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スポーツが世界を変える:オギ元スイス大統領にインタビュー

「スポーツに国境や言語の壁はありません」と語るオギ氏 Keystone

国連が制定した「スポーツと体育の国際年」である2005年も終わりに近づいている。多くの関連行事が行われたが、国連で指揮を取っていたのはスイスの元大統領、アドルフ・オギ氏だ。

オギ氏は国連事務総長の特別顧問として「開発と平和のためのスポーツ」事業を主管し、多くのプロジェクトを手がけた。2005年は終わっても、スポーツを通じて世界を変える仕事はまだこれからだ。

 スイス中部にあるドイツ語とフランス語の街、ビール/ビエンヌ(Biel/Bienne)。この街の山の景観豊かな山頂にマグリンゲン(Magglingen)はある。2004年2月、ここに政府関係者や各国のスポーツ関係者が集まり、「マグリゲン宣言」が出された。2005年を総括すると共に、今後の活動の見通しを立てるため、この12月4日から6日まで第2回マグリンゲン会議が開かれた。

swissinfo : 国連による「スポーツと体育の国際年」も今回のマグリンゲン会議で終わります。これでオギ特別顧問の仕事もひと段落ついたというところでしょうか。

アドルフ・オギ : とんでもありません。この会議は象徴的なもので、情報交換の場を提供しました。実際はこれからが勝負で、いよいよアイデアや計画を実行していく手筈が整った、ということです。

この1年を通して、人々はスポーツが、世界をより良い場所に変えていくための有効な手段だということに気がつき始めたと思います。スポーツに国境や言語の壁はありません。単なる体力作りやゲームとしての役割だけでなく、スポーツは私たちの社会でもっと大きな役割を負うべきです。

swissinfo : 1年前、この「スポーツと体育の国際年」における数々のプロジェクトによって、途上国の何百万人もの人々の生活が少しでも改善することを願っている、とおっしゃっていましたが、これはどの程度達成されたと思われますか。そもそも、スポーツを通して何百万人もの途上国の人々を救えるなんて、可能なのでしょうか。

アドルフ・オギ : 非常に多くの前進があったと思っています。例えば、「セコンド・テンポ」と呼ばれるプロジェクトでは厳しい状況にある少年少女を避難させ、医療的治療を受けさせました。画期的なのはそこでは彼らが教育とスポーツも楽しめるプログラムが組まれているということです。2005年末までに200万人の子供たちがこのプロジェクトの対象となると見込まれています。

 私は現地に実際に行って、この目でプロジェクトが非常にうまくいっていることを確認してきました。子供たちは、救出されるまでは薬物や売春、その他多くの悲惨な状況に苦しんできました。このプロジェクトは、彼らが未来に向かう大きなステップとなってくれるはずです。ちょっと大げさな言い方を敢えてしますが、彼らは地獄から救われた、と言っても良いくらいなのです。

 「スポーツと体育の国際年」にちなんで、これまで60カ国で191のプロジェクトが実施されました。多くが途上国を対象としています。これに加え、さらに約60カ国の国々が私たちに関係するプロジェクトの恩恵を間接的に受けています。何千ものプロジェクトが世界中で実施され、政治家たちも私たちの声に耳を傾けるようにさえなってきました。

swissinfo : これらの何百ものプロジェクトは後継者に受け継がれるのですか。

アドルフ・オギ : プロジェクトだけではありません。国連傘下の全ての機関は、開発や健康、教育などそれぞれの専門分野にスポーツを取り込むよう、通達されました。スポーツには多大な活用法、機会が望めると国連上層部が気がつき始めたのです。

 世界をより良い場所にするという人類の目的に対して、政治家、経営者、科学者、宗教家が成し遂げることができなかったことを、スポーツが果たすかもしれません。国連の中では、すでにこのメッセージは明確ですから、今度は国連の外で政治家やNGOやスポーツ関係者その他にこのメッセージを説得して回っているところです。

swissinfo : スポーツが人々に与える美点についてお話されましたが、例えばサッカーの国際試合で乱闘が起きるなど、スポーツが人間の醜い部分を引き出してしまうこともあります。この意味でスポーツは平和に寄与する正しい道具となるのでしょうか。

アドルフ・オギ : スイスとトルコの試合で起きたイスタンブール乱闘事件は私たちの仕事に大打撃を与えました。暴力や薬物使用、黒い資金などスポーツの持つ様々な醜い部分が目立つのは当然ですが、その下にある良い部分が大きな話題にならないのも事実です。スポーツで人は人生を経験するのです。スポーツを通して、人は勝つことや負けることを学びます。相手に敬意を払うことを学び、規律を身につけ、チームの一員になり、フェアプレイ精神や我慢を知ります。

swissinfo : 週に3時間の体育の授業を義務付けている州から、違う州に引っ越した子供たちの間で肥満率が増えていますが、これについて懸念されていますか。

アドルフ・オギ : この法令は私が主導して導入したものですが、法律は法律です。法律を守っていない州は今後問題となるでしょう。しかし、「スポーツと体育の国際年」が始まってから、「体育の時間が週3時間では多すぎる」という考え方に疑問の声が高まっています。「1日に1時間の体育の授業が必要だ」とする州さえ出てきているくらいです。ルツェルンや他の州ですでにパイロット・プランが開始されています。

 連邦議会がスポーツに関する予算を削ったのは非常に残念です。けれども私たちは来年新しいアイデアを実行に移すつもりです。肥満と運動不足は社会的問題です。一度害した健康を取り戻すのは非常に高くつきます。これについて、人々はもっと真剣に考えなければいけません。

swissinfo、アダム・ボーモント 遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳

アドルフ・オギ氏の国連特別顧問としての任期は2005年から2006年末まで。
オギ氏の国連での活動は、スイス政府が41万フラン(3800万円)を支出して賄っている。

-「マグリンゲン会議」は国連、国際スポーツ連盟、スイス連邦スポーツ局、スイス開発庁などの主催で開催される。
-「セコンド・テンポ」プロジェクトでは2005年末までに200万人の子供たちが対象となる。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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