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スイス脱原発後の課題


放射性廃棄物の最終処分、太古の泥岩オパリナスクレイに注目


Celia Luterbacher, St Ursanne


スイス北西部ジュラ州サンテュルサンヌのモンテリ岩盤研究所は今年5月19日に開設20周年を迎えた (Keystone)

スイス北西部ジュラ州サンテュルサンヌのモンテリ岩盤研究所は今年5月19日に開設20周年を迎えた

(Keystone)

原子力発電所から出る放射性廃棄物の最終処分をめぐり、スイスの地下にある特殊な泥岩「オパリナスクレイ」が注目されている。この岩は遮水性に極めて優れ、地層処分後に放射性物質が漏れだすのを防ぐとみられるためだ。スイスには5基の原子力発電所があるが最終処分場がなく、このままでは廃炉後に何千立方メートルに上る核のごみが行き場を失う。スイスはこのジレンマを解消するため、20年前から国内の地下実験場でオパリナスクレイの研究を進めている。

 研究は「モンテリプロジェクト(MTP)」と呼ばれ、スイス北西部ジュラ州サンテュルサンヌのモンテリ岩盤研究所で行われている。地下300メートルにある実験場についてまず目に入るのは暗いトンネルだ。石灰岩でできた壁の隙間からは地下水がしみ出ている。

 奥に進むと突然、からからに乾燥した岩壁に変わる。オパリナスクレイが顔を出した瞬間だ。この岩は、MTPの科学者らにとって金脈に等しい宝だ。

 クレイは粘土の意味。暗い灰色で、地質学的には粘土鉱物に分類されるが手触りは固く、柔らかな粘土のイメージとはかけ離れている。オパリナスクレイはスイスが浅い海の底だった1億7500万年前のジュラ紀に形成された。名前の由来は、この岩から見つかった艶のある乳白色のアンモナイト「レイオセラス・オパリナム(Leioceras opalinum)」から来ている。

 驚くことに、岩の細孔(さいこう)の中には、当時の海水がわずかに閉じ込められている。オパリナスクレイが水を通さない証拠だ。それだけでなく、岩に亀裂が入っても自ら修復する性質を持つ。このため、放射性廃棄物をオパリナスクレイで包み込めば、放射性物質を半永久的に封じ込めたまま貯蔵できるのではと期待されている。

国際共同研究「モンテリプロジェクト(MTP)」

モンテリプロジェクト(MTP)はオパリナスクレイを活用した放射性廃棄物の地層処分を調査する目的で、1996年に始動。モンテリ高速道路トンネル建設時の坑道を実験場に使用している。世界8カ国16団体の共同研究で、科学者、技術者ら約1千人が参加。日本のパートナー機関は日本原子力研究開発機構、大林組、電力中央研究所。

サンテュルサンヌの地下実験場には全長約700メートルの調査用地下通路があり、放射性廃棄物の地層処分及び二酸化炭素(CO2)を大気中に出さないよう隔離する研究が行われている。過去20年間で実施した実験は計130件で、うち45件は稼働中。

地下実験場への出資金は計7500万フラン(約76億円)で、大半はパートナー機関が負担。2005年時点で、運営主体は連邦地理局(swisstopo)

「モンテリで安全なら、ほかでも大丈夫」

 モンテリの地下実験場自体は、地形的に最終処分場所には適さない。だが、研究は実際の地層処分施設と全く同じ条件の下で行われている。研究結果は、参加国が今後の最終処分場選定作業に生かす。

 スイスの地層処分場特別計画州委員会のマルクス・カギ委員長は、5月に行われたMTPの20周年記念行事に向けた声明で「最終処分場を作るか作らないかは政治的な問題。だが場所の選定については、政治ではなく科学的な視点から最終決定を下すべきだ」として、実験場の重要性を強調。「実験の初回は、失敗も重要な過程の一つ。実際の最終処分場では間違いがあってはならないが、実験場であるモンテリではそれができる」(同氏)

 モンテリではオパリナスクレイの解明のほか、放射性物質を外に出さない保管容器やバリアーの考案にも重点が置かれている。例えば、放射性物質をどれだけ封じ込められるかを調べるため、オパリナスクレイに追跡可能な一定量の放射性物質を注入し、1年後にどれだけ移動したか調べる研究などがある。

 周辺の地震発生状況をモニタリングし、地震活動が岩にもたらす影響を調べる研究も進む。有害物質を地下に半永久的に貯蔵する最終処分場は、地球の地殻変動が多大なリスクになるからだ。

 MTPのパウル・ボサート代表によれば、実験場は地震活動が活発な地層にあるが逆にそれが利点だという。同氏は「(地震活動が活発な)モンテリで安全性が実証されれば、他でも大丈夫だと言える」と自信を込める。

未知の課題

 一方でボサート氏は「オパリナスクレイはスイスを始め欧州に広く分布しているが、最終処分場の候補地とするには厳しい基準を満たさなければならない」と警告する。

 「オパリナスクレイはスイス・ジュネーブからザンクト・ガレン、ドイツ南部でも見つかっており、分布域は約10万平方キロメートル(韓国の国土とほぼ同じ広さ)に及ぶ。しかし、地下3千メートルに最終処分場は建設できない。400~900メートルが妥当だ。また、一部の地域は氷河に覆われる可能性がある。氷河は放射性廃棄物を破壊するリスクがあり処分場所には適さない」(ボサート氏)

 MTPはこのほど、モンテリ地下実験場やパートナー機関である3カ所の研究所、スイスの放射性廃棄物管理組合(Nagra)などによる研究実績をもとに、オパリナスクレイが高レベル放射性廃棄物の長期保存に対して「安定した」物質だと結論付けた。

 ただ、オパリナスクレイの特性については未知の部分が多い。

 一つは熱の伝導が苦手なことだ。地層処分地点に十分な広さがないと、オパリナスクレイが放射性廃棄物によってオーバーヒートするおそれがある。また岩ほど固くないため、固体の放射性廃棄物を安全に保管するための容器をどう作るかについては技術的な課題が残る。

 実験場では、温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)をオパリナスクレイの中に閉じ込める炭素隔離技術の研究も進む。ただ、CO2を岩に注入した場合に地震や地下水汚染を引き起こすリスクが生じないかを実証する必要がある。

 これらの課題に対応するため、MTPは2018年、500万フランをかけ地下実験場の拡張に着手する予定。20年に始まる新しい研究プログラムに向け、すでに10件のプロジェクト案を検討中だという。

 ボサート氏は「最終処分場を本気で建設するなら、あらゆる議論、研究、地盤の性質を調べる原位置試験、ナチュラルアナログを考慮したセーフティケース(地層処分場の安全性を示す論拠)が不可欠だ」と指摘。ナチュラルアナログは、地層や岩石中の元素、物質がどう移動したかなどの長期的な変化を調べ、地層処分研究に活用するもの。同氏は「ナチュラルアナログによって、ここで過去に起きたことを知り、それを将来に生かすことができる。例えばモンテリの岩から滲み出る水なら、600万年前までさかのぼることが可能だ」と話している。

放射線

放射線はエネルギーの一種で、自然界ではウラニウム、トリウム、ラドン、カリウムと炭素の同位体が、不安定な原子核が安定した状態になるために放射性崩壊と呼ばれる現象を起こし、この際に放射線を出す。人間は低レベルの放射線に日々さらされているが、人体の細胞組織は高レベル放射線を浴びるとダメージを受ける。一般的な放射線量の単位はミリシーベルト。200~1千ミリシーベルトの放射線を浴びるとがんになるリスクが増えるとされ、8千ミリシーベルト以上は半数以上が死亡する。大陸間のフライトで浴びる線量は0.03~0.06ミリシーベルト。スイスでは、放射線業務従事者に対する積算線量の上限を年間20ミリシーベルトと規定している。

スイスの放射性廃棄物

スイスの放射性廃棄物の内訳は5基の原発が大部分を占め、一部は調査研究、医療、産業など。スイスは原発の新規建設を行わないことを決定済みで、既存の原発は耐用年数を過ぎたら廃炉にする。連邦エネルギー省エネルギー局は5基の廃炉後、約10万立方メートルの放射性廃棄物が出ると試算。このため連邦原子力法は、地層処分場を確保するよう明記している。現時点では、放射性廃棄物はアールガウ州の中間貯蔵施設に保存されている。

地下に放射性廃棄物の処分場を作ることをどう思いますか?意見をお寄せください。


(英語からの翻訳・宇田薫 編集・スイスインフォ), swissinfo.ch

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