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ジュネーブでスパイ行為の疑い

スパイが跋扈するのか。日本から贈呈されたキジが放たれている国連欧州本部の庭で。 Keystone

ジュネーブの国連欧州本部で、英国の元機密情報部員がスパイ行為をしていたという。対象となったのは、国連人権高等弁務官のメリー・ロビンソン氏だった。

ジュネーブでは真相は明らかにされていないが、「もし事実だとすれば非常に遺憾な事態」とジュネーブの国連の広報担当官は、スイスの報道機関のインタビューで語った。

2月29日付けのドイツ語圏の新聞「NZZゾンターク」の報道によると、1990年代後半、英国の諜報部で国外活動を担当するMI6から国連欧州本部へ、何人ものスパイが派遣されたという。MI6の元諜報部員のリチャルド・トムリンソン氏が明かしたところによると、ターゲットになったのは、国連人権高等弁務官のメリー・ロビンソン氏。同氏は、アイルランドの元大統領で1997年から2001年まで弁務官を務めたが、特に米国に対しては歯に衣をきせぬ態度で接したことで知られる。ロビンソン氏は、「スパイ行為の対象になる可能性があると認識していたので、それなりの対処はしていた」と同紙のインタビューで明かした。

イラク戦争前夜に多発

 ジュネーブの国連欧州本部は、国連内でスパイ行為があったことを公式には認めていない。国連のマリー・ホイツェ広報担当官は、「まったく証拠のないことである。もし、事実なら非常に遺憾」と同紙に語った。

 先週、ニューヨークの国連本部でクレア・ショート元国際開発相が、コフィ・アナン事務総長をはじめ、高官がイラク戦争前夜にスパイされ、口述筆記を見たこともあると明かした。監視検証査察委員会のハンス・ブリクス委員長やその前任者のリチャルド・バトラー氏などもスパイの対象になり、アナン事務総長の電話も盗聴されていた疑いがあるといわれる。

 NZZゾンタークの報道が真実であれば、スパイ行為はニューヨーク本部に留まらず、ジュネーブにも及んでいたことになる。BBCの報道によると、国連は英国政府に抗議したところ「謝罪するような返答が電話であったが、いまのところ根本的にスパイ行為を認めてはいない」という。

スパイ行為は日常茶飯事

 国連の高官に対するスパイ行為は、外交における不可侵性と信頼を揺るがす行為であり、事務総長や高等弁務官との協議の内容を機密にしたい場合は、その意向は尊重されなければならないと考えるのは、真の外交を知らない者が持つ意見なのかもしれない。

 国連内ではスパイ行為は日常茶飯事になされていると認識し、各国の高官はそれなりの対処をしているといわれる。ジュネーブでの諜報活動について語った前出のリチャルド・トムリンソンMI6元諜報部員は、「なぜそんなに騒ぐのか不思議だ。何年も前から諜報活動はあった」と外交に関わってきた高官は政府に対する忠実心も高く、機密内容でも国の利益になると思えば話してしまうのは自然の行為なのだと語った。

スイス国際放送 佐藤夕美 (さとうゆうみ)意訳

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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