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第72回ロカルノ国際映画祭の閉幕作品 「旅のおわり世界のはじまり」黒沢清監督、ロカルノで前田敦子への「愛」語る

黒沢清監督と前田敦子

黒沢清監督は前田敦子を「異国にたった一人、頼りになるものが何もない中で、自分を曲げずに貫く役をやらせたら右に出る者はいない」と絶賛。前田は作中の役柄同様、ロカルノでも街中をぶらぶらしたといい「現地のスーパーマーケットでどんなものを売っているのか見るのが好き」と話した

(swissinfo.ch)

2019年ロカルノ国際映画祭他のサイトへは17日、閉幕作品として黒沢清監督の「旅のおわり世界のはじまり他のサイトへ」を上映した。同映画祭芸術監督のリリ・アンスタン氏から「現代で最も偉大な映画監督の1人」と敬愛を受ける黒沢監督。主演の前田敦子とともにロカルノ入りし、スイスインフォのインタビューで俳優・前田敦子の魅力、主人公の葉子に投影した日本人像などについて語った。

スイスインフォ:今作はウズベキスタン・日本国交樹立25周年を記念した国際共同製作作品です。ロードムービーというスタイルは、どこから着想を得たのですか。

黒沢清:そもそものきっかけはそうですが、(ウズベキスタン側からは)制約は一切ないから自由に作ってくれ、というオーダーでした。そんなに深く考えて作ったわけではないですが、ウズベキスタンについてはほとんど知識がなくて。あわてて勉強しても数カ月程度では表面的なことしか知りえないだろうということは最初からわかっていたので、ウズベキスタンの奥深くに踏み込んだ物語ではなく、まずは表面的に、どこか外国に急に来てしまった日本人を描こうかと。海外に行くと必ず経験する「不都合」をいろいろ描写しているだけで、多分1つの物語になるんではないかと思いました。

それで、ふと思いついたのが、日本でよくあるバラエティの旅番組の撮影クルーたちの物語でした。こういう番組って、割と表面だけを撮っていくじゃないですか。彼らの物語にすれば、ウズベキスタンという国を異国のまま表現できるかなと思い、この物語ができていきました。

スイスインフォ:その「不都合」には、監督の実体験も含まれているんですか。

黒沢:はい、かなり。海外の映画祭などに呼ばれて、行ったこともない、知識もない国に突然行って、夜ホテルを出て食料品を買いに行ったら道に迷ったりしたことは実際ありましたから。僕自身の経験したことはかなりの部分で反映しています。

スイスインフォ:今作は台詞がとても少なく、表情や動きで表現するシーンが多かったですが、葉子を演じる上で難しさはありましたか。

前田敦子:そうですね、セリフはすごく少ない現場だったなと思います。毎日毎日、とりあえず走って、たまにセリフがある感じで(笑)。今まであまり感じたことのない緊張感がありました。あ、今日は長い台詞がある、って。撮り方もこれまでと全然違いました。この作品では街中でのゲリラ撮影が多かったんですよ。ここからここまで走ってください、後ろからついていきます、という感じで。それが映画の中で、どんな風に映像で交じり合うのかな、という思いはありましたね。

スイスインフォ:前田敦子さんの起用は「Seventh Code」「散歩する侵略者」に続き3回目になります。監督をここまで引き付ける俳優・前田敦子の魅力とは。

黒沢:彼女はいい意味で孤立している感じがある。本人は違うと言うんですけどね。私生活では分かりませんが、女優として存在したとき、この若さで誰にもおもねらず、孤独に屈せず存在している、そんなイメージを持っているんです。それはAKB時代のイメージを引きずってしまっているのかもしれないですが、異国にたった一人、頼りになるものが何もない中で、自分を曲げずに貫いていく。そんな役を演じさせたら、前田敦子の右に出る者はいないですね。

あとは単純に、芝居がうまい。脚本に書かれたセリフをそのまんま、一文字も変えず、さも今思いついたかのように、ものすごく自然にしゃべれてしまう。アドリブでしゃべってるのかと思うくらい。たまにいるんです、そういう才能がある人が。本当にありがたい俳優だと思います。

前田:とはいっても、監督自身が書いている脚本なので、このセリフはこんな感じですよと監督がたまにやってくれるのが、すごく上手なんですよ(笑)。みんなまねしようとするんですが、そこはやはり黒沢さんの独特な世界観があるから、なかなかできないんです。

スイスインフォ:自分の脚本で撮ることが多いですが、最初からこういうイメージだと固めて撮るのでしょうか。それとも現場で臨機応変に変えたりするのでしょうか?

黒沢:脚本を書いているときは、実はイメージはほぼないんです。それを極力排除して書くんですよ。だって、撮ってみないとわからないから。こういう場所で、主人公は何となくこんな感じでいるのだというのは、ロケハンしたり、衣装を決めていく段階でだんだんと決まって来る。それを実際に撮ってどういう映像になるかはカメラマン次第ですね。

特に僕が作っているような映画は、いつ雨が降るかも、街中に行ったら車がどうやって走っていて、通行人がどれくらいいるのか、行ってみないとわからない。そういう点で言えば、僕の映画はその時の「本当の瞬間」が映っていると言えます。

スイスインフォ:作中の葉子は、いったんカメラがオフになると外界とのつながりをシャットアウトして、スマホで日本にいる彼氏とのやり取りに終始する。そんな「コミュニケーションの欠落」した姿が印象的でした。それは監督が現代の日本の若者に抱くイメージなのでしょうか。

黒沢:それは若者に限らないですね。大人だって、僕自身もそうです(笑)。日本人でも社交的な人はいますが、やはり言葉の通じない国に行くと、割と多くの日本人は何かこう、だまされるのではないか、悪いことに巻き込まれるのではないか、という警戒から、鉄壁の防御を築いて隙のないようにする。でもやっぱり人間ですから、見知らぬものを見てみたくなって、もう少し先に進んでみる。(作中の主人公のように)バスに乗ってみたり、とても警戒しながら、もう一歩先の路地に入ってみたりする。そういうものすごくありふれた、ある意味で日本人の微笑ましいありようの1つなのだと僕は思っています。

スイスインフォ:監督自身も閉じるタイプなんですか。

黒沢:僕はもう、ものすごく引っ込み思案ですよ。

前田:嫌だな、知らない人がたくさんいるの嫌だな、って、監督自身よく言うんですよ。意外ですけど。

スイスインフォ:監督はこれまでも様々な国際映画祭に出られていますが、その中でもロカルノ映画祭はどんな印象を持たれていますか。

黒沢:ロカルノに来るのは99年、2013年に続き3回目ですが、質が高い。規模は大きくないですが、有名、無名の作品が厳選されていて、洗練された印象です。フランスだったらフランス作品が多くなるとか、どこの映画祭も良くも悪くもその国らしい特徴が出るんですが、ロカルノはここがスイス、ロカルノだという特色を極力抑えて、ものすごく中立的に映画を選んでいるといった印象があります。中立国スイスだからでしょうかね。

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スイスインフォ:もしスイスでロケするとしたら、どんなテーマで撮りたいですか。

黒沢:日本では観光地としてものすごく人気がある国なのに、意外にこの国のことを知らないんですよね。言葉が地域によって違うなど、そういう多様性と言いますか、ヨーロッパの歴史が凝縮したような、一言では言えない複雑さがこの国にはあるのかなぁと。フランスでもイタリアでもイギリスでも撮れない、この国だからこそ成立する、ヨーロッパの歴史の複雑さが裏にあるようなストーリーが思いついたらぜひスイスで撮ってみたいですね。

黒沢清

映画監督。東京芸術大学大学院映像研究科教授。

1955年、兵庫県出身。立教大学在学中より8ミリ映画を撮り始める。初の一般商業映画は「スウィートホーム」(89年)。「CURE キュア」(97年)で一躍注目を集め、「ニンゲン合格」(99年)、「回路」(2000年)など話題作を次々と発表。「トウキョウソナタ」(08年)はカンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞、「岸辺の旅」(14年)は同部門監督賞を受賞。

前田敦子

女優、歌手。

1991年、千葉県出身。女性アイドルグループAKB48の元メンバー(2012年に卒業)。2007年、映画「あしたの私のつくり方」で銀幕デビュー。11年の「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」で映画初主演を果たし「苦役列車」(12年)や「もらとりあむタマ子」(13年)などにも出演。

黒沢清作品に出演するのは「Seventh Code」(13年)、「散歩する侵略者」(17年)に続き3作目。 

映画「旅のおわり世界のはじまり」他のサイトへ

2019年6月14日公開。日本、ウズベキスタン、カタール合作。黒沢清監督・脚本、主演は前田敦子。番組の撮影でウズベキスタンを訪れたTVリポーターの葉子(前田敦子)が、慣れない異国での旅を通し成長する姿を描く。2019年のロカルノ国際映画祭では日本人監督としては初めて、閉幕作品として上映された。

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