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音を吸収する、軽いカーテンが誕生

素材デザイナーのアネッテ・ダグラス氏。手に持っているのは今回開発したカーテン swissinfo.ch

スイスのデザイナーが国の研究機関と織物業者と共同で、通常の5倍もの音を吸収し、しかも光を通す薄いカーテンを開発した。

デザイナーのアネッテ・ダグラス氏 ( 40歳 ) がデザインしたカーテンは3種類。一見どこの家にもありそうな普通のカーテンだが、実は防火性のあるポリエステルでできており、よく見ると細かく織られているのがわかる。

カーテンでリラックス空間

 周波数によっては通常の生地の5倍の音を吸収するというこのカーテンは、いろいろな要素が組み合わされて誕生したとダグラス氏は語る。

 「紡績技術、素材、構造がカギ。これらをどう組み合わせればどういう効果が出るのかを調べたりチェックしたりするのが、研究プロジェクトの目的の一つでもあった」

 この吸音効果の高いカーテンは外からの音を遮断するのではなく、室内の反響を抑えることでより静かな環境を作る。もともとは大きなオフィスやホテルのロビー、会議室や学校といった公共の場で使用する目的で開発されたが「一般住宅用もある」とダグラス氏は言う。反響は大きく、すでにアメリカやオーストラリア、アジアからの問い合わせが来ているという。

 今回の開発プロジェクトで苦労したのは、デザイン性と機能性を組み合わせることだったとダグラス氏は語る。

 「人はだれでも快適な室内環境を望んでいるし、リラックスしたいはず。高いデザイン性と、静かな環境を可能にする技術を組み合せることができたらすごく面白い思う」

 今回の開発で、スイスは最新技術を駆使した、こうした機能付きの素材分野で大きな可能性を秘めていることが明らかになったとダグラス氏は言う。かつてレース産業界で世界のトップに君臨していたスイスも、今ではその影もない。

 「わたしたちは再び世界のトップに返り咲けるよう、挑戦しなければならない。必要なノウハウはこの国にあるのだし、積極的にそれを使っていくべきだ」

織物の魅力

 吸音効果のあるカーテンを作ってみてはどうかと思いついたのが5年前。織物とのつながりは偶然ではなく、イギリスから移住した父も祖父も織物分野に従事していた。

 「だから、わたしがこの道を選んだのも当然といえば当然だった」

 「織物は情熱だ」とダグラス氏は言う。

 「どんな形であれ、織物があると、部屋の中に特別な雰囲気が醸し出されると思う」

吸音性とデザイン性

 チューリヒ州デューベンドルフ ( Dübendorf ) にある連邦マテリアル科学技術センター ( EMPA ) 。研究施設内にある反響室には、曲線を描くいくつものアクリルガラスとマイクが天井からぶら下がっている。この部屋では残響が5秒から10秒も続くので、話すときは小声でないと会話にならない。3種類のカーテンは、ここでどれくらい音を吸収するのか測定された。

 「このカーテンを使うと、壁からの反響音が吸収されて会話が理解しやすくなる」

 と研究員のレト・ピーレン氏は語る。

 この特殊なカーテンは、特に構造的に吸音対策を取りにくい部屋に向いている。

 「最近の建物にはガラス面が多く、これまで一般的だった吸音材にも限界がある」

 カーテンに使用されているのは3、4種類のポリエステル糸で、それをどう織るかが重要になる。研究段階では、コンピューターでさまざまな3次元モデルを作って生地のシミュレーションをした。

 「コンピューターを使うと実際の検査回数がかなり減って便利だ」

 とピーレン氏。

 さて、肝心のデザイン性と機能性はうまく組み合わせることができたのだろうか。

 「光沢のある生地にしたいなど、デザイナーの要望に応えるのが難しかった。軽い生地だと吸音効果が少なく、また実験するときも音圧でヒラヒラと動いてしまう。どのくらいの重さで妥協点を見つけるのかが課題だった」

 と苦労を語る。

仕事の能率アップ

 室内の雑音は仕事の効率に大きな影響与えると、連邦マテリアル科学技術センターの音響部長クルト・エッゲンシュヴィラー氏は説明する。サービス産業に強いスイスには大きなオフィスが多く、特にそうしたところで雑音対策が必要だという。

 脳には「音韻ループ」と呼ばれる短期間の記憶に必要な部位があり、雑音が多いとそこに負担がかかると考えられている。

 「人は常に音に注意を向け、自分にとって意味のある音かどうか区別しようとする。まったく知らない外国語を聞いたときも同じだ。どんな音かを判断している間はほかのことになかなか集中できないので、音の多い場所では人は疲れやすくなる」

 カーテンにはウィスパー、リキッド、ストリーマーの3種類があり、すでに専門店で購入ができるとのこと。このカーテンで実際仕事がはかどるのか、試してみる価値はありそうだ。

今回のアネッテ・ダグラス氏のプロジェクトは、連邦技術革新委員会 ( KTI/CTI ) が資金の半分を負担した。残りの半分は、協力企業のアネッテ・ダグラス・テキスタイルズ ( Annette Douglas Texiles ) および繊維メーカー、ヴァイスブロート・チュラー ( Weisbrod-Zürrer AG ) が支出。

連邦技術革新委員会は、実用に向けた研究開発を促進しており、民間企業との共同開発や企業家への支援も行っている。2011年に政府から独立。年間予算はおよそ2億フラン ( 約190億円 ) 。

連邦工科大学 ( ETH ) の1機関で、ザンクトガレン州とチューリヒ州に置かれている。

1880年に創立された当初、チューリヒにある高等工業学校の地下室で研究活動を開始。その後、燃料試験所と繊維検査所が統合された。

1938年から「産業、土木、工業のための連邦素材試験・実験所」の名称になったが、EMPAという略称はすでに長く使われていた。1988年以降、同センターの主要業務は試験ではなくなり、「試験所」から「研究所」になった。

1994年、これまで研究所があったデューベンドルフ ( Dübendorf ) とザンクトガレンに加え、新たにトゥーン ( Thun ) にも開設。軍用の素材の試験をしていたグループの専門セクションを引き継いだ。

現在、トゥーンの原材料テクノロジー科は、大部分が軍用以外の材質試験を行っている。2010年、マテリアル科学技術センターは創立130周年を迎えた。

( 独語からの翻訳・編集、鹿島田芙美 )

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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