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進学派それとも就職派? 就業率は大差なし

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チューリヒ大学の中庭に集う学生たち © Keystone / Petra Orosz

スイスで高等教育を受ける人の割合は経済開発協力機構(OECD)平均を上回る。職業訓練も同じくらい人気だ。

OECDが世界46カ国の教育制度や実態を比較した報告書「図表で見る教育2019年版外部リンク」によると、スイスで義務教育の修了後に職業訓練を選ぶ人の割合は、大学や専門学校など第3期教育に進む人の割合にほぼ等しい。

増える進学派

第3期教育は今年のOECD報告書のメインテーマだ。スイスでは25~65歳の44%が大学の学士号以上を取得している。OECD加盟36カ国平均の39%を上回る水準だ。

25~34歳に限るとこの割合はさらに高まり、過去10年で38%から51%に上昇した。進学率の向上はOECD加盟国に共通でみられる現象だ。

学士課程に進む年齢は他のOECD諸国よりも高く25歳(日本では18歳)。OECDはスイスに関する国別要旨外部リンクで「スイスには生涯学習の文化があり、進学前に職業経験を積んでおくことが重視されていることを浮き彫りにする」と指摘した。

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義務教育後の進路 今年の傾向は?

このコンテンツが公開されたのは、 スイスでは先頃およそ8万5000人が、義務教育の修了を控え進路決定の岐路に立った。そのプロセスを分析した最新の調査によると、職業訓練コースに進む場合、選択する職種はいまだ性別に左右されがちなことが分かった。

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高い就業率

スイスではかつて、職業訓練に進む人が圧倒的に多かった。今も3分の2は職業訓練を選ぶ。時には職場で進学者よりも高い地位を得ることもあり、後から学位を得る道もある。

だが近年は、大学に進学するための資格試験を受けるよう子供に圧力をかける親が増えている。特に専門職や在スイス外国人の家庭で多い。

OECDは、スイスでも高学歴の方が就職の機会は広いと指摘する。ただ後期第2期教育(15~16歳で修了する義務教育後の教育課程)より上位では、差は小さくなる。

スイスの成人の総合的な就業率はOECD平均よりも高い。義務教育修了者では69%で、OECDの59%を上回る。義務教育修了後に職業訓練に進んだ人では82%(OECD平均は76%)、第3期教育修了者は89%(同85%)だ。

とりあえず職業訓練

興味深いのは、いったん職業訓練に進んでから学位過程に進みなおしても、「就業機会が大きく改善するわけではない」(OECD)ことだ。25~34歳では就業率が3ポイントしか違わない。この差はOECD平均の半分ほどしかないという。

「(大学の学士号取得者と職業訓練終了者に就業機会の)差が小さいことは、スイス労働市場で職業訓練を選ぶ人にとって大きな関心事となる」とOECDは指摘する。「例えばスイスでは、職業訓練を選ぶ多くの人は、教育から就職への移行がスムーズな専門学校と実地訓練が一体となったプログラムに参加する」

OECDの立場

OECDの報告書外部リンクは、調査対象国はいずれも第3期教育への需要が高まっていることを指摘。一方、進学者がさらに増えるのは、高等教育によって技術進歩や気候変動、移民問題など、学生が将来課題への備えを身に着けられるようになった場合に限られるとの見通しを示した。

特に「STEM」と呼ばれる科学、技術、工学、数学分野では、学生がどのようなスキルを身に着けたいと考えているのかを捉えるのに苦労しそうだ。女性は特に過小評価されており、スイスも例外ではない。

多くの教育機関は労働市場のニーズが変化するのに対応し、高等教育への進学を柔軟にしたり産学連携を進めたりしている。だが進学者が増えれば教育予算の問題も出てくる。このため、教育の質や社会との関連性も考量する必要がある、とOECDは指摘する。

(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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