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「イスラム国」研究


スイスから「ジハード」に参加する人たちの人物像とは?


Ariane Gigon, Zurich


世間のイメージとは異なり、未成年のスイス人ジハディストの数は少ない。大半は20~35歳、50歳前後が数人 (BR Mediathek)

世間のイメージとは異なり、未成年のスイス人ジハディストの数は少ない。大半は20~35歳、50歳前後が数人

(BR Mediathek)

なぜ70人の若者はスイスを去り、過激派組織「イスラム国(IS)」に入ろうとしたのか。その理由の一部を明らかにする研究報告書が先月、発表された。研究者たちは、ISに傾倒する若者の親族に対する支援の必要性を強調している。

 ジハード(聖戦)に参加する若者を対象とした従来の研究の多くが、安全面に焦点を当ててきたのに対し、今回発表された研究報告書は彼らの家庭事情や社会的背景に着目している。

 調査を行ったのは、チューリヒ応用科学大学社会福祉学部の研究チーム。連邦情報機関が把握している「ジハードを目的に戦地へ赴いた」人たちについて調べた。個人情報保護の観点から、調査対象者の情報をすべて入手することはできなかったが、2001~15年に連邦情報機関に登録された66人の年齢、出身地、宗教等の情報は得ることができた。現在では69人が同機関に登録されているが、後に追加登録された3人は研究の対象になっていない。

 調査の結果から、世間のイメージとは異なり、実際は未成年の数が少ないことが明らかになった。筆頭著者のミリアム・エーザーさんによると、66人中15~19歳はたった6人で、うち未成年(18歳未満)は2人だった。最も多かったのが20~35歳で、50歳前後が数人。20人はスイスのフランス語圏出身。女性は3人だった。

ムスリムを取り巻く厳しい環境

 調査対象者の多くは、父親なしで育てられた、あるいは権威的な父親に育てられたという共通点を持っていた。また、その多くが精神的に脆(もろ)く、精神障害に悩んでいた。

 調査対象者の大半が生まれたときからイスラム教徒(ムスリム)(66人中52人)で、旧ユーゴスラビアかソマリア出身。12人はイスラム教に改宗、うち6人はスイス国籍だ。

 確かにISに加入した彼らの多くはムスリムだが、彼らはスイスに住むムスリムのわずか0.0138%に過ぎない。メディアではあたかもムスリムの多くがISに興味を示しているかのような報道がよくあるが、それは実態をあまり反映していないことが調査から分かる。

 「今日の若いムスリムは2001年9月11日の米同時多発テロ、ミナレット(イスラム教の尖塔)の建設禁止を巡るスイスの国民投票、ブルカを巡る議論と共に育ってきた」とエーザーさんは言う。

 「これまでの出来事を正当化する気は毛頭ない。しかし、彼らは常に弁明を求められる。また、もしどこかで(イスラム教関連の)暗殺事件が起きたなら、『自分たちはその事件とは関係ない』と周囲に言い聞かせる必要がある」

きっかけ

 ジハードに参加するきっかけとしては、インターネット上のプロパガンダが20件。13件はバルカン戦争などの戦争経験。別の13件は「平等と昇格を約束する」サラフィー主義への共鳴だ。

 エーザーさんいわく、調査対象者にとってイスラム過激派は、戦闘員としての役割を与えてくれる「別の社会規範」となっている。テロ組織のISにも、善悪の二元論、魂の救済の約束、組織内批判の抑圧など、宗教集団全般に特有の傾向をみることができる。

 若い女性がジハードに参加する理由には、人道的理由の他に、「国際社会が何も行動を起こさないことへの苛立ち」や、「シリア市民が苦しんでいることへの焦燥感」などが挙げられる。また、「姉妹」との連帯感、さらにはISで「冒険的な」生活が送れるとの幻想も、その理由に数えられる。

勧誘方法

 研究チームは、ISがインターネット上でどのように人々を勧誘しているのかを調べるため、架空のフェイスブックアカウントを開設し、ISからの反応を調査した。すると、女性のアカウントにはすぐに大きな関心が寄せられた。

 また、ISがインターネット上で行っているプロパガンダを分析すると、彼らが医師のような専門性の高い人に積極的に声をかけていることがわかった。「彼らは、(ISが統治する社会は)うまく機能し、また公共の福祉を重視するような社会だと訴えたいのだ」(エーザーさん)

 この研究調査ではさらに、ISは専門家へ組織加入を呼びかけるビデオを英語で配信していることが分かった。この種のプロパガンダは、雑誌でも広く行われている。

必要な家族支援

 スイス・フランス語圏出身の青年はISで3カ月間過ごした後、スイスに帰国。自身を宗教集団の犠牲者とみている。連邦検察庁はこの青年に対し、社会奉仕活動600時間の略式命令を出した。これに加え精神治療も義務付けた。

 ジハードに加わろうとする青年たちをどうしたら止めることができるだろうか。彼らを一番心配するのが親族だが、フランスやドイツと比べ、スイスでは親族が相談できるような場所が用意されていない。

 バーゼル地方には過激派に関する相談施設が二つあるが、一つが経費削減のため近々閉館されることについてエーザーさんは遺憾の意を示している。親族を支えるためには、既存サービスをオンラインで利用できるようにしたり、青年たちの過激化を防ぐためのプログラムを全国で実施したり、電話相談ができるヘルプラインを導入したりすることが重要だと、エーザーさんは強調する。

恒常的増加

連邦情報機関は、ジハードを目的にスイスから紛争地域へ渡った人の数を毎月発表している。

推計71件のうち40件が確認済み。また7人がスイスに帰国していることが確認されており、他6人については不明。さらに7人の死亡も確認されており、残り6件については今後検証の必要有り。

同機関は2013年5月、ジハードを目的とした20人の渡航者(2001年以降)を把握することができたと発表。1年後の14年5月にその数は40人に増加。各州の警察当局と協力した結果、より多くの渡航者を把握することに成功した。

国連薬物犯罪事務所(UNODC)も外国人戦闘員としてテロ活動を行う人々が増えていることに憂慮している。

UNODCによると、15年5月にはジハードを目的とした渡航者が世界中で最多数となった。数カ月(14年9月~15年5月)でその数は1万5千人から2万5千人に増加。人口における割合でみるとその数は、チュニジア、モロッコ、ヨルダン、レバノン、コソボ、ボスニア、アルバニアで最も多かった。

ロンドンのNGO「ICSR」によると、人口100万人当たりの「ジハード渡航者」の死亡者数は、スイスは欧州諸国の中でも少なかった。イタリアとスペインではその割合はさらに少なく、最多がベルギー。

政府の戦略

今回の研究が発表されたのとほぼ同時の9月18日、スイス政府はテロ対策戦略を策定。

同戦略のうち重要な政策は実施済み。スイス政府は、自由と安全の調和を保ち続け、それが難しい場合には自由が優先されることを保障するとしている。

政府はまた、スイス人の過激化およびジハードへの参加を阻止するため、その潜在性がある人々の社会統合を促す政策、彼らに対するステレオタイプが形成されないための対策を考えている。他には、礼拝所などでの啓発キャンペーン、ムスリム指導者の教育規範設定、違法な内容の拡散を防止するためにインターネット接続プロバイダーやソーシャルメディアとの協力なども視野に入れている。


(独語からの翻訳・編集 説田英香), swissinfo.ch

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