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スイスで農業

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スイスには、酪農や農業を学びたいという外国人研修生を受け入れる制度がある。日本からも日本の「国際農業者交流会」を通し、毎年約20人の若者がスイス全土に派遣され、酪農や野菜栽培でスイスの技術を学び、日本の農業に生かしている。

今年も研修を終えた日本人19人がスイスの受け入れ農家の家族を伴い、アールガウ州にあるスイス農業協会 ( Bauern Verband ) の出先機関「アグロインプルス( Agroimpuls )」の会場で3月5日、1年間にわたる成果を滞在中に学んだドイツ語で報告した。

日本人研修生の人気

 アグロインプルスは外国の農業を学びたいスイス人の外国派遣をする一方で、外国人農業者のスイスへの受け入れのコーディネートもしている。外国人を受け入れるのは主に中規模農家。研修生の教育に時間を割ける余裕があれば、研修生という比較的安い労働力がスイスの農家にとって、魅力となっている。

 一般に日本人の研修生の評価は高い。すでに日本人を10年以上受け入れ続けているという農家が多い。ディレクターのハンスペーター・フリュキガー氏は
「オープンな性格で、やる気まんまん。農業やほかの事に対する興味が深い。そして、静かな性格の人が多いことが人気の理由だ」
 と語る。研修中に発生する問題があるとすれば「人間関係」。受け入れ農家の変更などで対応するが、日本人研修生は常にあまり問題なく「今年もこうした問題はなかった」という。

 受け入れ農家の1つマルグリット・レンファーさんも日本人には満足している。
「興味を持って仕事をしているところを見ると、仕事に対して喜びを持っているのが分かる。東欧からの研修生は、給料が大切だと思っているらしいが、日本人はお金ではない」
 と言う。

それでも節約できるところは?

 一方で、スイスの受け入れ農家は、研修生の負担をなるべく軽くしようと、細かい計算をしている。研修生の報告が始まる前、受け入れ農家は研修生と一緒に今後改善できる点を話し合った。そこで取り上げられたのは、交通費と健康保険の問題。
 研修生も話に加われるように、標準ドイツ語で話し合いが進む。さまざまな意見や提案が出され、セミナー参加のための交通費の負担軽減のために、また、休日はスイス国内を活発に旅行してほしいという、受け入れ農家の好意が伺われる。

 アグロインプルスは、昨年の研修生受け入れコストを約4万フラン ( 約340万円 ) とはじき出した。これを研修生19人で負担する。彼らは月々こうしたコストや健康保険、年金などが差し引かれ、手取りの給料額は約6万円から7万円程度。食費、住居費は受け入れ農家が負担する。
 「研修生は、仕事がきつくて大変。一方で、研修は自分たちのお金を持ち出しての研修なのだから、滞在費で節約できることがあれば考えたい」
 とイレーネ・フェルバーさんは言う。

厳しい仕事の中で学んだこと

 フェルバーさんも認めるように、この1年間の仕事は大変だったようだ。スイスインフォで5月に紹介したヨーナー家で研修した吉濱孝明さん ( 27歳 岩手県出身 ) も
「毎日働きました。毎日、です」 
 と言う。思い出に残っているのは、ズッキーニの収穫。
「何トンも、何トンも収穫して、腰が痛くなりました。日本ではいろいろな野菜を栽培したいけれどズッキーニはちょっと…」 
 とユーモアを交えて報告した。

 北村桃那さん ( 23歳 三重県出身 ) も
「仕事はいっぱい。牛の乳搾り、牛の餌やり、牛小屋の掃除など、いっぱい、いっぱい。家の中ではこどもの世話もした。でも、たくさん仕事があるのは『メガ・クール ( とてもかっこいい ) 』」
 とスイスの若者たちが好んで使うドイツ語で1年間の研修成果を報告した。仕事は大変だったと報告する研修員だが、報告会は笑いが絶えない場となった。仕事で失敗したときに、家族に「明日はまた新しい一日が始まる」と励まされたと言って、報告中に涙ぐんだ佐藤史子さん ( 23歳 東京都出身 ) も
「仕事だけではなく、人生を学びました。研修はとてもすばらしかった」
 と締めくくった。

 中野愛美 ( まなみ ) さん ( 22歳 静岡県出身) の受け入れ農家は、有機農法の農家だった。 
「省エネや資源を大切にすることが、家族のモットー。また、口にする食べ物は、自分の土地から採るのが基本。チーズ作りを学びに来ましたが、ソーセージやハムの作り方も学びました」
 
 報告はすべてドイツ語。スイスの農家で任された仕事を自主的にこなし、環境を大切にする心や直売の楽しさなどを学んだ日本人研修生19人は、ご褒美のヨーロッパ旅行を経て、3月中旬に帰国する。

swissinfo、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ )  ヴィンディッシュ ( アールガウ州 ) にて 

スイス農業協会 ( Bauern Verband ) の出先機関アグロインプルス ( Agroimpuls ) が企画。2009年は3月2日から開始。1カ月間のドイツ語研修後、スイス各地に派遣される。
研修中、料理講習、生肉解体講習、チーズ作り、テーブルマナーなどを学ぶ1週間半のセミナーやスキー合宿などがある。
アグロインプルスでは、日本のほか、ヨーロッパ各国、ブラジルなどから研修生を受け入れ、スイスの農法を外国人に知ってもらうための企画をコーディネートしている。日本人研修生の受け入れは日本の国際農業者交流会を通して行われる。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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