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国民投票の三つの案件、すべて否決

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今日6月17日は「国民投票日曜日」。マイホーム用積立金制度の導入、外交政策における国民の権利の強化、医療制度のネットワーク化(マネージド・ケア)の三つの法案は、投票前の予想通り、すべて否決された。

三つの法案の平均投票率は37.8%と、決して高くはない。しかし、どの案件でも反対を投じた有権者が圧倒的だった。また州別で見ても、各法案に対し、すべての州が否決というこれ以上ない明白な結果となった。

イニシアチブ「建築積立金でマイホームを」

 2000年の国税調査によると、スイスのマイホーム所有率は34.6%。現在は約40%と見積もられているが、それでも近隣諸国に比べるとまだ低い。そのため政府は、国民の手がマイホームに届きやすくなるようにと、税制優遇措置を定めている。例えば定年退職前に、企業年金や老後用個人貯蓄の中から、マイホーム購入費の一部を前借りすることができる。

 イニシアチブ「建築積立金でマイホームを」では、これだけでは不足だと判断し、優遇措置の強化を求めた。スイスに住む人が、本人が住む目的でマイホームを初めて購入する場合、課税対象となる収入から毎年最高10万フラン(約826万円)まで、最長10年間控除できるようにするという提案だ。夫婦の場合は年間20万フラン(約1652万円)まで引き上げられる。また、「建築積立口座」の利息も控除対象とするほか、資産税の対象からも外す。実際に貯蓄したお金で、家を建てたり購入したりする際にも課税しない。

 政府はこの法案に反対の姿勢を示し、その理由として、スイスの世帯の多くを占める中低所得層は、これを活用できるだけの貯蓄をすることができないと指摘した。また、貯蓄に流れる分、マネーが流通せず、税務局の管理も増えると予測した。

 この制度は現在、バーゼル・ラント準州で適用されているが、類似のイニシアチブ「建築貯蓄」がすでに3月11日の国民投票で否決されている。今回2度目となる明らかな否決を受け、住宅所有者協会(HEV)経営管理部長のアンスガール・クミュール氏は「このイニシアチブは賃貸居住者へのプレゼントだった。だが、この贈り物は拒否された」と肩を落とした。

イニシアチブ「外交政策における国民の権利の強化(国家協定を国民の手に)」

 スイスでは、国家間の協定や条約に関して、通常次の三つの方法でその是非が問われる。まず、欧州連合(EU)など超国家的な共同体への加盟を扱う協定は、強制的レファレンダムで決定。法律など重要な規定を含む、無期限の解消不可能な協定には、任意のレファレンダムが必要だ。そして、それ以外の協定については、連邦議会や政府、省などで各々決定する。

 同イニシアチブは強制的(義務的)レファレンダムの枠を、法的決定事項の自動的な導入が要求されている協定にまで広げることを目的とした。例えば「シェンゲン協定などのような悪協定には手を出さないようにするべきだ」と、賛成派の国民党(SVP/UDC)員、ハンス・フェーア国民議会議員は語っていた。

 政府の説明によると、スイスは年間約500の国家間協定を結んでいる。うち20から40を連邦議会で決定、任意のレファレンダムにかけられるのは約20あるという。

 イニシアチブの否決を奨励していた政府側は、同イニシアチブでは対象を「重要な分野」における協定とするだけで詳細に触れておらず、可決となった際には協定にかかわる分野が重要なものかどうかを、まず政府や連邦議会が議論しなければならなくなる上、国民投票の法案もさらに増えると反論。「国家間協定における直接民主制は、今日すでに機能している」と訴えた。

 今回、政府の見方に賛同した有権者に対し、「独立した中立国スイスのための運動(AUNS/ASIN)」のメンバーである国民党のピルミン・シュヴァンダー氏は、「同志すらも納得させることができなかった。このイニシアチブは感情に訴えられなかった。だから、投票に出かけた人が少なかったのだ」と、スイス国営ラジオ・ドイツ語放送局DRSに対して語った。

 それに対し、経済連合エコノミースイス(economiesuisse)はこの明らかな否決を歓迎。ディレクターのパスカル・ジェンティネッタ氏は「イニシアチブは行き過ぎだった。現行のシステムは非常によく機能しているのだから」と述べた。

健康保険に関する連邦法改正(マネージドケア)

 スイスでは健康保険加入が義務付けられているが、その種類はさまざまだ。政府と連邦議会はこれをマネージドケアと呼ばれるモデルに統一することに決定したが、医師などの反対派がレファレンダムを起こした。

 マネージドケアはアメリカですでに導入されているシステムで、種々の専門を持つ医師たちを一つのネットワークにまとめ、包括的で調整の取りやすい医療を目指すもの。医療の品質を高め、同時に健康保険の負担を減らすことが狙いだ。

 しかし反対派は、多数の国民は医師や病院の自由な選択ができなくなり、被保険者の負担も増すと主張。選択ができるのは高額な保険料を払った人のみとなるため、医療でも社会に格差が生じると警告を発した。

 支持派は今日の明白な否決にうなだれる。急進民主党(FDP/PLR)のフェリックス・グッツヴィラー全州議会議員は「国民の間に改革意識はほとんどないようだ。今後は新しいアイデアが問われる」と、スイス通信(SDA/ATS)に対し述べた。また、スイス健康保険協会(Santésuisse)も「スイスは重大な改革のチャンスを逃した。この結果は、医療制度に変化をもたらすことの難しさを物語るものだ」と今回の結果を残念がる。

イニシアチブ「建築積立金でマイホームを」

投票率:37.7%

反対:68.9%

賛成:31.1%

イニシアチブ「外交政策における国民の権利の強化(国家協定を国民の手に)」

投票率:37.8%

反対:75.3%

賛成:24.8%

レファレンダム「健康保険に関する連邦法改正(マネージドケア)」

投票率:38%

反対:76%

賛成:24%

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