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アルプスのケーブルカーの経営事情

十分な雪と太陽があればスキー客が来るという時代は終わった。マーケッティングが問われるリゾート産業。 Keystone

地球の温暖化と人々のスキー離れから冬の観光旅行客が減少し、山岳地帯にあるケーブルカーの運営も厳しい状況にある。                                      

最近になって、業務提携や合併のほか新しいサービスを提供し、スキー客を呼び戻そうという動きが見られる。今後はスイスでも、より高度なマーケッティングが問われるようである。
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今シーズンはケーブルカーの合併から始まった。グリンデルワルト−フィルストケーブルカーとユングフラウ鉄道が合併。新会社はクロースタースとダヴォスのリゾート地を買収し、320kmのスキールートを持つスイス第1のケーブルカー会社が誕生した。他のスキーリゾート地も合併を検討していると見られる。ザンクトガレン大学のトマス・ビーガー観光学教授は、
「収益の上がっているダヴォス、ツェルマット、フリムスなどの合併が進んでいるが、国外リゾート地と競争するためには、まだ合併する余地がある」
と語る。スイスケーブルカー協会も、ケーブルカーの建設ラッシュだった60年代に問題は遡ると指摘。もっぱら技術専門家が携わり、マーケッティングという観点からの検討はなかったという認識で問題を把握している。

温暖化で雪不足

 さらに、80年代から温暖化によりスキーリゾート地が雪不足に悩み続けた。国連環境計画(UNEP) の地球温暖化に関する発表によると、向こう10年間で320カ所あるスキーリゾート地が雪不足のため2割は消滅してしまうという。生き残り続け、経営が成功するのは10カ所程度。こうした事実に対応するには合併しかない。十分な雪が保証される緯度の高い地域が合併で広く網羅されるからである。

 ケーブルカー会社の合併のほか、ホテルやレジャー産業との提携も意味がある。例を挙げれば、リゾート地として有名なスイス西部のアローザ。ホテル客すべてにケーブルカーの無料利用のサービスを始めた。夏季に限定されているものの、観光客数が160%増加した理由の一つと見られている。

外国資本の流入も歓迎

 さらに、合併が一通り完結すれば、外国資本の流入も予想される。すでに、フランスからヴァレー・ド・テレヴェルビエがスイスに進出。サースフェーのケーブルカー会社の株を取得した。スイスはケーブルカー建設技術には長けているがマーケティングに弱いと言われ、外国資本の流入に対してケーブルカー業界は、至って肯定的である。

 スイスの伝統企業が次々と外国資本に買収されている中、ケーブルカーまでもという懸念もあるが、リゾート地自体が外国に流出するというわけではない。スイスの資源であるリゾート地をいかにアピールするかが今後の課題となろう。

スイス国際放送 佐藤夕美 (さとうゆうみ)

スイスにあるケーブルカーは586台。

1万1千人が働いている。

このうち3分の1が黒字経営

収益が百万フラン(およそ8億5千万円)以下のケーブルカーが77%を占める。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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