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わたしたちとスイス ( スイス放送協会「融和週間」-3-)

「スイスのことなら任せて!」スイスでは日本人は恵まれていると語る3人の日本人女性 ( 右からベーニーさん、シュトゥールトレーガーさん、ガロさん ) swissinfo.ch

スイスで医療や福祉関連の仕事に携わる日本人女性に、日本人をはじめとする外国人のスイスへの融和問題について語ってもらった。

参加したのは、ベーニー高井ゆみ子さん ( 59歳、スイス滞在33年 、看護師 ) 、ガロ悦子さん ( 57歳、同32年、老人ホーム ) 、 シュトゥールトレーガー中西真理さん ( 52歳、同14年、医師 ) の3人。

 スイスに住む外国人は、スイスに融和したいと思うか思わないかにかかわらず、突然のように母国とは違った生活環境の中に投げ込まれ、まったく発想の違う現地の人々との接触なしでは生きていけない。スイスで生活することで人生を豊かにしていく人がいる一方で、摩擦を起こしてしまう人もいる。今回は、外国人である日本人の目から見た外国人問題や、自分たちの老後問題にも触れ、多様な価値観を話し合う討論となった。

swissinfo : 皆さんはスイスにどれほど同化していると考えますか? 

ガロ : わたしはスイスにすでに32年滞在していますし、もう結婚した31歳の娘もいます。市民階級を代弁する国民党 ( SVP/UDC ) の考え方に共感を覚えるといった点からも、完全にスイス人化していると思っています。

シュトゥールトレーガー : スイス滞在最初の6年半は医学を学ぶために大学に通っていたので、付き合う人はスイス人でした。考える時も夢を見る時もドイツ語という生活です。
一旦、日本に帰ってまたスイスに来ましたが、スイスに住む日本人を助ける活動をするようになった今は、スイスにある日本人社会にどっぷり浸った生活になったと言えるかもしれません。
わたしは、スイスに100% 融和しているとは言えません。スイスには合計14年間生活していますし、医学を勉強したため自分にはドイツ語なら6、7000語ほどの語彙( ごい ) はあると思うのですが、スイスの国家試験の受験を中断しているのは、語彙がそれでも不足しているためだと思います。

ベーニー : 滞在33年目です。スイスに骨を埋めるつもりで暮らしています。ただ、100%、スイス人やここの生活に合わせることは無理です。わたしの心の中では、スイスが6割から7割、日本が4割から3割だと思います。どうしても、スイスに長く生活するとスイスの方を持つようになりますね。たとえばスポーツ観戦。まず日本人を応援しますが、日本人がいないとスイス人を応援します。
ただ、スイス人の自己主張の気質については、難しいですね。わたしが自己主張をすると、後で良心の呵責 ( かしゃく ) を覚えたりします。

シュトゥールトレーガー : わたしはプロテスタントのクリスチャンです。そのため、深い悩みについてはスイス人との方が分かり合えるようです。夫がスイス人だったのも、必然的という面があるかもしれないですね。

swissinfo : 皆さんは多かれ少なかれ、かなりスイスの生活に融和しているということですが、融和できない外国人も多いですね。 

ガロ : 外国人のかなり多い職場で働いています。スリランカ人や旧ユーゴスラビア人が特に多いのですが、ハードな職場にいる中で、彼らの自己主張の強さに触れると「あなた方はスイスに入ってきて、誰かにしてもらうことばかり考えていて、ギブ&テイクということに欠けている」と思うのです。

ベーニー : 途上国の出身者は、スイスにお金のために来ていると見られてしまう。

swissinfo : そういった人たちは、仕事をする面で問題があるということですか。

ガロ : 仕事はします。ただ、彼らが問題を起こし、融和していないというのは、スイス人の偏見ではないですよ。彼らに関して、何度も何度も同じようなことを経験した上での判断だと思います。たとえば、旧ユーゴスラビア人がスイスに多く移住してきてからスイスが汚くなったという批判もあります。スイス人は清潔好きですが、戦争をしている国から来た人にとって、町が汚いかきれいかなど「ちゃんちゃらおかしい」という感覚なのでしょう。
非難にもめげずに、そういった人たちがとてもしたたかに生活しているのを見ると、ある意味でうらやましいと思いますね。

ベーニー : 彼らは、したたかにならざるを得ない。 
シュトゥールトレーガー : 日本も戦後は飢えて死ぬ人もいたのです。その当時は、日本もすさんでいたのだと思います。わたしの親戚の1人が昭和30年にアメリカに留学したのですが、その時に彼が驚いたのは、どうしてこんなに物があるのかということだったそうです。

swissinfo : 皆さんはスイスで、差別を感じたことはありませんか?

ベーニー : 仕事の経験もすでにあったで、学生を指導してもよいだろうと思われていたはずでしたが、自分より経験の浅い人がその役に就いたことがあります。わたしのドイツ語の達成度がまだ不十分だったからだと思いますが。

シュトゥールトレーガー : スイスで医者の見習いをしていた時ですが、スイス人の看護師が、わたしの指示に相当抵抗しました。アジア人がスイス人である自分の上に立って指示をするといったことには抵抗あるのです。わたしは「これくらい知っているのだぞ!」と強調しないと受け入れてもらえなかったですね。

ガロ : 日本人であることにむしろメリットを感じます。スイスの知識階層の人たちは、日本文化に好意的です。

ベーニー : それはあります。患者も同僚も、わたしが日本人だと言うと、見る目が変わります。良いほうに態度が変わるんです。

シュトゥールトレーガー :  先 ( 明治時代 ) にスイス来た日本人が礼儀正しい人たちで、日本を良くしようと志のあった人たちだったという良いイメージがスイスにはあるのです。彼らは戦争を逃れたり、労働を求めてきたという人たちではなかった。日本を良くしようと、スイスから何か学ぼうとした人たちでした。

ベーニー : わたしもそう思います。しかも、日本人の仕事の仕方は誠実ですよね。わたしが自己主張しすぎたときなど、日本人のイメージが悪くなってしまったのではないかと心配することもあります。わたしたちも後世の人たちのために頑張らなくては。

swissinfo : ここはちょっと日本とは違うよな、と思うことは?

ガロ : わたしは市営の老人ホームの洗濯室の担当ですが、部屋から一歩も出られない人が、スカートのアイロン掛けが綺麗 ( きれい ) でないと、クレームをつけてきました。支払うものは支払っているのだという考え方ですね。もちろん、こうした場合、すぐに対処しますが。

べーニー : 患者の希望をものすごく受け入れますね。時間を取って話をします。たとえ患者が麻酔で朦朧 ( もうろう ) としていても、自分の希望を受け入れられるまで要求してきます。ただ、わたしは、患者にとって良いだろうなと自分で思うことをしてあげられることが喜びです。
気質や性格は日本人の方が良いと思います。日本人の優しい気質が懐かしくなります。看護師の仕事では、ふわっと包み込まれるような優しさがいいと思いますね。ここで日本人に対する評価が高いといっても、労働許可なしに日本人の看護師がスイスで働くということはほとんど不可能ですけれどね。

swissinfo : スイスに融和しようと思いながらもまだできていない日本人にアドバイスはありますか。現在はインターネットや衛星テレビなどで日本語での情報が溢れていますが。

シュトゥールトレーガー : いろいろな情報があるということは、選択の余地があるということで、良いことです。
スイスのしきたりや習慣など日本語で説明してくれれば、より早い時点で理解できるのではないでしょうか。いろいろなものを利用しながら、何を日本語で知り、どこから先はドイツ語で知るかは、自分のしっかりした考えがあるべきだと思います。

ベーニー : 言葉ができない初期の時期に、周りがドイツ語だけというのでは辛くなるでしょう。それでも最初は、努力はしないといけないと思います。日本語の情報があると、易きに流れるのでは。
ただし、日本人だから付き合わないとか、スイス人だから付き合うのだと決める必要は無いんです。最終的には、付き合いたいと思う人と付き合うのが良いと思いますね。

ガロ : 自分がしっかりしないと、易きに流れるということはある。融和したいと思うなら、それなりにしなければならないことがあるのではないでしょうか。もっとも、日本語で話すと楽で魂が潤うということもありますから、日本語環境も必要でしょうね。

swissinfo : 皆さんは永住するつもりでいますか?

ガロ : 日本には身寄りがもうありませんので、こちらで骨を埋めるつもりでいます。介護が必要になったら、こちらの施設に入るのでしょうけれど、食事の面では、スイスに住む日本人によるケアグループなどの世話を受けるかもしれませんね。。

シュトゥールトレーガー : どちらか迷っています。言語は、後で学んだものほど忘れやすくなるといいます。だんだんドイツ語が話せなくなるかもしれません。母国語だと自分の意志も伝えられ、頭も動いていると判断されるのに、ドイツ語ができないため、ボケていると判断されたりするのではないかといった不安がありますね。

ベーニー : 伴侶が ( わたしより ) 2歳若いので、彼が早く死んでしまったら、日本に帰るかもしれません。1年の半分は日本で、残りはスイスという生活にするかもしれません。

swissinfo、聞き手 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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