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スイスのリゾート村

リゾート村の中心的存在「ピッツ・チェッタ」 Fundaziun Vnà

スイス東部ウンターエンガディン地方のヴィナ村がスイスで初のリゾート村に生まれ変わった。別荘が建て込むといったことはなく、地元住民に溶け込んだリゾート地だ。

リゾート地といえば暖かい気候の海岸沿いにあり、その土地の特徴ある建物をまねた人工的な建築物の中に観光客を囲い込む、フライト料金が込みのパッケージ旅行が多いが、ヴィナは違う。

 ヴィナ村 ( Vna ) は標高1630メートルに位置し、海岸沿いにあるわけではない。日当たりの良いテラスのような地形にあり、昔ながらの村の姿を保っていることから保護地区にもなっている山村だ。ここに地元住民の協力により、新しいスタイルの観光地が生まれた。

村全体がリゾート地

 昔ながらの村といえば聞こえはいいものの、村民の高齢化と過疎化が進んでいるため、写真集にその残影が刻まれ実物は消滅してしまう危機に立たされている村はスイスにも多い。こうした地方は、別荘地として売り出すことでその活路を見出す一方で、近代的な別荘が建ち並びその風景が荒らされていく危険をはらんでいる。ヴィナはこうした事態を避けるため、別荘建設の誘致はしないことにした。その代わりに歴史的建物を前面にアピールしたゲスト-カルチャーハウス「ピッツ・チェッタ ( Piz Tschütta ) 」を村の中心に置き、現存する建物を利用した宿泊施設を持つ観光産業を興すことにした。

 5月1日には、ピッツ・チェッタの開業式が執り行われた。1995年以来空き家だった村の最も大きな建物を利用した施設で5部屋のゲストルームがある。そのほか村全体に宿泊施設13部屋 ( 36ベッド ) が分散してあり、ここにも観光客が宿泊できるようになっている。

 ピッツ・チェッタは資本金45万フラン ( 約4500万円 ) の株式会社で、住民が株主になっている。そのほか個人220人の寄付を募った60万フラン ( 約6000万円 ) の基金が創立され、リゾート村としてのメンテナンスや拡大、経済発展に投資される。

外部資本の流入を嫌う

 基金創立当初の出資者であるウレッツア・ファモス氏は、ウンターエンガディン地方で会社経営と興行マネージメントに携わってきた。地元とはまったく関係のない外部からの資本が流入し、未開の自然の中にホテルを建設することを避けるため基金を作ったという。外部資本の流入には地元の人たちも敏感で、ヴィナの隣村では有名建築家ペーター・ズンドーのデザインホテルの建設も拒否されたほどだ。

 ヴィナのリゾート村計画には、当地の経済・観光局のほか、スイス山岳援助協会、グラウビュンデン州銀行、ホテルクレジット協会が出資した。また、連邦経済省経済管轄局 ( Seco ) の支援も得ることができた。

持続可能な開発

 リゾート村計画は環境配慮もしっかりしている。ピッツ・チェッタの改築には地元に生育するカラマツ、トウヒ、高山マツを使った。床などに使われていたリノリウムやペンキはすべて取り除き、自然の素材を見えるところで生かして改造した。さらに二酸化炭素の排出ゼロの家になっている。カルチャーハウスとして、開館した5月には音楽、討論会、ライヴのラジオ放送のほか、リゾート村計画のドキュメンタリー映画も上映される。

 ヴィナのリゾート村計画は持続可能な開発としてすでに評価され、今年1月には「アルペン観光における持続可能な開発賞」を受賞した。
  
swissinfo、アレクサンダー・キュンツレ 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 訳

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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