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伝統医学


伝統医薬の輸入に厳しい規則
緩和を求める声も




それぞれの薬草は、品質や純度など基準への適合性を証明する審査が求められる (Keystone)

それぞれの薬草は、品質や純度など基準への適合性を証明する審査が求められる

(Keystone)

スイスの医薬品における品質管理基準によって、患者たちは安全な医薬品を手にすることができている。しかし、それゆえにアジア伝統医薬の製薬会社や輸入業者たちが置かれる状況は厳しくなっている

 チューリヒ中心部から電車で20分の場所にある、人口2万5千人の町ヴェッツィコン。駅と教会、そしていくつかの店やレストランがあるスイスの一般的な町だが、チベット医学の製薬会社パドマ(Padma)があることから、チベット人にはよく知られた存在だ。同社はインドの製薬企業の中で、唯一国外に拠点を置いている。

 チベット医学の根本理論は、熱、精神的ストレス、体液の、三つの身体の生体エネルギーのバランスを取ることだ。患者は数種のヒマラヤ薬草を調合した薬用ハーブを服用し、そのバランスを取り戻す。パドマ社でもそうした薬用ハーブを提供しているが、調合レシピは伝承されたものを維持しつつも、製造工程は他のスイス国内の製薬会社と同じだ。

 そのため、同社売れ筋で循環障害に有効とされる「パドマ28」は、米国の医薬品製造・品質管理基準GMP(Good Manufacturing Practice)の適合性を証明するため、約300もの検査を受けなければならない。しかし問題は、検査の基準となるGMPが何世紀もの歴史を持つ伝統医学ではなく、現代の製薬産業に則して設定されたものであることだ。

 パドマ社薬事申請部門のセシル・ヴェノ部長はスイスインフォの取材に対し、「GMPの規制では、たとえ薬草を使った製品が伝統医学のカテゴリーに属していても、通常の医薬品と同じ品質を保ち、安全性を満たす必要がある」と話す。

特殊な製品

 スイスの法律のもとで設定されている製造管理基準でもまた、異なる伝統に由来するさまざまな薬草を使った製品が持つ特有の性質は考慮されていない。例えばチベット医学は各製品の調合に5種類以上の薬草(有効成分)を使用し、それらを植物エキスではなく、粉状で販売している。

 ヴェノ部長は、「当局は私たちが特殊な製品を扱っていると思っているため、常に話し合いが必要だ」と話す。

 また、2012年には伝統医学と中国医学を含む五つの代替医学が試験的に基本医療保険の対象となったため、それぞれの伝統医学の微妙な違いを理解する必要性が増している。しかし、薬事審査における最重要事項が「安全性」であることに変わりはない。スイスの薬事審査を担うスイスメディック(Swissmedic)の担当者は「予防原則」の重要性をこう説く。

 「どの治療薬にも効能はあるが、同時に有害な影響を与える可能性もある。常にそのリスクを予測することは不可能なため、私たちは両側面のバランスを慎重に検討している」

伝統が負担に

 薬草を使った製品の薬事審査における利点の一つは、有効性を証明するための条件が、従来の医薬品ほど厳格ではないことだ。少なくとも30年にわたる治療薬としての使用実績が証明できれば、高価な臨床試験を行う必要はない。さらにそのうち15年間はスイスもしくは欧州での実績でなければならないが、「市場に初めて導入する伝統薬の場合、ヨーロッパで15年にわたる使用実績を証明することは非常に困難だ」とヴェノ部長は言う。

輸入医薬品

 こうした薬の輸入もまた、難しい状況にある。輸入業者は定期的に国外製造医薬品におけるGMPの適合性を審査する必要があり、スイスメディックはそのような業者に対し、GMP証明書や生産工場の監査・検査報告書を常に要求することができる。またアジアからの輸入の場合は、農薬、重金属、微生物などによる汚染の危険性に関する専門家の報告書も必要となる。

 このような規定によって、スイスの消費者が手にする医薬品の品質の高さは保障されているが、その分かかる費用も大きい。スイスの中国医学職能団体(SBO-TCM)によれば、補完医学に対して原料、品質、純度を証明する分析結果が求められるケースは今日、増加傾向にあるという。これについて薬監を行うスイスメディックは、最新の研究結果を適用し、規格化を進める過程において避けられないことだと話す。

高い費用

 次々と導入されるこれらの検査は、製薬会社にとってコストの追加を意味する。「そのため利益率が低い製品に対するスイスの中国医学製薬会社の関心は低い。つまり、スイスで手にすることができる製品も限られてしまう」とナヤード・ブルンシュヴァイラーさん(TCM)は話す。

 これら輸入にかけられる厳しい規制の存在から、ヨーロッパで薬草を育て製薬するほうが、輸出入が容易となる場合もある。インドの伝統医学、アーユルヴェーダを実践するハンス・ライナーさんは隣国オーストリアで薬草ハーブを育て、製薬しているという。

 「オーストリアの基準はスイスでも認められているため、自製品をスイスやEU諸国に輸出することに全く問題はない。例えばオーガニック製品の証明書をはじめとする、インドで発行される多くの証明書はスイスで認められていないため、インドからスイスにこうした製品を輸入するのはより難しい」(ライナーさん)

リスク対イノベーション

 しかし、このような厳しい基準の設定に対し、全ての企業が否定的であるわけではない。アーユルヴェーダの治療薬をインドから直輸入するマハリシ・アーユルヴェーダ社のオリバー・ヴェルナー社長は、こう警鐘を鳴らす。

 「EU諸国では、アーユルヴェーダの治療薬は医薬品ではなく栄養補助食品として扱われる。そこにも品質管理基準があるにも関わらず、アーユルヴェーダのイメージに悪影響を与えてしまうような重金属の汚染が発覚したケースも過去にはあった」

 アーユルヴェーダの治療薬に使われる原料がスイスメディックによるアジア医薬の監査リストに載っている場合、輸入は比較的簡単だとヴェルナー社長は話す。そのリストはまだ審査途中にあるため、現段階では新しい調合による製品を輸入することは出来ない。スイスメディックは不足する知識を集め、補完医学の発展に遅れをとらないよう、世界各地での動きに注目している。

 製造者や輸入業者だけでなく、療法士もこれらの現状にもどかしさを感じている。スイスのアーユルヴェーダ医師・療法士団体のフランツ・ルッツ会長は、品質が保証された製品をスイスの専門家が持続的に使用できるよう望んでいると話す。

 「今後、インド政府の支援協力を得ながら、明確な法律やインドの輸出側との基準設定の共有、そして輸入品に対する信頼を構築することが必要だ」


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(英語からの翻訳・大野瑠衣子)

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