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9月25日の国民投票・プレスレビュー


スイス国民、老齢・遺族年金1割増しを拒否 代わりにバランスの取れた年金改革を要求




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退職して山歩きを楽しむ。そんなゆとりのある生活を手に入れるには、どうしたらいいのだろうか? (Keystone)

退職して山歩きを楽しむ。そんなゆとりのある生活を手に入れるには、どうしたらいいのだろうか?

(Keystone)

ほぼすべてのスイスメディアが国民投票の翌日、老齢・遺族年金の1割増しを求めるイニシアチブの否決を第一面で取り上げた。スイスでも貧富の差は進み、国民の高齢化は年金制度を直撃している。そんな中、6割の反対で否決された同案件はイニシアチブ支持派の左派には敗北だったものの、反対派の右派にとっても「左派の完全な敗北」と笑って済まされるものではなく、投票者の4割が賛成したという事実を重く見て真摯な改革を進めるべきだ、と多くのメディアが書いた。またもう一つの案件、諜報活動を強化する新法の可決は、「当然の結果だった」と結論づけた。

 「自分たちの年金を1割増やしてくれるという提案を拒否するスイス国民。なんと不思議な国民だろうと外国からは思われるだろう」と、フランス語圏の大衆紙ル・マタンは書いた。「年間6週間の休暇という、社会保障制度の改善案を4年前にも拒否したスイス人。まったく理解できない国民だと言われるだろう」

 そして同紙はこう続ける。「しかし今回の、スイス国民のマゾヒスト的判断(見方によっては理性的判断)は、主題の複雑さによって揺れ動いた結果なのだ。国民の高齢化は進み、(年金の基本で第1の柱と呼ばれ、日本の国民年金に当たる)老齢・遺族年金(AHV/AVS)の財源は不足している。給料は上がり続けるという魅力的な予想も、さらに多くの保険料を払い続けなければならなくなるサラリーマンには魅力的に映らなかった」

 ドイツ語圏の主要日刊紙NZZは、このイニシアチブの否決は以下三つの国民の考え方の結論だと見る。「まず、『老齢・遺族年金の1割増し』の恩恵を直ちには受けないこと。第2に、老齢・遺族年金の受給額の増加は財源をさらに枯渇させるだけであること。第3に、政府と連邦議会が手を付けつつある年金改革案『老齢年金2020』は、バランスのある解決策を見出してくれるだろうと国民が考えたからだ」

67歳の退職はノー

 だが、今日26日から連邦議会で早速議論が始まったこの「老齢年金2020」に対して、ヴァレー(ヴァリス)州の日刊紙ル・ヌヴェリストは、こうコメントする。「この改革案の目的は年金の増額ではない。高齢化社会に対応しながら、第2の柱である企業年金の給付額を減らすことだ」

 「つまりは、定年を67歳まで引き上げるということが一つの考えとしてある。しかし、このアイデアは不発に終わるだろう。たとえこの考えの支持者でさえ、やがて67歳までの定年延長は、年金改革の全体を失敗させてしまうと理解するだろう」

右派が勝利に酔いしれるのは危険

 同じく、連邦議会で行われる議論に対しフランス語圏の日刊紙ル・タンも、「右派は、イニシアチブ否決の勝利に酔いしれている場合ではない」と警告する。

 「40.6%の国民とフランス語圏とイタリア語圏の五つの州が賛成票を投じた意味を、右派は良く考えるべきだ」。(こうしたタイプの案件には従来2~3割の賛成しかなかったため、4割の賛成は大きいこと。またフランス語圏の州が賛成した背景には、フランス語圏労働者の平均給与が国全体の平均給与より低いという点もあると日刊紙トリビューン・ド・ジュネーブは説明している)

 「また、イニシアチブの否決イコール、国民が第2の柱の企業年金の減額を認めたということではない」と、ル・タン紙は釘を刺す。

 ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガーも同じ論調でこう言う。「イニシアチブの否決は、連邦議会で今行われている年金改革案において、多数を占める右派と中道右派の議員たちが優勢な立場に立つことを助けるものであってはならない」

イスラム国がスノーデンを負かした

 もう一つの案件「諜報活動を強化する新法」に対しての、65%の賛成という圧倒的な可決について、ほぼ全てのメディアが、国際的な観点から「パリやブリュッセル、さらにはニースでの一連のテロ事件が国民の考えを左右した」と書いた。

 「イスラム過激派の脅威を前にして、スイス国民は国の諜報活動をさらに強化する道を選んだ。今までの情報収集手段には限界があった。(中略)この新法の反対派は、個人情報を収集し過ぎると誇張し、また大量の人を対象にした米国の情報収集のやり方を批判した。しかし、一言で言えば、諜報活動強化新法の可決は、イスラム国がスノーデンを負かしたということなのだ」とフランス語圏の日刊紙ヴァントキャトラーは書いた。

 また、幾つかのメディアが「この可決は責任ある形で情報収集を行うという政府や情報機関に対する国民の信頼の表れだ」と書いたのに対し、ドイツ語圏の日刊紙ベルナー・ツァイトゥングは、こうコメントした。「この可決は、情報収集機関への信頼と言うより、検証機関に対する信頼の表れだ。連邦議会はこれから新しく作られる独立した監督機関が必要な情報をきちんと受けているかを監視しなくてはならないだろう」

老齢・遺族年金の1割増しを求めるイニシアチブ

このイニシアチブ(国民発議)は、9月25日の国民投票にかけられた3案件のうちの一つ。他の二つは、「グリーン経済」の推進を求めるイニシアチブ、「諜報活動を強化する新法」のレファレンダムだった。

同イニシアチブは、スイス労働組合連合が立ち上げ、左派政党が支持した。

支持派は、企業年金受給額がじわじわと下がる中、(基本の年金で日本の国民年金に当る)老齢・遺族年金の1割増額は、企業年金受給額を補うための手っ取り早く、合理的な方法だと主張した。しかも、給料にかかる老齢・遺族年金保険料率を0.8ポイント引き上げるだけで賄えると試算した。

反対派は、政府の改革案「老齢年金2020」の方を支持するよう国民に呼びかけた。

イニシアチブとは、10万人分の署名を集め憲法の条文の改正を求めるという重要な提案であるため、国民と州の過半数の賛成が必要だ。このため今回も、どの州が賛成でどの州が反対か、注目された。

この結果、フランス語圏の四つの州とイタリア語圏のティチーノ州が賛成し、ドイツ語圏の州が全て反対した事実がくっきりと浮かび上がった。これら賛成した州での平均給与が、国全体の平均給与より低いということが理由の一つとして挙げられる。

なお、このイニシアチブの否決は、ここ3年間スイス労働組合連合や左派政党が立ち上げ、否決された数々のイニシアチブの一例となった。こうした例に、食糧投機禁止イニシアチブ(2016年2月)、富裕層の遺産相続に課税して年金制度を支えるイニシアチブ(2015年6月)、公的健康保険の導入を求めるイニシアチブ(2014年9月)、賃金格差に制限を設ける、「1:12イニシアチブ」(2013年11月)などがある。


(仏語からの翻訳&編集・里信邦子), swissinfo.ch

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