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スイスのマダニには要注意 

拡大したマダニ。血を吸うと200倍の大きさに膨らむことも zecke.ch

初夏、週末には山や森の中を散歩する人も多い。楽しいひと時を過ごす一方でスイス人が今、特に敏感になっているのはマダニだ。

スイスに住むマダニは、食い付いた獲物の血を大量に吸う寄生虫。脳髄膜炎などの病原体のキャリアーでもあり侮れない。

 放し飼いになっている猫の首に、1センチメートルほどの黒い豆のようなものが付いていることがある。獲物の血を吸って大きくなったマダニだ。今年はベルン州の一部とチューリヒ州の広範囲にわたり、マダニが大量発生しているという。夏に向かう今、人にも寄生するマダニによる感染症が心配だ。

マダニはクモの1種

 以下、複数のマダニのサイトからマダニの習性をまとめた。

 マダニはダニの総称で、その種類約800種。北極と南極以外、世界中に住んでいる。湿度が高く温かい場所を好むが、寒さにも強く冬を越す。スイスでよく見かけるのは、「甲羅ダニ」という種類でケシの実より小さい。クモ科に分類され、足は8本。前足で獲物につかまり、獲物の肌の柔らかいところを選んで、口器で刺す。スイスで獲物になるのは鳥、ハリネズミ、猫などの動物や人間。1度刺したら2週間は獲物から離れない。

 幼虫はメスでもオスでも血を吸うが、成虫になると血を吸うのはメスだけ。ダニは1度に3000個のタマゴを産むが、そのための栄養が必要なのだ。オスは交尾した後、死んでしまう。

 血を吸い続け、およそ0.5ミリメートルだった体長が、200倍にも膨れ上がることもある。いっぱいに血を吸ったマダニが、10年間は生き続けたという例もあるほどだ。獲物の血をそのまま吸収するのではなく、血の栄養分だけを体内に取り入れる能力が備わっているからだ。血の「残骸」は獲物に返してしまう。こうした過程の中で獲物は感染症にかかるのだ。

死に至ることも

 マダニによる感染症はおよそ50種類あるが、特に恐れられているのは、初夏脳髄膜炎とライム病だ。マダニの専門家で、チューリヒでクリニックを開業するノルベルト・サッツ氏によると、初夏脳髄膜炎を媒介するマダニは1.0〜0.1%に満たないが、これに刺された人は必ず感染する。しかし、初期段階で治る人が多く、生命の危険にさらされるのは、感染した1000人に1人と非常に少ない。

 一方ライム病の場合、マダニの3匹に1匹が病原体を持っているが、病原体を持っているマダニに刺された人の2〜3%が感染する。しかし、刺されたところが赤く腫れたりインフルエンザのような症状で治る人が大半で、慢性関節炎などまで進む人は刺された人のうち0.2〜0.3%にとどまる。

専門家のアドバイス

 このように感染率は比較的低いことからサッツ氏は「刺されたところが赤くなったり熱が出たりしたら、医者に行って下さい」と言う。

 予防することも大切だ。マダニの生息地は地面。せいぜい登って1.5メートルなので、ハイキングの場合は特に脚が危険にさらされる。「しっかりした靴を履き、ズボンの上にソックスを被せるようにすること」とサッツ氏。また「外から帰ってきたら、シャワーを浴び、体全体をチェックする。タオルでごしごし体をこすることも効果がある」と言う。

 マダニに刺されたら、早期にピンセットなどで取り除く必要がある。「万が一頭が皮膚に残ってしまっても、下手に皮膚をほじくって化膿させないほうが良い」とサッツ氏はアドバイスする。「マダニを殺すことが肝心。極端な話、引っ掻いて取ってもいいのです。残骸は自然と皮膚から押し出されます」

 しっかり予防し、今年も楽しくアウトドアーレジャーをしたいものである。
  
swissinfo、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ )

マダニによる初夏脳髄膜炎
2005年 204件 ( 1999-2004年平均値の2倍 )
2006年 259件 ( 見込み )( 1999-2004年平均値の2.6倍
( 連邦保険局資料 )

クモ科。ダニの総称で、その種類約800種。北極、南極以外世界中に生息する。湿度が高く温かい場所を好むが、寒さにも強く冬を越す。
前足で獲物につかまり、獲物の肌の柔らかいところを選んで、口器で刺す。スイスで獲物になるのは鳥、ハリネズミ、猫などの動物や人間。
刺された人が初夏脳髄膜炎やライム病など危険な病気に感染する場合があり、ハイキングなど屋外に出たときは、注意が必要。

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