来原発容認の姿勢だったが、移民を減らせば消費エネルギーも減り、その結果原発も減らせると主張。さらに、「移民の大量流入を止めよう!」と謳(うた)った国民発議を現在起こしており、外国人問題をテーマに挙げて保守派層の拡大を狙う。

社会民主党(SP/PS)

 「少数のためではなく、みんなのために」。このスローガンを掲げる左派の社会民主党は、銀行などのトップマネージャーたちに支払われる膨大な額のボーナスへの制限や育児休暇支援、社会保障の拡大(最低賃金を規定する法の導入、健康保険の国営化など)を中心に政策を進め、フランス語圏では厚い支持層を持つ。しかし前回の国民議会選挙では、52議席から43議席に後退した。同党からは今年大統領を務めるミシュリン・カルミ・レ外相とシモネッタ・ソマルガ司法警察相が連邦閣僚として選出されている。

 昨年秋に開催された党大会では、現在の資本主義社会のあり方を問い直し、また欧州連合(EU)加盟や軍隊縮小を党の政策に決定した。だが、この政策に党内外から支持が集まらないことを受け、同党の態度も変化しつつある。国民党同様にEUには加盟ではなく二者間協定を継続していくことを主張し、住居確保や最低賃金を規定する法の導入などの社会保障を選挙戦の軸に据え始めた。

 原子力エネルギー問題も選挙戦での重要なテーマだ。福島原発事故が発生した3月、社会民主党はいち早く脱原発を訴えた。同党はさらにクリーンテクノロジー支援も打ち出し、緑の党と同じく「できるだけ早い脱原発」を支持している。

国民党(SVP/UDC)62議席

社会民主党(SP/PS)43議席

急進民主党(FDP/PLR)31議席

キリスト教民主党(CVP/PDC)31議席

緑の党(Grüne/Les Verts)20議席

自由党(2009年以降急進民主党に統合)(LPS/PLS)4議席

自由緑の党(Grünliberale/ Vert’libérauxl)3議席

その他 6議席

キリスト教民主党15議席

急進民主党12議席

社会民主党9議席

国民党7議席

緑の党2議席

自由緑の党1議席

州の代表を選出する選挙は、ほとんどの州が国民議会選挙と同時に行う。しかし半州のアッペンツェル・インナーローデンは、連邦議会選挙が開かれる年の4月に青空議会(ランツゲマインデ/Landsgemeinde)を開き、州の代表を住民が直接投票で選ぶ。

主要政党以外にも国民議会に議席がある政党がいくつかある。2議席を獲得しているのは、中道派のスイス福音党(EVP/PEV)だ。そのほか1議席を占めているのは、聖書を党の基本方針にする連邦民主党(EDU/UDF)、共産主義の流れをくむスイス労働党(PdA/PST)、ティチーノ州のみで活動している右派政党ティチーノ同盟(Lega di Ticinesi)、キリスト教民主党(CVP/PDC)から独立して創設された中道左派のキリスト教社会党(CSP/PCS)の4党だ。

(一部情報提供、スイスインフォ・ドイツ語及びイタリア語編集部)

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