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オールドタイマー・ミーティング

私の一番お気に入りのオールドタイマー。1955年製。エレガントでグラマラスな女性を想像させるようなみごとな曲線美。夢の車。 swissinfo.ch

「走るアンティーク」といえば、オールドタイマーである。一口にオールドタイマーといっても、飛行機、電車、自動車、オートバイに至るまで実に範囲は広いのだが、一般的には30年以上前に製造された古い自動車のことを指すようだ。またヤングタイマーというのは20~30年前ぐらいの前の自動車を指す。毎年モダンで高性能な自動車が次々と発売される一方で、ヨーロッパでは依然として古い車に対する人気が根強い。

 長く厳しい冬の間、オールドタイマー達はガレージで静かに“眠っている”。そして雪が溶け暖かくなると、まるで冬眠から醒めた動物が穴から這い出すように次々とガレージから姿を現し、10月末ぐらいまで活発に活動するのだ。天気の良い週末にアウトバーンを走っていると、多い日では一日に10台近くもオールドタイマーを見かけることがある。オールドタイマーのドライバー達は一種の連帯感があるようで、すれ違いざまにお互い片手を上げて挨拶しあったりしている。

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 一方日本では、数十年前の古い車に高い修理代をかけるより、新車に買いかえる人の方が圧倒的に多いようだ。特に日本車は安くて性能がいいので路上で見かける車はほとんどが6~7年以内に買われたものだと思う。10年以上同じ車に乗り続ける人は非常に少ない。新しく買いかえる方が、お金も手間も省けるのだから無理もない。日本にいた頃は、オールドタイマーを持っている人が自分の身近にいなかったし、関心もまるでなかった。

 しかしスイスに来て、夫がたまたま古い日本車(1975年製。日産フェアレディZ、スイスでの通称ダッツン。)を持っていたせいで、車オンチの私も多少興味を持つようになった。彼がダッツンを中古車として買ったのは約25年前。12年間乗った後に調子が悪くなり、それからは友人のガレージに2年間置きっぱなしになっていたのだが、友人の協力で3年がかりで修理し、7年前にみごと復活!以後、天気のいい休日はダッツンでよく近場にドライブに出かけるようになった。

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 ダッツンの装備はきわめてシンプルだ。ミッションだし、パワステやパワーウインドゥもない。おまけにエアコンもCDプレイヤーもない。ラジオはかろうじて機能するものの、カセットプレーヤーと時計は壊れたままである。「ブオン、ブオン、ドッドッドッ」と大きな騒音を立てて走るのは実はちょっと気恥ずかしいのだが、夫曰く「オールドタイマーの運転は、この排気音が音楽がわり。時間を忘れたいから時計も直さない」。そうである。納得。

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 どうやらオールドタイマーの魅力は強いノスタルギーと堅固でシンプルなメカニックにあるらしい。心の底からオールドタイマーを楽しみたいと思ったら、ドライバー本人がその車と同世代を生きていた方がいいそうだ。それはまるで私達が古いヒットソングを聴いた時に、思わず当時にタイムスリップして「ああ、あの時は・・・。」と甘い感傷に浸るような感覚に近いのかもしれない。確かにどんなモダンな高級車に乗っても、「束の間のタイムスリップ」を経験することはできないのだ。夫の気持ちが少しだけわかったような気がする。

 シーズン中はスイスの至る所で毎週のようにオールドタイマーメッセやミーティングがある。先日、グラールス州のモリス(Mollis)でイギリス車のオールドタイマー・ミ-ティングがあったので、私は暇つぶし半分に、夫は心を踊らせて出かけた。ちなみに、メッセというのは屋内に陳列されたオールドタイマーを見学する展示会のようなものだが、ミーティングは、オールドタイマーの持ち主が決められた時間内に駐車場に集まってきて自由に車を停め、他の車を見たり、情報交換をしたりする参加者主体のもの。駐車場には常にいろいろなオールドタイマーが入れ代わり立ち代わり出入りするので見ていて飽きない。今回は中古部品や車の雑誌関係の店だけでなく、地元の特産物や軽食を販売する店も出ており、特別ゲストでスコットランドから民族衣装をまとったバグパイプのバンドも来て演奏していたので、ちょっとしたお祭り気分も味わえた。

 青く澄み渡る空高くバグパイプの音色が響き渡るなか、集まってきた色とりどりのオールドタイマー達は、まるで過ぎゆくシーズンを惜しむかのように、その音色にじっと耳を傾けているように見えた。

森竹コットナウ由佳

2004年9月よりチューリッヒ州に在住。静岡市出身の元高校英語教師。スイス人の夫と黒猫と共にエグリザウで暮らしている。チューリッヒの言語学校で日本語教師として働くかたわら、自宅を本拠に日本語学校(JPU Zürich) を運営し個人指導にあたる。趣味は旅行、ガーデニング、温泉、フィットネス。好物は赤ワインと柿の種せんべいで、スイスに来てからは家庭菜園で野菜作りに精をだしている。長所は明朗快活で前向きな点。短所はうっかりものでミスが多いこと。現在の夢は北欧をキャンピングカーで周遊することである。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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