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もぐもぐスイス味 第4弾 社会科見学 -4- カラフルパスタはスイス製

タイのゆりの花のつぼみ付き Ingredienza

紀元前3000年の麺料理の記録が、中国に残っているという。この極東の食材をマルコ・ポーロがイタリアに持ち込んだのは、13世紀末のこと。

こうした歴史が背景にあるからなのか、それともトマトとの相性が良かったからなのか、ヨーロッパでのパスタの1人当たりの消費量はイタリアがダントツ。次にギリシャで、3位はなんとスイスだ。

 スイスでもパスタはイタリア料理に数えられるが、スイスが独自に作り出したパスタ料理もある。先日モモヨと訪問したアッペンツェルのチーズ工場のレストランで食べたのは、マカロニにチーズをかけて香ばしく焼いた「アルプスのマカロニ ( Älplermakkaroni ) 」。スイス人にとって典型的なスイス料理に属する。スイス人のパスタ好きは、そもそもスイス人がイタリアという国を好きだからと分析するロルフ・タールハイムさんの工場をモモヨと訪ね、スイス人のこだわりのあるパスタ作りに迫った。

トラアヒル・ラビオリ

 「スイスパスタ協会 ( Swiss Pasta ) 」のフエレナ・シュミットさんは、パスタはおいしい食材で、料理の仕方が多様であることがスイス人にも受けていると言う。また、タールハイムさんは
「1960年代にイタリア人が移民としてスイスに流入し、パスタが広まりました。茹でるだけで食べられるので、コンビニエンスフードとしての手軽さもあります。さらに、大手スーパーが力を入れてパスタを売り出したということもありました」
 とスイスとパスタの関係を分析した。

 イタリアと深い関係にあるパスタだが、イタリアものは伝統を重んじ黄色味がかった一色で、スパゲティでせいぜい黒か赤がある程度。ラビオリなどもひき肉や、リコッタチーズなどが主流だ。
「カラフルで独創的なパスタを作るのはスイス人独特」と微笑むタールハイムさんのパスタメーカーの「イングレディエンツァ ( Ingredienza ) 」では、ラビオリが主要製品。ドイツの童話から取った黒と黄色の縞模様の「トラアヒル・ラビオリ」は子どもが喜びそうだ。赤、茶色、黄色の縞模様は「ボルサリーノ・ラビオリ」。タイ原産のゆりの花のつぼみをリボンにして包んだラビオリもある。色は、ビーツ、人参、サフラン、ターメリック、オレンジ、パプリカ、イカ墨、パセリなどさまざまな食材で着けられ、それぞれが放つ色のニュアンスを生かしている。中身もリコッタチーズとニンニク、カボチャとアマレッティに辛子、ゴルゴンツォーラチーズと胡桃とオリジナリティーに富む。
「良いパスタは、ゆで過ぎずに一つ一つの形がはっきりと分かること。中身の食材も食べて分かること」
 という。

 タールハイムさんはもともとコックだったが、1989年に独立し、パーティーサービスのケータリングを始めた。その経験から売れ筋はパスタだと見込み起業した。それから20年。スイス全土の「パスタの分かる客が来るレストラン」にマイナス20度の冷凍で卸している。売上は120万フラン ( 約1億円 ) まで伸び、従業員4人でフル回転だ。

…で、モモヨ隊員は

 ごめんください、そろりとお邪魔したら、すぐ次の間がパスタ製造現場。給食当番みたいな帽子を被ったオーナーのタールハイムさんが手を休めて出てきてくれた。

 工場というより「家内工業っていう言葉、社会科で習いましたね」「機械は4台きりしか見なかったわ」隊長と工場の規模の感想を確認しあうモモヨ。

 ある日、自分はパスタを製造販売するんだと決め、自宅で小さなパスタマシーンを手回して色々パスタを作製。その手作りパスタを手に一軒一軒レストランを訪問する日々。すべてがそこから始まりましたねえ。とタールハイムさん。思い立ったらの行動力、こんなパスタならニーズがあるとの発想力、自分が食べて美味しいパスタを作る舌力、由緒正しき食の起業家ですね、隊長。

 タールハイムさんは、今も自ら工場でパスタ作りに精を出す。「例えば、ラビオリなら中身の具の材料を巨大フライパンで炒めて味付けて細かくしてと、どの種類も全部ここで調理するんですよ」

 お見受けするところ、ラインナップは3本柱。見ただけで元気になるカラフルパスタシリーズ。オーソドックスな基本の味に力を入れたシリーズ。それから季節の味や注文生産のかなり目先の変わったパスタ類。例えば春には行者ニンニク入りラビオリ、6月からはフレッシュミント入りシマシマラビオリ。
 「僕は、アーティスト」というタールハイムさんの作品は、例えばエスプレッソ入りヌードル。残念ながらレストランからの注文があった時のみの作製だそうだ。

 バレンタインデーや母の日シーズンによく出るという、大きな赤いハート型のラビオリ。このハートのラビオリを見ただけでステキなランチやディナーのプランが思い浮かんでくる。

 イングレディエンツァはレストランへの卸専門ということながら、1軒だけベルンにある小売店で隊長とモモヨは数種類のパスタを買って帰った。どれも「何が入っているのかわからないようなのじゃなくてちゃんと食べておいしい味のする」ラビオリで、モモヨは行者ニンニク入りが特にうれしかった。

 「隊長、これからの季節、この生ミント入りのラビオリ、おいしそうですね。さわやかな夏の一品になります」
「ベルンに行ったら、また買いに行くわ」
 と隊長。あ、そうなんですか。
「んじゃ、その節はですね、わたしは、このフレッシュミント入りと、えーとどれにしようか…。黒オリーブと羊チーズのラビオリね。え? 重い? 取材ですよ、え ? 、取材はもう終わったなんて…。よろしくお願いします。ね。」

佐藤夕美 ( さとうゆうみ ) & モモヨ swissinfo.ch

2009年のスイス人1人当たりのパスタ消費量は9.7 Kg。イタリアの26 Kg、ギリシャの10.4 Kgに次ぎ、ヨーロッパでは第3位。世界比較では、2位はベネズエラ ( 12.9 Kg ) 、3位チュニジア ( 11.7 Kg ) 、ギリシャ、スイスと続く ( 出典 : 国際パスタ協会 ) 。

スイスの国内における総消費量は2009年史上最高の7万5904トンを記録した。そのうち43.4%が輸入物。輸入物は卵を使わない「ナポリタイプ」が主要だが、国内で作られるパスタの多くには 卵が入っている。

Güterstrasse 7, 3008 Bern
Tel +41 31 382 42 42 / Fax +41 31 382 49 05
ヌードル約30種、ニョッキ ( じゃがいもと小麦粉で作るパスタの1種 ) 3種類のほか月替わりの1品、ラビオリ多数を製造。
注文は最低3Kg以上で受け付ける。送料別途請求。
値段はヌードル1Kgで10.50~15.50フラン ( 約820~1200円 ) 、ニョッキは10フラン ( 約790円 )、ラビオリは19.50~69フラン ( 約1500~5400円 ) 。すべて卸売価格。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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