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72年続く『スイス・ベリンツォーナ国際ユースサッカー大会』と日本のつながり

大会終了後、出発前に選手やスタッフとルガーノのサン・サルバトーレ山に登った swissinfo.ch

2013年に暦が変わり、心機一転。まだまっさらなカレンダーやスケジュール帳をみると、「さあ、今年も頑張るぞ」という気持ちになる。昨年は、人生観を見つめ直すような大きな変化のある1年だったが、今年は、更に身を引き締め「一日一日を大切に、自分なりに掲げた目標に向かって頑張ろう」、そんな気持ちでスタートを切った。それぞれに年末年始の過ごし方があると思うが、私の場合、ここ数年は日本で過ごし、年末年始恒例の「全国高校サッカー選手権大会」の関係で試合会場にいる機会が多くなった。「全国高校サッカー選手権大会」は、今回で第91回を迎えるほど歴史も長く、これまでにオリンピックやプロの世界で活躍するような有名選手を数々輩出している。

 高校野球と言えば甲子園、高校ラグビーなら花園で知られるように、高校サッカー=国立競技場で、全国の約4200校のサッカー部員たちが、その「聖地・国立のピッチ」に立つため日々厳しい練習を積んでいるのだ。全国大会に進めるのは4200校中、たったの48校でその地区を勝ち抜いてきた強者たちが今度は全国の頂点を目指し、年末年始に熱い汗と青春の涙を流す。

さて、この「全国高校サッカー選手権大会」がなぜスイスと、そして私と関係があるのかを説明しなくてはならない。

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 スイスイタリア語圏ティチーノ州のベリンツォーナには、72年前から続く「ベリンツォーナ国際ユースサッカー大会」という歴史ある大会がある。この大会は、主催国であるスイスから2チーム、そして世界有数のクラブユースチームが6チーム参加し、トーナメント方式でトップの座を競い合う。毎年、南米、北米、ヨーロッパ、アフリカの有名クラブユースから参加チームを選考するのだが、日本からもクラブユースではないが「高校選抜チーム」が参加している。この高校選抜チームは、30余年ほど前に参加して以来すっかり常連になり、過去に2度優勝を飾っている。「高校選抜チーム」というのは、「全国高校サッカー選手権大会」終了後「高校体育連名サッカー専門部」が主体となって優秀選手を選出し、18人だけをセレクトして結成する高校生最強のチームのことだ。毎年2月初旬に優秀選手が招集され強化合宿や練習試合を重ねた後、18人だけに絞られる。この18人は、全国の高校サッカー部のなかのエリートと言っても過言ではない。チームは毎年3月初旬に日本で調整した後、ヨーロッパへ遠征することになっている。イースター(復活祭)の時期に、スイス・ベリンツォーナとドイツ・ドュッセルドルフで開催される国際ユースサッカー大会に日本代表として出場するため、毎年たった数ヶ月間のみ結成される、特別なチーム。この選抜チームのなかには、高校卒業後にプロ契約する選手、大学に進学し大学リーグでサッカーを続ける選手、そして3年もしくは2年に進級して引き続きサッカー部で活躍する選手などさまざまな選手がいるが、日本サッカー協会からナショナル・ユースメンバーとして招集される選手もおり、本当に才能溢れる未来のスターばかりだ。

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 高校選抜チームはかれこれ30年以上ものあいだ、奇数年にはスイスイタリア語圏で合宿した後ドイツへ移動しドュッセルドルフ国際ユースサッカー大会に出場、偶数年にはドイツ・ドュッセルドルフで合宿した後スイスへ移動しベリンツォーナ国際ユースサッカー大会に出場するというのが恒例となっている。イースターの期間に開催されるこれらの大会は、移動祝日のため毎年日付に変動があるが、選抜チームのヨーロッパ入りの時期は3月後半から4月半ばが殆どだ。

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 振り返れば約10年、私はこのベリンツォーナ国際ユースサッカー大会主催者側のスタッフとして、日本高校選抜チームの通訳(日本語/伊語たまに英語も使用)を含め、チーム全体の現地でのケアをしてきた。スイス合宿中は、それ程仕事はないがベリンツォーナの大会期間中は、到着から出発まで、また朝から晩までチームと行動を共にする程忙しい。開会式典、レセプション、チーム紹介イベント、テレビ・ラジオ・新聞のインタビュー、監督会議、ルール説明、試合、そして表彰式など、常に団長や監督、そして選手たちと一緒だ。その他、「こんな仕事も?」と思われるかもしれないが、宿泊先では選手の体調管理に関わるメニュー会議が特に重要で、チームドクターの要望をシェフに確実に通訳するのも私の仕事のひとつだ。1日3食に加え軽食まで1週間分のメニューについて、材料から調理法、フルーツのカットの仕方に至るまでじっくり時間をかけて話し合う。また、試合中はトラブル対策のため、ピッチ付近で常に待機するなど緊迫した現場での仕事もあれば、フリータイムに付近の町を案内するなど、とにかくさまざまだ。ベリンツォーナの町には、世界遺産の3つの古城があり、日本チームの滞在先は一番大きな城「カステル・グランデ」の目の前という絶好の立地。皆、到着した頃は、その歴史あるスケールの大きさに驚くばかりか、スイスの田舎町に少々のカルチャーショックを受けるようだが、帰る頃には町の人とイタリア語で挨拶を交わすなど町にすっかり溶け込み、案内なしでも自由に行き来ができるようになっている。

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 このように、日本の「全国高校サッカー選手権大会」と「スイス・ベリンツォーナ国際ユースサッカー大会」が以外にも深い関係にあるということがおわかり頂けたのではないと思う。

毎年スタッフや選手は違うが、30年以上も高校選抜チームと関わりを持つコーディネーターの榎本さんとカメラマンでスポーツジャーナリストの小林洋さんとは毎回顔を合わす。この10年、今まで色々な選手と接触してきたが、高校のエリート選手というだけあって将来有望のスターばかり。なかには、現在もJリーグや海外の有名チームの第一線で活躍している選手も多く、彼らの活躍を見る度嬉しくなる。

  「高校選抜チーム」に選ばれヨーロッパ遠征に来る18人のサッカーエリート達は、その名の通りピッチではひと際輝きを放っているが、その素顔はまだまだ無邪気な男の子。この10年、毎年チームを見てきたが、性格的に選手達は年々オープンになり海外でも物怖じせずうまく自己主張をするようになってきたという印象を受ける。海外で活躍する若手のプロ選手が増えたのも、その現れなのではないだろうか。ただ、スターとしてのオーラを放ちながらも、人懐っこく話しかけてくるあどけなさと、元気に挨拶をしてくれる礼儀正しさは毎回どの選手も同じだ。そこには、やはり学校教育として部活の仲間たちと共に厳しい練習に耐えてきたということ、そして指導者が教育者であるという背景があるからなのではないかと思う。

 現在、ちょうど第91回全国高校サッカー選手権大会の真最中。この先、勝ち残った4校が12日の準決勝へ、そしてそのうち2チームが14日の決勝戦に進出することになる。今年も、「どの選手が高校選抜チームに選考されてスイスへやって来るのだろう」という期待感を胸に試合を観戦している。

しかし、プロでもないこの高校サッカー大会、全国からファンが押し寄せチケットが完売する程の人気の高さには驚くばかりだ。裏方に入って特に思うのは、高校生たちの大会なのに、ベリンツォーナの国際大会と比べると、その規模の大きさ、厳重な警備体制、スポンサーの数、メディアの数、組織力、全てにおいて大きな違いがある。

 それでもベリンツォーナ国際ユースサッカー大会は、72年間途切れる事なく開催されて来たスイスでも歴史ある大会だ。このサッカー大会を通じ、スイスと日本は30数年関係を築いてきた。この友好的なつながりをこの先も切らすことのないよう、微力ながら貢献したいと思う。

イースターの時期にスイス・ベリンツォーナを訪れる機会がある方は、是非一度大会に足を運んでみてはいかがだろうか。偶数年には、「日本高校選抜チーム」の活躍を間近で観ることができ、ベリンツォーナの町を散策する選手たちとも触れ合うチャンスがあるかもしれない。

リッソーネ光子

マリンスポーツ界でアスリートやレポーターとして世界中を飛び回り、1998年にロケで訪れたイタリアに魅せられそのままミラノに移住。その後、縁がありスイスイタリア語圏のルガーノへ移り住んで11年。社会人としてルガーノ大学を卒業後、同大学の大学院でメディアマネージメントを専攻。現在、イタリア語の通訳・翻訳者としてメディアやスポーツ業界の他、多方面で活躍中。

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