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もし動物と話すことができたなら

ケルスティン・ディ・ゲラルドさん。ペットのナノと一緒に swissinfo.ch

上手くギャロップできない馬や、蛇を捕まえて飼い主に持ってくる猫。このような動物はなぜ変わった行動を取るのか。特別な能力を持つある女性は、一種独特な方法を使ってその理由を探ることができると主張する。

瞑想のテクニックを使い、直感を働かせることで、動物の心とコンタクトを取ることができると言うのはケルスティン・ディ・ゲラルドさんだ。

 ディ・ゲラルドさんは以前、製薬・医療機器会社「ジョンソン・エンド・ジョンソン(Johnson & Johnson)」で受発注から在庫管理、配送まで一連の流れを統合管理し、企業の経営合理化を図るサプライ・チェーン課でマネージャーを務めていた。しかし、最近になり動物界に存在する「神秘的な」感覚に惹かれ、動物とコンタクトを取る仕事に転職した。

 この仕事に関心を持つきっかけになったのは、動物救護センターから引き取った子犬だった。手の焼ける犬で、犬の調教師にアドバイスを求めたがさほど良い結果が得られなかったため、動物コミュニケーターを頼ったのだ。

 「動物コミュニケーターの女性が私の飼犬とコンタクトを取った後、私に打ち明けた思いがけない事実を知って驚いた。その後、私とペットの関係はとても良くなった」とディ・ゲラルドさんは語る。この経験がきっかけとなり、動物とのコミュニケーション法を学ぶ気になったと言う。

 資格を得るためにはルツェルンにある「ダス・フォールム(Das Forum)」で1年間の理論のコースと実務訓練を受ける必要があった。ここはヒーリングや瞑想、占星術などを専門にしている研究所だ。現在、ディ・ゲラルドさんは38歳。動物コミュニケーターとして仕事を始めてから1年半が過ぎた。

 今日、ディ・ゲラルドさんはスイスのドイツ語圏とフランス語圏の2カ所で活動している。馬を飼い乗馬を楽しむヴォー州のロル(Rolle)では、クライアントとその動物にも会う。

ギャロップができない理由

 アメリカンペイントホースという種の「コーディ」と名付けられた馬の問題を例に挙げよう。コーディは4歳。ギャロップをするときに四肢の歩幅を上手く合わせられず、苦労していた。前肢は問題なく動かせるが、後肢を前肢の動きに上手く合わせることができなかったのだ。

 「コーディは左の腰の部分に問題を抱えているのではないかと思ったが、コーディは『走るときにバランスを崩すのが怖い』と私に伝えてきた。また、『飼い主を乗せた状態でギャロップをするときは、歩幅を合わせて走りたくない』と言った」とディ・ゲラルドさんは説明する。コーディがあえて正しくギャロップをしなかったのは、飼い主が落馬するのを恐れていたからだった。コーディの本来の問題は飼い主に対する信頼の欠如だということに気づかず、痛みだと思い込んで整骨医に相談していた飼い主のピアさん(19)はこの事実に驚いた。

 ディ・ゲラルドさんは続ける。「コーディは間違ったことをしていることも分かっているし、ピアさんがそれを直したいと思っていることも知っている。しかし、ピアさんはもう少し忍耐強くならなければならない」

 コーディの飼い主のピア(19)さんはディ・ゲラルドさんの助言に感謝している。「彼女のアドバイスはとても役に立った。今はもうコーディを無理強いして走らせることはなくなった。それに一番大切なことは、コーディの肢を痛めないように気をつけることだとわかった」。今や2人は、コーディは心の準備ができたときに、ギャロップの肢の動きを正しく直すはずだと確信している。

コミュニケーション方法

 しかし、ディ・ゲラルドさんはどのような方法で動物とコンタクトを取るのだろうか。動物と直接会うこともあるが、大抵は写真を使う。そうすることで世界中のクライアントに対応することができる。クライアントがディ・ゲラルドさんに提供する情報は動物の名前と年齢と性別。これらの情報を得た後、ディ・ゲラルドさんは思考をクリアにしてから、瞑想を始める。

 「動物に対してすることは、自己紹介、会話の目的の説明、そして、コンタクトを取る動物に対話する時間があるかどうかを見極めることだ」とディ・ゲラルドさんは言う。ほとんどの動物は自分の気持ちを表現する機会ができて喜ぶという。また、飼い主であるクライアントの信用を得るために、ディ・ゲラルドさんはペットに関する事実をいくつか証明する。彼女は、ペットの好きなおもちゃや好きな餌用の皿の色などを言い当てるのだ。

「動物とコンタクトを取るときは、イメージや感覚を用いて、簡単な質問で話しかける。そうすると動物は同じ方法で応答する。これは、動物の目の前に映像が繰り広げられていることを意味する。それを繰り返すと頭の中に言葉が浮かび、動物が何をどう感じているのかが分かる」とディ・ゲラルドさんは対話のプロセスを説明する。

 一旦動物とのコンタクトが成立すると、問題行動や病気の理由を探ることができる。さらに、餌や馬小屋、犬小屋といった生活環境について聞いたり、新しく連れて来られた動物を喜んで受け入れているのかどうかを判断したりすることもできる。また、ディ・ゲラルドさんは迷子になった動物の居場所を特定する手助けもしている。しかし、自分がしている仕事は獣医師が施す医療の代わりにはならないため、ペットが病気のときは獣医師に相談するべきだと強調する。

飼い主に蛇を進呈

 ニヨン(Nyon)の近くで会社勤めをしているマリーさん(59)はペットの猫のことで問題を抱えていた。シャム猫のステリナ(12)は餌を食べた後に吐いてしまうため、体重が減り、歯もいくつか抜けてしまった。そのほかの点ではステリナは健康だったので、マリーさんはディ・ゲラルドさんに助けを求めることにした。

 ディ・ゲラルドさんは内気なステリナとコンタクトを取った。結果、ステリナは、年上の雌のルナ(14)と年下の乱暴な雄のシンバ(5)と一緒に食事をするのがいやなのだと答えた。そこでディ・ゲラルドさんはステリナがほかの猫に邪魔されずに餌を食べられるように、マリーさんの娘の部屋で餌を与えるように提案した。それ以後ステリナはときどき昼に食べたものを戻すことはあるが、もとの体重を取り戻すことができた。

 一方、1番年下のシンバは1年前から蛇を家に持ち帰るようになり、蛇を見たマリーさんは恐ろしさのあまり卒倒していた。しかし、ディ・ゲラルドさんは、シンバはマリーさんが蛇恐怖症だということに気が付いていて、それを克服できるように手助けしたいのだと説明する。

 「シンバが私の蛇恐怖症を治したいと思っているのだと教えてもらい、私は蛇をつかむことにした。それ以来、私の症状は快復した。以前は帰宅したときに蛇がいるかどうか隣人に確認してもらわなければならなかったほど酷い蛇恐怖症だったのに」とマリーさんは当時を振り返る。今ではヘビ柄のデザインのサンダルも履けるようになった。

 「シンバはまるで蛇は無害だと私に示しているかのよう」とマリーさんは呟く。できればシンバには蛇を持ち帰ってきてほしくないが、蛇を捕まえるという習慣はかなり稀であり、シンバの蛇狩りの習慣を受け入れるようになった。

 マリーさんはディ・ゲラルドさんに相談できたことに感謝している。「彼女は称賛に値する。彼女がしている仕事は素晴らしい」

人はみんな直観力がある

 ディ・ゲラルドさんはペットは飼い主を映し出す鏡であり、時として飼い主の身代わりになり、飼い主の病気を引き受けることすらできると信じている。しかし、ペットは飼い主との不仲が原因で病気になる場合もある。一方、ペットは時に死ぬ覚悟ができていても、飼い主に必要とされていると感じて、なかなか飼い主に対する思いを断ち切れないことがあるとも言う。

 「人間は動物が本当に必要としているものを忘れがちだ。こうした振る舞いが原因で動物は病気になったり問題行動を起こすようになる。本来、誰もが動物の気持ちを理解する直感を持っている。しかし、その能力を鍛えるには沢山の訓練が必要だ」とディ・ゲラルドさんは語る。

 自分のペットが何を考えているのかを知りたければ、これからはペットに聞いてみよう。

スイス人が飼っているペットの数に関する正確なデータはないが、猫が約135万匹、犬が約50万匹、魚が約450万匹いると推測されている。

スイス人がペットの餌や必需品に費やす金額は年間総計約8億フラン(約790億円)、獣医師や犬小屋、ペットシッターに費やす金額は年間総計約4億フラン(約395億円)。

2010年、スイスの動物保護施設は捨てられた動物約2万8000匹を引き取った。その数は2009年よりも15%増加、2007年よりも50%増加した。

(独語からの翻訳、白崎泰子)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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