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スイスを狙うドイツのディスカウント・ショップ

ディスカウントが売り物。ドイツ企業がいかにスイスで成功するかが注目される。 Keystone Archive

ドイツの大規模小売チェーン店の大手で、ディスカウントを売り物とするアルディが、スイス進出を計画している。消費者の間では、これまでより安価な商品が手に入るという期待が高まってる。

スイスの市場はミグロとコープの二大スーパーが寡占しており、専門家の間で外国資本がスイスで果たして成功するのかといった懐疑的な意見もある。

ドイツの大規模小売店のアルディは、取り扱い品目は少ないが安価な商品を置いているディスカウンターとして有名。このほど、スイス東北部のロマンスホルンの店舗建設の申請を出していることが明らかになった。同社によると、今後スイス全土に10店舗以上を構える計画という。スイスのスーパーマーケットのミグロ、コープ、デンナーにとって、ディスカウンターの進出は価格引き下げ競争の引き金となる可能性もある。

地域住民の反対

 小売業界を専門とする経済アナリストのゴッタルド・ヴァングラー氏は、「アルディのようなディスカウンターはもっと早くスイスに進出していてもよかった。スイスはたった3社で市場の7割以上を占め寡占状態。ドイツはトップの5社でやっと6割を占めるマーケットで競争が激しい」。しかし、アルディがスイスに進出しても、向こう2、3年間はスイス国内の価格競争に大きな影響はもたらさないであろうと、消費者の期待は簡単にはかなわないであろうと分析する。

 そもそも、アルディの進出がスムーズに行くかは疑問だ。アルディの店舗には必ず駐車場を設置する設計となっている。しかも、郊外の緑の多い地域への出店なので、建設許可が下りにくいだろうと同氏は指摘する。交通量が増えるような建物を新たに作ることに対して、住民は非常に敏感になっており、地方自治体の当局はアルディのようなコンセプトの出店に対しては慎重になっているからである。

 同業者でフランス資本のカルフールは、スイスでの建築許可取得の難しさは経験済み。当初、同社は20店舗をスイスで展開する予定だったが、実際に開店したのは11店舗に留まっている。カルフールのミシェル・ドナ広報担当は、新しいビルの建築ばかりではなく「州ごとに税や営業時間の規定など制度が違い、スイス国外から進出するには難しい市場だ」と語る。

安ければ安いほど良いと思う消費者

 しかし、こうした困難もアルディにとっては、取るに足らないこと。まず重要なのは、消費者の関心の度合いであろう。

 取り扱う商品は、有名ブランドに似せたもので、広告代などがない分大幅に安い。特に国境に住むスイスの消費者は、アルディを良く知っている。チューリヒ、アールガウ、ツークなど遠方からも越境して買い物にやってくる。店内では買い物客が飲料水やミルク、精肉などを大量にカートに入れて運んでいる。商品は運搬用の木箱の中にダンボール箱ごとあり、買い物客が自分で取り出す。こうして設備費や人件費を抑えている。

 アルディの取り扱う商品数はおよそ600品目。スイス大手のミグロやコープなら3,000品目以上。アルディの戦略は取り扱う商品を限定し、一番安い卸売に大量に注文すること。ターゲットは、安ければ安いほど良いと考える消費者にある。

 しかしアルディの価格設定はドイツだからできること。「スイス国内のアルディがドイツと同じ価格で商品を売れるはずがない」とヴァングラー氏は見る。しかも、スイス人の「プライド」が許さないという精神的なことも考慮しなければならないと同氏は見る。「国境を越えてドイツで買い物をする姿はご近所に見られる可能性が低いが、家の近くのディスカウント・ショップで知り合いに会ったら恥ずかしいという気持ちがスイス人にはある」。よって、スイスでの客数がアルディの期待通り伸びるかどうかは疑問だという。

スイス国際放送 ジェイコブ・グレーバー (佐藤夕美 (さとうゆうみ)意訳)

アルディはドイツ国外の13カ国で営業を展開。
このほどスイスに進出する計画が発表された。
スイス市場ではミグロとコープが7割以上を占める。
アルディの取り扱い品目数はおよそ600品。
ミグロおよびコープは3,000品目以上。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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