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スイス外相、「イラク被害者リスト」公表で騒動

今年初め内閣に就任以来、話題によく挙がるスイス、カルミ=レイ外相  Keystone

スイスのカルミ=レイ外相は数日前、地元紙とのインタビューで「イラク戦争の一般市民の被害者数リストをインターネットに載せる」と公表。

しかし、野党、アムネスティー・インタナショナルなどのNGOからだけでなく、外務省内からも批判が相次ぎ、発表を断念した。

インタビュー内容

 この電撃発表は日曜付けの「ゾンタ−グブリック」紙のインタビューに答えたもので「このようなリストを公表することによってこの戦争の悲惨さを実感する」と説明し、「この戦争はすでに多くの一般市民を巻き込んでおり、戦死者は兵士より市民被害者のほうが大きい」とコメントした。スイスはジュネーブ条約の受託国として公表する使命があると語った。

 スイス外務省は1日、「そのような情報の正確性を確かめるのは不可能なため断念した」と正式発表した。

反応

 アムネスティー・インタナショナルはこのようなリストの公表について「プロパガンダとして利用される恐れがある」と指摘し、カルミ=レイ外相の政敵は「戦争を今年の総選挙に利用しようとしておりけしからん」と気色ばんでいる。ジュネーブに本部のある赤十字国際委員会(ICRC)の広報官は「正確なリストを入手することは我々でも不可能」と説明する。ICRCは現在、唯一イラクで活動している人道援助機関だが「紛争が終わった後でも正確なリストを作るのは困難」という。スイス紙「タ−ゲス・アンザイガー」は外務省内での専門家に相談もしなかったと非難し、他の地方紙には「外相がこのような体たらくではスイスの信用に関わる」と手厳しく報道した。

外相の外交パフォーマンス

 スイスの内閣は7人の大臣で構成され輪番制で大統領が選ばれる。2003年から外相として内閣入りした、社民党のミシェリーヌ・カルミ=レイ女史は就任以来、「ダボス会議には米パウエル国務長官と会見できなければ出席しない」と公言したり、イラク戦争の回避のための会議を根回しなしで提案し、米国に参加を断られたりと物議をかもしている。外相の「宣言外交」スタイルは批判されてきたものの、2月中旬にイラク攻撃に備えた人道援助の対応を協議する人道会議をジュネーブで開催した評価は高い。しかし、今回は「やり過ぎ」との声が多く挙がっており、外務省内で大きな反発を呼んでいると地元紙は伝えている。

北朝鮮訪問予定

 同外相は日曜付けの「ゾンターグブリック」紙に5月にアジアを訪問予定だが、その際に平和のシンボルとする目的で北朝鮮から韓国へと国境を歩いて渡る予定だと語った。


スイス国際放送、A.Y.

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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