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アフガニスタンの未来、復興の扉を開けよう

アフガニスタン政府に贈られた「科学の家」 ( 写真提供 : アルベルト・シュタヘル氏 )

激しい内乱で破壊し尽くされたアフガニスタンは、東洋と西洋が交わるシルクロードの拠点でもあり、中でもバーミヤン ( Bamiyan ) は数多くの文化遺跡が残っていることで有名だった。しかし、この人類の財産も、内乱の中でその多くが破壊されてしまい、国際社会に衝撃を与えた。

内乱が終わり、ようやくアフガニスタンにも未来に向けて扉が開かれようとしている。その一部を担うのが、スイスによる「科学の家」だ。この技術支援の達成に奔走しているのは、スイス政府ではなく、国内の最高学府、チューリヒ工科大学だ。

 ヒンズークシ山脈のふもと。長年の破壊に傷ついたこの町では、世界の国々による復興プロジェクトが行われている。しかし、チューリヒ工科大学が資金を出し、建物も設計した科学の家は、従来の復興支援とはちょっと違う。

単なるお金の援助ではなく

 バーミヤンには4世紀から5世紀にかけて作られたとみられる石仏群があり、日本の法隆寺も影響を受けているともいわれる貴重なものだったが、2001年、旧タリバン政権は「イスラム的ではない」との理由で破壊してしまった。

 内乱の終結後、アフガニスタン政府自身も石仏群の復興に着手しようとしたが、1000年も前の石仏を修復するのは、高度な専門技術が必要だ。しかし、内乱で荒れたこの国では、このような専門知識を持っている若者は育っていなかった。

 そこで出てきたのが科学の家プロジェクト。建物もチューリヒ工科大学の学生が設計した。講義のための講堂やセミナールーム、ハイテクのコンピューター・センターなどが完備されている。客員教授が泊まれるアパートもある。

 バーミヤン大学ともつながっているキャンパスは、去年の終わりにアフガニスタン高等教育省に引き渡された。

若者たちの交流も

 「スイスとアフガニスタン、両国の学生から、『ここで学んでみたい』という引き合いが来ています」と語るのは、プロジェクトを進めてきたアルベルト・シュタヘル氏。

 セキュリティの専門家でもあり、チューリヒ大学やチューリヒ工科大学で教鞭を取っていたこともある。「科学の家の舞台となるキャンパスは、開講に向けて活気にあふれています。もうすでに講義が始まっているセミナーもあるのですよ」

 しかし、実はまだ多くの学生や教授を呼ぶのに十分な資金が集まっていない。しかし、シュタヘル氏は「まあ、なんとかなるでしょう」と楽観的だ。

 資金集めに奔走したのは、チューリヒ工科大学の前学長、オラフ・キュブラー氏だ。彼は現職の時からこのプロジェクトに非常に協力的だった。

こんなものが必要

 科学の家が若者に提供する技術やノウハウは、この国が今、まさに緊急に必要としている農業と建築分野だ。バーミヤン渓谷はアフガニスタンの中でも最も豊かな土地に数えられるのだが、何しろ今の状況ではインフラが決定的に足りない。

 また、水の管理技術や、経済知識、政治的手腕や文化的背景の知識なども早急に必要だ。これらを教える教師もまた育てていかなくてはならない。内乱の時に、多くの教師が標的になって殺されてしまったため、アフガニスタンには教師の数も不足している。

 シュタヘル氏は、アフガニスタンの専門家でもあり、約20回もこの国を訪れている。シュタヘル氏によると、教育者の不足には、前タリバン政権にも大きな責任があるのだが、地域によっては前タリバン政権とは関係なく、教育そのものに嫌悪感がある地域があるという。

ハザラ民族の住む地域

 しかし、科学の家に関していえば心配ご無用。「バーミヤン地方はタリバンのようなスンニ派ではなく、少数民族のハザラ族が主に住んでいる地域なので、非常に静かで平和なのです」

 この友好的で平和を愛するハザラ族は長い間、迫害も受けてきた。そんな彼らが住んでいる場所だからこそ、シュタヘル氏たちは、この場所に科学の家を建設すると決めたという。

 また、ここは昔、仏教の中心地だった。「2001年に破壊された2つの大仏の存在も、ここを選んだもう1つの理由でした」

 シュタヘル氏によると、科学の家に対してチューリヒ工科大学が行った大きな貢献は、アフガニスタン政府に非常に感謝されたという。

 スイスは中立国であり、これまでも人権のために活発な活動を行ってきた。政治的に難しい綱渡りをしなければならないアフガニスタンにとって、スイスが中立国である、という事実は重要な要素だったらしい。外国の利益をうまく代弁したり、国際会議をまとめたり、スイスが行うと物事がうまく進んだ。

 例えば、シュタヘル氏は自らもアフガニスタン政府に強い人脈があるにもかかわらず、あえてスイス政府がアフガニスタン議会の議長を招待するよう、取り計らった。このような根回しが後々仕事をしやすくするのだ。

 シュタヘル氏は、次にこのヒンズークシ山脈のふもとに「帰る」日を心待ちにしている。「神の思し召しがあれば、2月後半には、このプロジェクトの最終チェックに行けると思います」

swissinfo レナト・キュンツィ 遊佐 弘美 ( ゆさひろみ ) 意訳

現在63歳。チューリヒ連邦工科大学の軍事アカデミーで26年間教鞭を取る。その後、チューリヒ大学に移る。また彼自身の研究のためにも、チューリヒ近郊ヴェンデンスヴィル ( Wädenswil ) にある戦略研究所を創立した。

専門は「ゲリラ的な状況下の戦争」で、アフガニスタンに興味を持ったのは1980年。

2005年に、スイスが人道的な問題についてさらに高い国際評価を得ることを目的とし、「人道主義スイス・フォーラム」という団体を設立した。

「科学の家」プロジェクトは、バーミヤン大学の協力を得て、チューリヒ工科大学によって行われた。

このプロジェクトに対し、スイス外務省開発協力局 ( SDC ) は年間1000万フラン ( 約9億7000万円 ) 拠出している。

チューリヒ工科大学は、3Dを使ったバーミヤンの石仏修復プロジェクトにも参加している。

これ以外にも、スイスは国連の「国際治安支援部隊 ( International Security Assistance Force 、ISAF )」 に4人の専門家を送って地雷除去に取り組んでいる。

スイス人のドキュメンタリー作家クリスチャン・フライ氏は、『大仏( The Giant Buddhas ) 』というドキュメンタリー・フィルムを作った。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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