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アクロポリス美術館の建築家 ベルナール・チュミ

Keystone

6月20日、ギリシャの首都アテネで、スイス人建築家のベルナール・チュミ氏が設計したアクロポリス美術館が開館する。総工費は1億3000万ユーロ ( 約175億円 ) だった。

10月の退任を前にしたパスカル・クシュパン内務相も、ヨーロッパ・地中海20カ国の首脳とともに開館式に参加する予定で、西洋文化の源であるアテネが任期中最後の訪問地になったことを挙げ、スイス人建築家によりスイス的要素を強調できる場に居合わせることができれば、喜ばしいと語った。

最新の技術を施した建築

 アクロポリス美術館は、構想から建築まで11年間が費やされ、開会式も何度か延期されたものの、ギリシャの誇りとなる美術館だ。ギリシャのアントニス・サマラス文化相は式典前、スイスフランス語圏の建築家ベルナール・チュミ氏のデザインによる美術館は「宝物」であり、開館式は世界的出来事であると表現した。

新美術館はパンテオン神殿のあるアクロポリスのふもとにある。4階建てで2万5000平方メートルの広さを持ち、ガラスと鉄筋で造られた建物は、アクロポリスの丘にある旧美術館の展示会場の10倍の広さがある。

チュミ氏は、無駄なものをそぎ落とし、現代に沿ったデザインにしたとスイス通信SDA社のインタビューに答えている。
「展示されている彫刻が主役でなければならない。建築物と競争してはいけない」。建物の表面はコンクリートだ。彫刻は光を跳ね返し、コンクリートは光を吸収する。「これにより、彫刻が浮き上がり非常に美しい」とチュミ氏は語っている。

技術的な面では、夏の高温への対応や対地震など様々な難点をクリアしなければならなかった。ガラスに散らばる黒点は、太陽光線を和らげる効果がある。地震に対しては、日本やカリフォルニアで使われている技術を採用した。

アクロポリス美術館は2004年、オリンピックが開催される年に開館する予定だったが、複数の事情により延期された。建築予定地で遺跡の発見、建築予定地周辺の住民との裁判、旧美術館からの美術品の輸送の問題など多数の困難を乗り越えての今回の開館式となる。

イギリスへの圧力

 スイスとフランスの2つの国籍を持つチュミ氏は、ニューヨークとパリにオフィスを持つ。今回の美術館建設では、アメリカのスター建築家ダニエル・リベスキンド氏を破ってコンペに勝った。チュミ氏のデザインは、パンテオンの上部にある帯状の装飾彫刻フリーズが展示されている美術館内から直接アクロポリスの丘のパンテオンが見える設計で、これが審査員の高い評価を受けた。

 パンテオンのフリーズは美術館の中核をなす。もっとも、19世紀初にイギリス人のジェームス・ブルース・エルギン卿がパンテオンのより素晴らしい部分とアクロポリスの遺産を略奪し本国に持ち帰り、96枚あったフリーズの56枚は大英博物館に展示され、アテネには少数しか残っていない。

 イギリスはこれまで、アテネには世界的遺産を保管できる器がないと主張してきた。アクロポリス美術館が開館すれば、イギリスが挙げる理由は根拠がなくなるというのがギリシャ側の主張だ。ベルナール・チュミ氏も将来はギリシャの遺産はイギリスからアテネに戻ってくるだろうと言う。それまで、失われた部分はホログラムでぼんやりと浮き彫りになったコピーが白い大理石の上に投影され、訪れる人たちにその歴史を思い出させるようになっている。

 アクロポリス美術館の会館は、パンテオンのフリーズをアテネに返還するようイギリスに政治的圧力をかける1つの手段になるようだ。

ガビ・オクセンバイン、swissinfo.ch
( 独語からの翻訳、佐藤夕美 )

1944年ローザンヌ生まれ。連邦工科大学チューリヒ校 ( ETHZ ) で建築を学ぶ。
ロンドン、プリンストン、ニューヨークで教鞭を取る。
現在ニューヨークとパリに建築事務所を持つ。
1994年にはニューヨーク近代美術館「MOMA」で特別展が開催された。
おもな建築物として、パリの科学産業都市 ラ・ヴィレット( la Villette /1982年 ) 、マンハッタンのブルータワー ( Blue Tower / 2009年 ) などがある。
スイス国内では、高級時計のヴァシュロン・コンスタンタンのビル( 2004年 ) 、ローザンヌのフロン駅 ( Flon / 2008年 ) 、ローザンヌ州高校 ( 2007年 ) などがある。

アクロポリスはギリシャ語で、上 ( アクロ ) と都市 ( ポリス ) の意味。海抜155メートルにあるアテネのシンボル。現在残っている建築物は紀元前5世紀から2世紀に造られたもの。パルテノン神殿とともに、世界でももっとも有名な建築物。
1986年からユネスコの世界遺産に指定されている。

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