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セルン、ヒッグス粒子を発見か!

コンピューターがとらえたLHC内の陽子同士の衝突の様子 Cern

ジュネーブのフランスとの国境に位置するセルン ( 欧州合同原子核研究機構・CERN ) は7月4日、「ヒッグス粒子に似たような粒子が二つの実験装置アトラス(Atlas)とシーエムエス(CMS)で観測された」と発表した

ヒッグス粒子に似たものは昨年12月にすでにその兆候が見られたが、その後データを蓄積して解析を続けてきた。ところが、1週間前に急ピッチでその結果が出そろい、「ほぼ発見されたと発表する段階にたどり着いた」。論文の形で正式に発表されるのは7月末になる。

コロンブスの新大陸発見に例えられる

ヒッグス粒子とは、物質の質量の起源となる「ヒッグス場」の存在を証明するために必要な粒子。これが最低1個でも見つからなくては質量の説明がつかず、物質の根源である素粒子の運動を説明する標準理論が成り立たない。

 その粒子が発見されたと考えられる今、「例えるなら、コロンブスの新大陸発見に近いと言える。みんな歓喜の声を上げている」とアトラス実験装置の建設で日本チームの指揮を執ってきた近藤敬比古(たかひこ)教授は興奮を隠さない。

 宇宙が誕生した瞬間を人工的に再現する目的で、陽子ビーム同士を衝突させる「大型ハドロン衝突型加速器 ( Large Hadron Collider / LHC )」と実験装置をセルンは世界の物理学者たちと15年間かけ建設した。

 「この加速器がいわば貿易風の役で、二隻の船アトラス号とシーエムエス号を航海させてくれた。2年にわたる航海で今、この二隻の船は遠くの水平線上に浮かぶヒッグス島らしきものを、別々に同時にしかも同じ方向に見つけたと例えることが出来る」。二つの実験装置による解析は、その装置自体も方法も異なり、また陽子衝突を観測する位置も異なる。こうも異なる二つの実験グループが同じ現象を観測したということは「(ヒッグス粒子だということが)かなり正しい」

 具体的には、両実験チームは質量が126ギガ電子ボルト付近に粒子が存在することを見つけたが、その性格がヒッグス粒子に非常に似ているのだという。

ヒッグス島に宝物があるかも

  我々の体を作る物質などを含め、光で我々の目に見えている存在は宇宙の僅か4%である。ヒッグス粒子の発見はこの4%の物質の振る舞いをようやく完全に理解したと言える。「残り22%は暗黒物質。さらにその残りが暗黒エネルギーだ」

 「これからヒッグス島にさらに近づいて、島を詳しく調べることになる。その島には思いがけない宝が眠っており、宇宙の残りの96%を示唆する手がかりがその宝に含まれているかもしれない」と近藤教授は新たな期待に胸を膨らませている。

 セルンの事務局長ロルフ・ホイヤー氏もヒッグス粒子の発見を「自然を理解するマイルストーンにたどり着いた。それはわれわれの宇宙のさらなる秘密の解明に向け光を照射していくようなものだ」とセルンのコミュニケで述べている。

約55億フラン( 約5500億円 ) をかけてセルン ( 欧州合同素粒子原子核研究機構・CERN )に建設された世界最強の加速器。

1994年に建設が認められ、以後15年間かけて作られた。

宇宙誕生の瞬間に近い状況を再現するため、陽子ビームを、地下約100mから150mに埋められた全長27Kmのリング内をほぼ光速で1周させ、反対方向に入射した陽子ビームと4カ所で正面衝突させる。

この4カ所には、アトラス ( Atlas ) 、シーエムエス ( CMS ) 、アリス( Alice ) 、エルエイチシービー ( LHCb ) の大型実験装置が設置されている。

日本の研究者約100人は、アトラスに参加している。アトラスは高さ25m、奥行き44mある大型実験装置。

1944年、新潟県生まれ。

1973年、東京大学理学部理学博士号取得後、アメリカのペンシルバニア大学でポストドクター研究。

1975年、フェルミ加速器研究所で研究。

1981年、日本に帰国し、筑波市高エネルギー加速器研究所助教授。

1988年、同研究所教授。途中でアメリカのSSC計画に参加。

1994~2008年、LHCに取り付けられている、データー収集解析の大型実験装置の一つ「アトラス ( Atlas ) 」の日本チーム100人をもう1人のリーダーと共同で率いる。

2008年3月、筑波市高エネルギー加速器研究所助教授を退官。現在セルンで研究に携わる。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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