2017年2月12日の国民投票 移民3世のスイス国籍取得手続き、簡素化すべきか?

現在、外国人がスイス国籍を取得するためには、長い月日と高い費用がかかる

現在、外国人がスイス国籍を取得するためには、長い月日と高い費用がかかる

(Keystone)

スイスでは現在、外国人がスイス国籍を取得しようとすると、その手続きに長い月日と数千フランという高い費用がかかる。こうした中で連邦当局は、移民3世に対して国籍取得の手続の簡素化を考えている。反対する保守右派は、「それはスイス国籍の安売りだ」と非難する。対する支持派は、スイスで生まれ育った外国籍の若者を公正に認知する手段だと主張する。

  祖父母の世代から長い間スイスで暮らしていても、3世にあたる孫がスイス国籍を取得できるとは限らない。現行法では若い移民3世が、スイス人と結婚することなくスイス国籍を取得するためには、祖父母や親と全く同じ手続きを取らなくてはならず、取得までに数年を要し、費用も同じ額かかる。

 移民3世に対してスイス国籍を取得しやすくすべきか?2月12日の国民投票では、移民3世の国籍取得手続きを簡素化するための憲法改正案をめぐり、その是非が国民に問われる。政府と議会は国民に承認を呼びかけている。

厳しい取得条件

 「移民3世にとって祖父母の出身国はすでに、休暇で訪れる国、または象徴的なつながりのある国でしかなくなっていることが多い。彼らの現実の生活は、しっかりとスイスに根付いている」と主張するのは、移民3世の国籍取得を簡素化する案を提起した、アダ・マーラ下院議員(社会民主党)だ。イタリア移民を両親に持つマーラ氏は、スイスが移民の子孫を「自国の子ども」と認めることを求めて、2008年、連邦議会に法案を提出。それから8年がたった今年の2月12日、この法案が国民投票にかけられる。

 法案は、連邦議会で討議を重ねながら行われた妥協や歩み寄りの成果だ。その結果、簡素化した手続きで国籍を取得するための申請条件は、より厳しく設定されている。

 まず、スイス国籍を希望する移民3世は、スイス生まれの25歳以下で、永住許可証(C許可証)を持ち、スイスで最低5年間義務教育を受けていなければならない。

 さらに両親のうち少なくとも1人は、永住許可証を持ち、スイスで最低5年間義務教育を受け、スイスに10年以上滞在していなくてはならない。申請者の祖父母は、どちらか1人がスイス生まれ、またはスイスの滞在許可証を取得していたことを正式に証明できなければならない。

 マーラ氏は、今回の法案が「画期的とは言えない」としながらも、意義のあるものだと話し、国民投票で承認されれば、二つの点で大きく前進するという。「一つ目は、証明するという『負担』を申請者が負う必要がなくなること。スイスに溶け込んでいると証明するのは申請者の若者ではなく、州当局側の方が、申請者がスイスに溶け込んでいないと証明しなければならないからだ。二つ目は、憲法に盛り込まれれば国籍取得条件が全国で統一されることになる」。

 現在は、州によって国籍取得の条件が異なっており、16の州ではすでに移民3世のスイス国籍取得条件が緩和されている。

「スイス国籍の安売り」

 この法案に反対するのは保守右派の国民党のみで、「スイス国籍を安売りしようとしている」として左派を非難している。同党のジャンリュック・アドール下院議員は、なぜ移民3世に便宜を図るのか理解できないという。「何かのクラブに入るのと同じだ。入会するには申請しなければならない。入会手続きをプレゼントしてくれるクラブなど、まずない。(法案が承認されれば)スイスは(入会をプレゼントする)唯一の『クラブ』となるだろう」

 アドール氏は、スイス人との婚姻による取得など、法律で認められているケース以外では国籍取得の緩和を認めるべきではないと一貫して主張しており、いくつかの州がすでに条件を緩和していることを快く思ってはいない。アドール議員によれば、スイス国籍は「しばしば闘いの末に、スイスに溶け込みスイス人になりたいという意思を証明する道のりを経たうえで手に入れるもの」だからだ。

 一方でマーラ氏は「スイス国籍の安売り」という非難に反論する。「全くそんなことはない。スイスに200万人いる外国人のうち、簡素手続きの対象になるのは年間で4~5千人ほどだ」

 ちなみに、2016年12月11日に発表されたある調査では年間2200人が対象になるとしている。

自動的には取得できない

 だが、支持派の主張がスイス国民を納得させられるかどうかは定かではない。国籍取得の簡素化に関する法案は、国民投票でこれまでに3回否決されている。最後の投票は2004年で、移民3世に自動的にスイス国籍を与えるという案だったが、反対51.6%と、僅差で否決された。この際、2世に対する簡素化も否決されている。

 4度目のものとなる2月の国民投票でそれが覆るのか?マーラ氏は、今回の法案は前回の04年とは異なり、若い外国人に自動的に国籍を与えるものではないと強調し、「(国籍取得における)出生地主義が導入される可能性がないよう、あらゆる議論がなされた」という。また、スイスに帰化を希望する外国人の承認を自治体の住民投票にかけるという内容の、国民党が提起したイニシアチブ「民主的帰化を」が08年に否決されたことには勇気づけられるという。

 2月12日の国民投票では、この法案が政府から提出された憲法改正法案であるため「強制的レファレンダム」と呼ばれるもので、イニシアチブ(国民発議)と同様に投票者と州の両方の過半数の賛成が得られなければならない。支持派は、ソーシャルメディアや政党青年部、労組、移民団体などを通じて若者の支持を集めようと試みている。

移民3世約2万5千人

ジュネーブ大学のフィリップ・ワンナー教授の調査によれば、2月12日の国民投票で移民3世の国籍取得簡素化が承認された場合、約2万5千人が申請する可能性があるという。年間平均で約2200人に相当。主にイタリア国籍の移民3世だが、トルコやバルカン半島出身者も多いと予想される。

スイス国籍取得競争

2015年、スイスでは国籍取得を希望する外国人の大幅な増加が見られた。連邦移民事務局の統計によれば、スイス国籍取得者数は14年の3万3325人に対し15年は4万888人で23%増。06年からの減少傾向を覆した。

ベルン大学のアルベルト・アッカーマン教授のように、移民専門家は、スイス国籍の取得を希望する外国人の増加は、14年に国民投票で可決された移民規制案の実施や、外国人犯罪者の国外追放をめぐる先行きの不確実さと関連していると考える。また、スイス国籍に関するより厳格な改正法が18年に発行されることも、国籍取得申請が急増した理由の一つとみられている。


(仏語からの翻訳・由比かおり)

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