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スイス、難民申請者増加の見込み

大量の難民がイタリアのランペドゥーサ島に上陸。特にリビアから大勢の若者がヨーロッパに庇護を求める Keystone

6月20日は国連が定めた「世界難民の日」だ。スイスのシモネッタ・ソマルガ司法警察相は、難民手続きの簡易化および迅速化に意欲を示し、公平性の維持を強調した。

またソマルガ司法警察相は、予想される難民の増加に対し欧州連合(EU)加盟国が結束して難民政策に取り組まなければ、ダブリン協定は崩壊すると語った。

 難民救済という目標に対し、受け入れ側の腰は重い。世界中で4500万人もの人々が、迫害や暴力、災害などから避難を余儀なくされる中、積極的に救いの手を差し伸べようとする国は少なく、特に西側先進国は難民の受け入れに消極的だ。スイスもこれまで難民流入を防ごうと、さまざまな対策を取ってきた。

swissinfo.ch : 多くの人々が避難を強いられているにもかかわらず、そうした難民が他国で受け入れられずにいる現状に対して、どうお考えですか

ソマルガ司法相 : 私が支持するのは、自国で危険にさらされている人たちが確実に受け入れられる、信頼のおける難民政策だ。目標とするのは公正な難民認定手続きを行い、1951年の国連難民条約に定められた理由で祖国を離れた人々を保護することだ。しかし、それ以外の理由で国を出た人は自国に戻るべきだ。

swissinfo.ch : 理由がなく国外に避難する人などいないのではないですか。

ソマルガ司法相 : 避難する理由がある地域に対しては、(我々先進国は)該当地域の政治システムや経済政策が機能するように構築支援や開発援助を行うべきだ。そうすれば、貧しい国も自立した経済システムを構築する機会を得られる。

swissinfo.ch : 「アラブの春」により、世界中で保護を求める難民の数が増えました。先進国がこうした地域での民主主義発展を称賛する一方で、同時に難民の波を防ごうとするのは偽善的ではありませんか。

ソマルガ司法相 : スイスはただ称賛するだけでなく、援助も行ってきた。スイス政府は1200万フラン(約11億円)の支援金の提供を迅速に決定した。また、スイスは国内にある独裁者の資産をすみやかに凍結した。

チュニジアからやって来たのは、特に経済難民、つまりスイスに仕事を求める若い男性が多かった。なぜスイスに来たのかは理解できるが、当然ながらこうした人たちは難民とは認定されないし、帰国しなければならない。

重要なのは、スイスに住む人たちの不安に真剣に耳を傾け、大勢の人々が難民認定を求めて突然押し寄せた場合に備えておくことだ。これは受け入れを拒否するという意味ではなく、自国民に対して(我々が)責任を負うということだ。

swissinfo.ch : リビアから逃げてきた90万人のおよそ半数が、チュニジアの劣悪な難民キャンプに身を置いています。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)はこうした難民の一部受け入れをヨーロッパの先進国に要請しました。なぜスイスは、人権を擁護する国の手本として率先して行動しようとはしないのですか。

ソマルガ司法相 : そうしている。スイスはこれまですでにアフリカのエリトリアから大量の難民を受け入れてきたことを忘れてはならない。今年はリビアから避難してきたエリトリア人も保護している。スイスにいる在外エリトリア人の数はヨーロッパ諸国の中で最も多い。知り合いがいるということでさらに多くのエリトリア人がスイスに来るのだが。

エリトリアからの難民とチュニジアの難民キャンプにいる難民のどちらがより保護を必要としているかなどという判断を行うのではなく、スイスの人道的援助の伝統を継続していきたいと思っている。

swissinfo.ch : スイスにやってくるエリトリア人はどのくらいいますか。

ソマルガ司法相 : 今年に入ってから8120人が難民申請をしており、そのうち1645人がエリトリア人だ。同時期に難民認定を受けた人は1140人おり、そのうち700人がエリトリア出身だ。

swissinfo.ch : 難民申請者に対しては今後、これまでよりはるかに迅速な認定審査を行うと発表されました。難民申請者はこれから上訴を行いにくくなったりするのですか。

ソマルガ司法相 : 難民認定審査にはこれまで、場合によっては1000日以上かかった。これは申請者にとっても厳しい状況だった。認定審査の期間を短縮する理由は多々あるが、質を落とすことで期間短縮をするというようなことはない。

我々が取り組もうとしているのは、これまで別々の場所で何カ月にもわたって振り分けられていた個々のプロセスを一つにまとめることだ。それと同時に、難民申請者が法律上の保護を包括的に、また無料で受けられるようにする。審査は公平であるべきだ。そのためには高い専門性と迅速さが求められている。

swissinfo.ch : ダブリン協定では、外国人は協定加盟国全域で一度だけ難民申請をすることができ、最初に難民申請をした国以外の協定加盟国で再び申請をすることはできません。そのため、すでに加盟国で難民申請をした人は、スイスで新たに庇護を求めようとしても、最初に難民申請をした加盟国に送り返されることになります。スイスで助けを求めている人を、例えばイタリアに強制送還することに対してどう思われますか。イタリアの難民収容所は劣悪な環境だとニュースでよく取り沙汰されますが。

ソマルガ司法相 : イタリアには、北アフリカから約4万人にも上る多くの人々がやってきている。このことは私もよく承知している。ランペドゥーサ島だけでも5000人の難民申請者がおり、島の構造基盤が限界に達している。そのため、イタリアはこれらの難民申請者を本土へ移送し、収容することにしたのだ。

swissinfo.ch : もしさらに多くの人がやってきた場合、スイスはイタリアの負担の一部を肩代わりするつもりですか。

ソマルガ司法相 : シェンゲン・ダブリン協定加盟国の会合で、マルタの状況が危機的だと明らかになった。マルタはたった4カ月で女性や子どもを含む2700人もの難民を収容した。これをスイスの難民受け入れ状況に置き換えると、4万人もの難民が押し寄せてくることになる。

欧州委員会はこの事態を受け、マルタに専門家を派遣し支援金を送った。また、EU加盟国はマルタから難民を受け入れる準備があると述べた。

swissinfo.ch : スイスも同様の対応を取ったのですか。

ソマルガ司法相 : スイスも少数の難民をマルタから受け入れることにした。ただ、スイスは現時点でエリトリアから大量の難民申請を受けていることもEUに伝えた。

EU加盟国はそれぞれ、自発的に難民救助に貢献するべきだ。とはいえ、各国が結束していなければ、ダブリン協定という制度そのものが崩壊するだろうし、誰もそれを望んではいない。

swissinfo.ch : 現在、スイスの難民数は全人口の1%以下です。この割合はどのくらいまで引き上げることが可能でしょうか。

ソマルガ司法相 : スイスに難民認可の申請を行う人は年間およそ1万5000人いる。ほかのヨーロッパ諸国に比べ、これは比較的高い数字だ。さらにスイスでは、難民受け入れの際は州や市町村の都合も考慮しなければならない。こうした地方自治体が難民収容所を管理しているからだ。

難民申請の約4割がいわゆるダブリン協定に則る事例で、最初に難民申請をしたダブリン協定加盟国に送還される。北アフリカの状況を考えると、今後さらに難民申請者が増えることが予想されるが、庇護を求める人に対して必ず公平な審査が行われるよう監督することが私の使命だ。

多くの難民は高い能力や知識、意欲を有し、受け入れ国に大いに貢献している。

スイス難民援助機関(SFH/OSAR)は6月18日に行ったキャンペーンで、避難時の様子や新生活に関する逸話を紹介した。

設立75周年を記念して、スイスに住む75人の難民の顔写真を展示。

難民の逸話から明らかになるのは、受け入れ国の社会に馴染むことが難民の就職に重要だという点だ。

このキャンペーンはスイス難民援助機関、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)ジュネーブ本部、連邦司法警察省移民局(BFM/ODM)が協賛した。

2009年現在、世界中で4300万人以上が紛争や迫害から逃れるために居住地を離れている。

UNHCRによれば、そのうち2600万人が国内難民だ。

難民が一番多いのはアフガニスタン(290万人)、続いてイラク(180万人)。

難民の受け入れに積極的なのはパキスタン(170万人)続いてイランとシリア(それぞれ110万人)。

多くの難民援助団体は6月20日「世界難民の日」を機に、食料や医療品の不足が難民の命を脅かすという事実を訴えた。

2001年の国連総会で、毎年6月20日を世界難民の日とする決議が採択された。

(独語からの翻訳、鹿島田芙美)

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