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スイス 武装した永世中立国 −3− 海外派遣

コソボ・ヘルツェゴビナには常時220人のスイス兵が平和維持活動を行っている。 Keystone

永世中立国スイスの軍隊の海外派遣は第二次世界大戦後、南北朝鮮の境界線北緯38度線に1953年に派遣されて以来、国連の要請を受け、適宜派遣されてきた。

現在、世界の31カ国と地域に派遣されているスイス兵は、スイス中部スタンツにあるSWISSINT(Swiss Armed Forces International Command)で養成される。現地の状況を模倣した兵舎にて実際に180人がともに生活しながら、海外派遣のために特別な軍隊教育が10週間施される。

 スイスはこれまで、永世中立だからこそできる海外への兵士派遣を特徴としてきた。朝鮮半島の北緯38度線のほか、アルバニア、アフガニスタン、ボスニア・ヘルツェゴビナなどに派遣してきたが、常に国連の決議が前提で、国連からの要請があった際に派遣が検討される。
「スイス 武装した永世中立国」のシリーズの第3回では、スイスらしい海外派遣の姿を探った。

希望の理由は世界の治安とスイスの不況

 スイスは1年に2度、コソボ・ヘルツェゴビナに兵士を派遣している。1回の派遣人数は180人で常時220人が活動している、現在最も大きい海外派遣地域だ。スイスコイ(SWISSCOY)と呼ばれるこの派遣軍の活動は、現地での成果が評価されており、今年になって派遣期限が08年まで延期された。

 スイスコイへ入隊を希望する理由として、世界の安全に貢献したいと言う人が多い。ユーゴスラビア戦争により難民がスイスにも大勢流入したことを、スイス人は今でも忘れてはいない。当時は「ユーゴスラビア問題は難民を受け入れることで、戦後の問題は解決しない。現地での救助活動がより効果的である」という意見が多かった。

 5年ほど前は500〜700人の応募があったが、2回ある今年の応募は1回につき1200人と増加。希望者が多くなっているのは不況が背景にあると見られる。失業者などが職をスイスコイに求めている。給料は兵役日数や位によって異なるものの、6カ月続く派遣で年間2万2500〜6万フラン(約200万〜500万円)が支給される。「しかも、コソボでは宿泊代も食事も無料。給料はそっくり銀行口座に残る」とウルス・カスパリス広報担当官は、経済的に有利なことも大きな理由の一つだと指摘した。

スイスの国としてのイメージアップ

 応募者は試験などを受け最終的に180人ほどに絞られる。うち5%が女性兵だが、任務には男女の区別なく医療関係の仕事のほか、パイロットや戦車の運転手などを担っている。01年6月の国民投票の結果、海外派遣兵士は自衛のためにピストルなどの携帯が許されるようになった。

 スイスコイはオーストリア軍と提携しており、オーストリア軍の必要に応じて仕事の内容が決まる。当初コソボでは橋をかけたり、排水設備の建築など、ロジスティックの仕事が主だったが、現在は地域のパトロールなど安全管理が中心になてきた。また、輸送用大型ヘリコプターのシュベルピューマ2機を投入し、機材や人の輸送をしている。

 「専門家が兵士となって派遣されているスイス軍の質は、他国からも高く評価されています」とカスパリス報道官。民間人としての職業が軍隊で生かせるというスイス独特の兼業兵士の長所が、ここでも発揮されている様子だ。

北緯38度線の意味

 スイスにとってイラク派遣は、論外というのが国防省の見方である。そもそも国連からの要請がないからで、国民の支持もまったくないだろうと見込まれるからだ。

 北朝鮮と韓国の間にある非武装地帯、いわゆる北緯38度線には、1953年から今日に至るまで合計916人の将校を派遣してきた。終戦後はポーランド、チェコなども駐在していたが、共産圏の崩壊により撤退。現在は南側国境に、スウェーデンとスイスが監視を続けている。

 アドリアン・バウムガルトナー報道長官は「1950年から3年間続いた朝鮮戦争は、休戦協定が結ばれたまままだ終結していない。50年以上経ったいまも、両国の戦後の交渉が必要であることを世界に示す役割がある」ため重要だと説明した。現在、5人の将校が監視を続ける38度線での「シンボリック」なスイスの駐留にかかるコストは、年間80万フラン(約7000万円)という。

 スイス兵の海外派遣にかかる予算は4000万フラン強(約35億円)と連邦軍事費の1%に当たるのみ。安くて国際的にスイスをアピールできる。海外派遣を国民が支持する大きな理由がここにある。

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swissinfo 佐藤夕美(さとうゆうみ)

スイスコイ(コソボ)は1年に2度180人を派遣
常駐人数220人
新しく導入されたヘリコプター、シュベルピューマは、貨物3トンもしくは15人まで輸送可能。標高3000メートルまでへの上昇スピードが非常に速いのが特徴

スイスが平和維持のため現在活動している拠点(05年3月現在)

コソボ221人/中東16人/ボスニア・ヘルツェゴビナ11人/アフガニスタン6人/北緯38度線5人/グルジア5人/エチオピア(エリトレア)5人/スーダン5人など計204人 

このほか国境監視警察官が20人

予算 35億円(全軍事予算の1%)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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