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「フュージョンマン」がグランド・キャニオンを飛行

ドーバー海峡の彼方へ、歴史に残るドーバー海峡単独飛行:2008年9月26日に北フランス上空の飛行機ピラテュス号から空中に降下するフュージョンマン  Bruno Brokken

「フュージョンマン」こと命知らずのスイス人パイロット、イヴ・ロッシ氏が、新しい翼の試作品、アメリカ制覇、そしてチャンスの無限性について語った。

49歳のロッシ氏は、先週開催されたジュネーブ・ブックフェアに姿を現し、過去10年間の鳥人的偉業を詳細に記した最新著書『イヴ・ロッシ:空飛ぶ男 ( Yves Rossy: homme volant ) 』の宣伝を行った。

2008年9月、元戦闘機パイロット、ロッシ氏が国際紙の見出しを飾った。同氏は、ジェット推進式の翼を背負い、99年前にフランス人飛行士ルイ・ブレリオが飛行したルートを辿ってドーバー海峡の単独横断に成功した初の飛行士となった。平均時速200キロのスピードで飛行するフュージョンマンは、自作の装置を用いて、歴史的意義のある35キロメートルの海峡を10分足らずで横断し、パラシュートで着陸した。

swissinfo : 海峡単独横断以来、どうなさっていましたか?

ロッシ : ( スイスの ) 民間航空機のパイロットとしての仕事に戻ったほかには、あまり飛行はしていません。飛行には向かない季節だったので、会議に出席したり、公演やインタビューはたくさん行いました。数回 試しましたが、天候はあまりよくありませんでした。

試作品の翼を2点開発中で、2週間前にテストしました。以前の翼はジェットエンジンを搭載したグライダーで、大きすぎて、重すぎる上、作りが複雑でした。すべてが特殊すぎて十分な信頼性がありませんでした。そのため、もっと小さく、シンプルで高性能なものを作りたかったのです。もっとパワーがあって、小さい三角形の折りたたみ式の翼です。

ほかの人の背中にも乗せられる、誰でも使えるようなシンプルな翼を作りたいのです。そうすれば空中で一緒に編隊飛行ができます。

飛行に興味を持っている友だちがたくさんいます。複雑なので、少し怖がっていますが、私が飛んでいるのを見て自分たちも是非やってみたいと希望しています。私たちは、ほとんど誰でも使えるような翼を開発しています。興味があって、パラシュート訓練に時間を割く用意があり、基本的な飛行経験がある人なら誰でも挑戦してみるべきです

swissinfo : 次に大きな飛行プロジェクトを行うのはいつですか?

ロッシ : 長い間グランド・キャニオンに魅せられています。1カ月前にグランド・キャニオンに行って飛行スポットを見つけました。アメリカで飛行して名を上げたいです。

グランド・キャニオンには、1000メートル以上の高さの垂直の崖があります。ですからリスクを冒すことなく自分の飛行を見せることができます。グランド・キャニオンの崖の上にいる見物人から200メートル下の、地上800メートルの地点で飛行するつもりです。
グランド・キャニオンは有名で、とても美しい場所なので行きたいと思っています。そしてアメリカ・インディアンの居留地でもあり、象徴的な面もあります。サンフランシスコなどアメリカのほかの場所でも飛行してみたいと思っていますが、( 今年の9月か10月に ) まずグランド・キャニオンからスタートと考えています。

swissinfo : ご自分を現代のルイ・ブレリオと考えていますか?

ロッシ : 少しは。しかしその当時、( 飛行の先駆者は ) すべてを自分で学ばねばならず、命さえ賭けていました。現在われわれは空気力学の法則についてすべてを知っていますし、いざというときのための第2の手段を使うための道具も持っています。

彼らには第2の手段がありませんでした。自分の計画が成功するか、しないかの2つだけだったのです。私は、過去には存在しない飛行方法を開発したので少し自分を先駆者のように感じます。

swissinfo : 自分の時間とお金を何年間も、そして何10万フランもかけて製造した装置をつけて飛行し、命の危険まで冒すのはなぜですか?

ロッシ : その動機は自分のアイデアが導くところに行きつきたいからです。自分の頭の中にはアイデアがあり、実現可能かどうかを考えています。

アイデア、デザイン、実現化、製造、そしてたくさんの人々とそれを共有する、これはクリエイティブなことです。エアバスで旅客をA地点からB地点へ運ぶより、非常にクリエイティブで、大きな満足感を感じます。

何か並はずれたことを行い、できる限り前進して昇りつめ、自分個人と技術の限界を試すことが大好きです。人々に夢を与えたいと思っているので、とても充足感を感じます。

swissinfo : 背中にジェットエンジンを搭載した翼をつけて時速200キロで空を飛ぶのはどんな感じですか?

ロッシ : たくさんしなければならないことがあるので、始めは非常に緊張します。ジェットエンジンがきちんと稼働するか、いつも本当にわかりません。そして飛行機を離れる時も非常に正確でなければなりません。

飛ぶ前のこうしたことは全然楽しいことではありませんが、いったん飛行機を離れ飛び始めたら、純粋な喜びに変わり、まるで夢のようです。ダイビングスーツを着ていても、小さな翼の下ではほとんど裸のように感じます。翼に運ばれているような感じがしますが、体を動かすことができるので完全に自由な感覚があります。

どこへでも自分の目に入る方向へ行くことができます。背中をそらすと上昇し、前かがみになると下降できます。肩を右へ回せば、回転します。自分の行きたい方向に頭を向けてその方向を見るだけで、体がそちらへ向きます。全く直感的にできるのは驚きです。

swissinfo : あなたのように翼をつけて飛ぶには、パイロットとしての技術のほかに、どのような身体的、精神的な能力が必要でしょうか?

ロッシ : 十分な操縦技術が必要ですが、パラシュートの経験も相当必要です。驚異的な身体能力は必要ありません。身体面で最も難しいのは、飛行機から降下するときと、着地をするときです。飛行そのものは実際のところ非常にやさしいのです。

精神面では、すべての選択肢を比較する能力が必要です。少し危険な時や正確さが要求されるときに緊張してはなりません。さらに、リスクを冒すような人間であってはなりません。

翼をコントロールできなくなったときでも、迅速に考えて行動を起こさなければならないのです。

swissinfo : 守護天使が守ってくれていると思いますか?

ロッシ : はい、私の守護天使は忙しくて大変です! 誰か、または何かが私の周りにいます。それが誰なのか、何なのかはっきりわかりませんが、私は大きな鳥、「ザ・グレート・キュイ・キュイ ( the Great Cui Cui ) 」と呼んでいます。今までたくさんの幸運に恵まれてきたので、自分の守護天使と人生一般に対して感謝しています。私の守護天使は、私が空の上でやっていることを気に入ってくれていると思います。

swissinfo、サイモン・ブラッドレー 笠原浩美 ( かさはら ひろみ ) 訳

フュージョンマンとして知られるロッシ氏は1959年8月27日、スイスのヌシャーテルに生まれる。
過去10年間、スイスの民間空航会社のパイロットとして勤務。それ以前はスイス空軍の戦闘機パイロットを15年間勤めた。
熟練したスポーツマンでもあり、サーフィン、水上スキー、ウェークボーディング、パラシューティング、曲芸飛行、バイク、急流下り、ハングライダーなどを現在にいたるまでなら、趣味としてきた。
長年飛行を伴う冒険を行っており、 飛行機からダイビングした後、ボードの上で空中スタントをするスカイ・サーフィングに熱中している。熱気球から降下してサーフィングを行った初のスカイ・サーファー。
ほかの記録では、2機の小型飛行機の間で、それぞれの飛行機の翼の先に付いたハンドルにつかまりながら飛行した初の飛行士としてのギネス・レコードがある。

2004年6月24日、ロッシ氏は背中に装着したジェット推進式の翼で4分間水平に飛行した初の飛行士として記録に載り注目を集めた。
2008年9月26日、フランス人飛行士ルイ・ブレリオの飛行ルートを辿り、ジェット推進式の翼1枚を装着してドーバー海峡を単独横断に成功した初の飛行士となる。
ロッシ氏のジェットマンへの変容を可能にしたのは、「フォーミュラ1 ( Formular-1 ) 」の耐火スーツ、彼用に2枚、翼用に1枚と合計3枚のパラシュート、下降しすぎると警笛を発する防寒ヘルメットなどの着用、そして背中に装着する4基の小型ジェット機を搭載した3メートル幅でカーボン製の翼。同氏が発明した装置の重量は燃料を含めて約55キログラム。
ロッシ氏が8年間をかけて考案、製造、調整した翼は、操舵機能がないため、頭、肩、腕を動かして舵を取らなければならない。
操縦が必要な機器はエンジン推力をコントロールする燃料スロットルのみ。

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